第11話
「よし、じゃあ最初の魔術を教えるわね」
古本屋の屋上で、カエンがトキに魔術の指南をしていた。カエンは遠く離れたところにジュースの空き缶を並べて、トキの横に戻った。
「何するんですか?」
「まずは基本中の基本。昨日魔力を溜めたでしょ?」
「はい」
「あれを手に溜める。手を前に出して、手の平に魔力を溜める。見て」
カエンが実践してみる。すると、彼女の右手に光が集まって小さいボールのようになった。
「この光のボールになったのが魔力。これが引っ張られて飛んで行くイメージで、放つ。そうすると」
カエンが先ほど並べた空き缶に狙いを定め、魔力を放つ。すると、それは六十キロくらいのスピードで真っ直ぐ飛び、空き缶に当たった。缶は高い音を立てて宙に舞い、ひしゃげて地面に転がった。
「段々慣れてくると、もっとスピードを速くしたり、威力を大きくできる。最初は小さなボールでいいから、手に魔力を集中させて放つことを練習しましょう」
「わかりましたっ!」
トキは魔導書を体と腕で挟み込むように持ち、右手を自由にさせた。それを空き缶に向けて、自分は目を閉じる。精神を集中させて、魔力を溜める。それを手に移動させるようなイメージを描き、目を開ける。手には野球のボールほどの魔力が溜まっていた。
「おおぅ」
トキが素のリアクションで驚くと、魔力は消えた。手には何もない。
「あれ?」
「ああ、精神が乱れたせいで魔力が拡散しちゃったわね。まずは集中よ」
「あはは……。よし、もう一回」
今度はちゃんと集中しようと心に決めて、トキは再び精神を集中した。
(この魔力を、放つ!)
目を開けて、魔力を飛ばす。それは時速四十キロほどのスピードで進み、空き缶に当たって消えた。
「できた!」
「すごいじゃない。いきなりできるなんて……。あなた、やっぱり才能あるわ。この調子でがんばりましょう」
「はい!」
満面の笑顔を顔に浮かべ、トキは頷いた。その時。
「トキ! 離れて!」
「え?」
カエンが急に叫び、トキを突き飛ばす。トキは何のことかわからずに尻餅をついた。その瞬間、先程のボールを何十倍にもしたような大きさの魔力の塊が飛んできた。カエンはそれに対し、自分も大きな魔力を放った。空中で魔力同士がぶつかり、爆発音を立てて消えた。
「来たわね……」
「え? え!?」
混乱するトキを守るように立ったカエンは、向かいの建物の屋上に立つ黒いローブの男を睨みつけた。
「あいつらがその魔導書を狙ってる敵よ! トキ、本を奪われないように注意して!」
「は、はいっ!」
トキは立ち上がり、両手でしっかりと本を抱えた。
「思ったより早かったわね、シラシス」
「俺の名前を知っているとはさすがだな、キニー家の当主よ」
シラシスがフードを脱ぎ、オレンジ色の髪の毛を露わにする。
「あなた一人で来るなんて、なかなか余裕じゃない」
「カエン・キニーよ、俺は一人で来たと一言も言った覚えはないが?」
「!」
カエンが後ろを振り返る。すると、短剣を持ったもう一人の男ーサイーがトキに踊りかかるところだった。
「きゃ!」
トキを倒し、腕を抑えて短剣を振り下ろす。それは彼女の喉に吸い込まれるように線を描いた。
「トキッ!」
カエンの叫びが、空に響いた。