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第15話

 トキは再び目に魔力を溜め、カエン達を探した。すると、口と鼻を手で塞いで煙の中から出てくるカエンが見えた。トキは一安心し、彼女の元へと走った。本来ならこのまま避難を続けるべきなのだろうが、今は一刻も早くカエンの元へ駆けつけたかった。このまま敵が退くとも思えない。



「トキ!」

「すみませんっ!」

 トキが古本屋に戻ると、所々に傷をつけたカエンがそれに気付いた。

「……何で謝るのよ?」

「いやだって……戦いの邪魔しちゃって……。私、カエンさんを助けなきゃって思ったんですけど、今思えば余計なお世話だったのかなと……」

 先程までは必死で思考が空回りしていたが、冷静に考えるとそう思えてくる。しどろもどろになりながら言うトキは一向に視線を合わさない。逆にカエンはそんなトキを見据えて、そして小さく笑った。

「何言ってるの。おかげで助かったわ。ありがとう、トキ」

 予想外の感謝に、トキは頬を赤らめて頷いた。

「さて」

 カエンが顔から表情を消し去り、苦虫を噛み潰したような険しい顔をしながら立ち上がろうとする二人を見た。

「トキ、もう逃げろなんて言わないわ。一緒に戦って」

「あ、はい!」

 トキの返事を聞くと、カエンは手に魔力を溜め始めた。トキもそれに倣う。

「あの娘……殺してやる」

「落ち着け、サイ。確実に殺すには冷静さが必要だ」

「わかっている、シラシス」

 サイは怒りで荒くなりつつある息を必死に抑えて、顔を歪めた。

(まずい……今のサイは冷静さを失っている。これではこちらに不利)

「はぁっ!」

「サイ!」

 飛び出したサイにシラシスが叫ぶものの、それは彼の耳に届かない。

 サイは短剣でトキに踊りかかり、その頸動脈を捉えるべく腕を振りかぶった。

「一人で突っ込んできて勝てるとでも?」

 そんなサイの短剣を素手で弾いたカエンが不敵に笑った。

「サイ! 勝手に動くな!」

 追撃をしようとサイが腕を動かした刹那、シラシスの怒号が飛んできた。サイは仕方なくその場に留まった。

「サイ、ここは一旦退くぞ」

「しかしシラシス!」

「この退却はお前の若さ故の退却。己の研鑽が足らん証拠だ」

 サイは奥歯を噛みしめ、険しい表情を見せた。しかし、シラシスから放たれている威圧的なオーラを背で感じ取り、後ろへ飛び退いた。

 サイがその場から姿を消すと、シラシスはローブのフードを被った。

「いずれまた、キニー家の当主よ」

「二度と来ないで」

 カエンの言葉には反応せず、彼もまた姿を消した。

 敵の二人がいなくなり、静かになった古本屋の屋上でカエンはようやく深く息を吐き出した。

「ふわっ!」

 カエンが安堵している隣で、トキの声が上がった。横を見ると、どうやら今頃腰が抜けて尻餅をついたらしい。

「トキ、お疲れ様。ありがとう」

 カエンがトキに手を差し伸べると、トキは強張っていた筋肉をようやく弛緩させ、手を握り返した。

「こちらこそありがとうございました、カエンさん」

 トキが微笑みながら言うと、カエンは若干驚いた表情をした。

「どうしたんですか?」

 トキが不思議そうに聞くと、カエンは小さく笑った。

「……初めて目を見て話したわね」

「えっ! あ、えと……その、すみません……!」

 顔を赤らめて俯くトキに、カエンはまた笑って、空を見上げながら呟いた。

「家の中に入ろうか」

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