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第7話

 三日の後に迎えに来ると残して、ルクは帰って行った。トキは一人残された店内で、本と向かい合っていた。

「私、この世界を救うことなんてできるのかな?」

 本を相手に、ポツリと呟く。ルクの前では威勢良く大口を叩いたものの、いざ一人になると、不安が込み上げてくる。

「だって、戦わなくちゃいけないんだよ? ねぇ、どうして私を選んだの……?」

 本の表紙を撫でながら、トキは段々泣きたい気持ちになってきた。自分で望んだわけでなく、戦うことを強要されるなど、考えてもみなかった。

「お店、閉めなきゃ」

 閉店時間を大分過ぎている。トキは店を閉めて、二階の住居スペースへ移動した。簡単な食事を作ったものの、なかなか喉を通らない。

 食べることは諦めて、部屋のベッドに横になった。枕元にはずっしりと重厚な魔導書が置かれている。

「寝れないよね、やっぱり」

 部屋を暗くしてしばらく経つが、一向に眠気はやってこない。トキは目を開けて、暗い部屋の中を見回した。窓から差し込む月明かりが、魔導書を照らしていた。

「……少し、読んでみようかな」

 トキはもぞもぞと動き、ベッドの上で上体を起こした。小さい明かりをつけて、魔導書を膝の上に置く。

「重いなぁ」

 ページを一枚一枚丁寧に捲る。先程の続きから読もうと、ミミズのような古代文字を追った。

「魔術師の、心得……?」

 一緒に置いてあった古代語の本を隣に並べ、それを見ながら解読を進めていく。すると、第一章の表題には「魔術師の心得」と書かれていた。

「魔術師、は、人のため、に、魔術、を、使う」

 それが、最初の一文だった。ゆっくりと、文字を間違えないように現代語に直す。そうして先を読んでいく。すると、次のようなことが書いてあることがわかった。

『魔術師たるもの、常にその行動には責任が伴う。自分が使う魔術は、何らかの影響を何かに与える。よって、私利私欲のために魔術を使わず、人のために魔術を使うこと。それが、この本を授ける者が守るべき最低限の規則である。私は、この本を受け継ぐ者は、皆規則を守り、正しく魔術を使うと信じている』

 トキは、胸が震えた。千年前の想いが時を超えて、今現代に生きているトキの元に受け継がれている。これが、本の絆。本が繋げた、千年前と今。なんて壮大で、なんて心躍るストーリーだろう。

「この本を書いた人は、本当に信じてたんだ。本を受け継ぐ人は、みんな魔術を悪用しないって。それって、すごいことだなぁ」

 人を信じることは、とても難しい。誰もが信じ、裏切られて、信じることをしなくなる。それが、段々増えてくる。しかし、この本の筆者は、信じた。魔導書の後継者のことを、信じ続けた。だからこそ、こうして千年の時を経てトキの元に魔導書がある。その奇跡のような事実に、トキは感動した。

「私は……選ばれた、んだよね。あなたに」

 本を見つめて、どんな顔をしているのかもわからない筆者に語りかける。

「私、あなたに顔向けできるように、この本を使うから。あなたが望まなかった結末なんかに、させない。私は、この本を、あなたの想いを、守るから。それが私にできる唯一のこと。あなたが本をくれたこと対する、私の感謝の気持ち」

 トキは本のページを優しく撫ぜた。絹糸の上に手を滑らせるように、そっと。

 何が書いてあるかわからない本だが、それでもトキは今、この本を読みたくて仕方なかった。どれだけ時間がかかっても、どれだけの労力を費やそうとも、魔導書を読みたかった。

 そしてトキは、時間を忘れて文字を追った。

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