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第3話

カランコロン


 ドアベルが鳴る音に顔を上げると、そこにはまたしても男が立っていた。しかし先程とは相違点がある。一つは、男がまだ若く、スーツにベージュのコートという普通の社会人のような格好をしていること。そしてもう一つは、彼の後ろには六人の男達が控えているということだ。

「邪魔する」

 トキは自分の思考が処理しきれていないことを感じながら、「いらっしゃいませ」というのも忘れ、ただ頷いた。

 現れた男はまだ若く、二十代くらいに見えた。顔立ちは整っていて、育ちのいいお坊ちゃんといった様子。青紫の髪の毛が所々目を隠しているが、隙間から見える両眼は細くて鋭かった。

 後ろに控えている男達は皆一様に紺色のコートを着て、黒い皮手袋をしていた。全員頑強そうな体つきをしており、顔には厳しい表情が浮かんでいる。

「君、その本はどうした?」

「え? ああ、これですか?」

 先頭に立っている若い男は、トキが手にしている魔導書を指差して言った。彼らはずかずかと店の中に入ってくる。狭い店内に大人が七人も入ってくると、たちまち店は満員になった。

「さっき知らない人がくれたんです」

 トキのとても危うい回答に、若い男はちっと舌打ちをした。

「どんな男だった?」

「全身真っ黒の男の人でしたよ。結構年いってる感じの」

「今からどのくらい前だ?」

「大体十分前ですね」

「よし、イサキとテッドはその男を追え。まだそう遠くには行っていないはずだ」

「はっ!」

 若い男は部下の二人にそう告げた。イサキとテッドは威勢よく返事をして、素早い動きで店を出た。雨の中を傘も差さず走っていく。

「あのぉ……どちらさまですか?」

 そこでトキはようやく尋ねることができた。何か不穏な気配が漂っているが、一体彼らは何者なのだろうか。

「申し遅れた」

 居住まいを正すために一つ咳払いをして、若い男は胸ポケットからバッジを取り出した。

「私は国際捜査局のルクという。後ろは部下だ」

「へぇ~、捜査局の方ですかぁ」

 トキはルクが出したバッジをまじまじと見た。国際捜査局というのは、世界を股にかける警察のようなもので、国や地域を超える犯罪やテロなどの捜査を担う仕事である。子供達の間では魔術師に次いで二番目に人気がある。

「何で、捜査局の方がここに?」

 ルクがバッジをしまったのを機に、トキは顔を上げて彼に問うた。一般人が一般的に生きていくだけならば、捜査局の人間と出会うことはまずない。しかもルクは、若くして部下を従えているのだから俗に言うエリートだろう。そんな偉い人間が、物々しい屈強な部下を引き連れてなぜこんな古本屋まで赴くのか。トキには理解できなかった。

「君が持っているその本に用があってきたんだ」

「この魔導書にですか?」

「そう。君はそれがどんなものか知っているか?」

「? いいえ。手書きで書かれた千年前の古い魔導書だというくらいしか」

「いいか、よく聞け」

 そこでルクはトキの目を真っ直ぐ見つめた。言ってみれば美男であるルクに見つめられたトキの心臓は一瞬ピクリと跳ね上がったが、ルクはそんなトキを無視して重大な事実を告げる。

「その魔導書には、世界を滅ぼす力がある」



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