第12話
サイの目が驚きで見開かれた。
「なん、だ……これは」
サイだけではない。シラシスも、カエンでさえ目を丸くしている。トキだけがぎゅっと目を閉じている状態だ。
「あ、れ……?」
いつまでもやってこない痛みに、トキが目を開けた。すると、目の前が黄色いベールに包まれているのがわかった。恐る恐る首元に目をやると、サイの短剣が首の手前でそのベールに止められていた。そのベールはまるで鋼鉄のように、剣の切っ先をブロックしていた。
「ふわぁ……」
トキが声にならない声を漏らすと、我に返ったカエンが大きな声で指示を出した。
「トキ、すぐにここから逃げて!」
「えっ」
「早く!」
「あ、はいっ!」
カエンの声に緊迫を感じ取ったトキはすぐさま立ち上がり、階下へと続く階段に向かって走り出した。
「ちっ」
サイが舌打ちをしてトキの後を追う。しかし、目の前にカエンが現れる。
「あの子は、本は、渡さない」
頭一つ分大きいサイを睨みつけながら、カエンははっきりと言った。
「……私達二人を相手にできるつもりか?」
「あなた達二人ごとき相手にできなきゃ、キニー家の当主は務まらない」
赤い口紅が曲線を描くと、サイは戦闘体制をとった。