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Really?  作者: なち
続編
16/20

Really!? 02



 大体、好きって何なんだろう――。


 ……なんて、恋愛に置いて初歩的過ぎる問い掛けを、あたしは最近、繰り返している。

 今までのあたしは、そんな事を一々考えた事なんて無い。好みのタイプの草食系男子が居たら、すぐさまアタックしていたのだ。でもだからって付き合った数に比例するように、アタックした数もそう多くないから、別にガツガツしていると思われたくは無い。

 肉食系だ何だ言われたって、それはスタンスの問題。恋人なんて居なくても人生楽しいし、無ければ無いで困らない。

 ただ、合コンだけは数え切れない程参加した。イイ出会いがあれば勿論付き合う事に吝かでは無いけど、何度も言うように付き合った数と同じだけの出会いしか無かった。草食系が多いなんて言われる昨今だけど、あたしの門戸は狭いのだ。

 まあだからそういう理由で、あたしが付き合ってきた相手は、全員同じ。年上で笑顔が可愛くて、控え目で、じれったい感じ。最近、昔は嫌だった眼鏡っていうアイテムがあるとグっとくる。

 彼らが好きだったかって言われれば勿論好きだったし、別れる時は沈みもするさ。

 けれど振られた相手に再アタックするとか、それでも諦めないとか、長々と引き摺った事なんて無い。

 考えてみると自分のコンプレックスを刺激されてヘコみはするけど、相手に対してどうのこうのっていう感情を抱いた事は無かった。別れた後、友達として付き合っていくのだって何の蟠りもない。

 でもじゃあ、恋人は誰でもいいかって聞かれればそうじゃない。付き合うとなればその延長にキスやエッチなんてものもついてくるわけだし。そういう事が出来る相手は、極一部。そんな想像が出来る相手なら、彼氏候補として好きなんだろう――そんな程度の気がして来た。

 哲也のように誰彼構わず、という人もいるのだろうけど、あたしには無理だ。

 だからちゃんと、歴代の彼氏は好きだった、筈だ。

 筈だ、なんて曖昧な答えに行き着くのは、目の前に居る男に、まあなんていうか――落胆しているからだろうか。


 現実逃避をしている場合じゃない。

 今の状況を説明すると、つまりこういう事になる。

『修羅場』

 あたしが望んだわけじゃないし、もうむしろ、今更?

 何で半年も前に別れた――それもあたしを振った男と、その現役の彼女と三人で、昼下がりの長閑なカフェの一角で、顔を突き合わさなければいけないのか。

 生活圏内が被っているんだから、どこかのお店でバッタリなんて事があっておかしくない。実際そんな事があったら、笑って手を振ってやれるくらいの肝はあったよ。

 でもそれが、そんな事すら忘れ去った半年後なんて、どういう神様の悪戯なんだ。

 久し振りの休日で、買い物に出て。本屋になんか寄ってみたら買いそびれていた文庫本を見つけてしまって。調度小腹も空いていたし、と目に留まったカフェで本を開いてみたりなんかして。

 次第に込みだした店内で文庫本に一区切りをつけ、最後の一杯とコーヒーを頼んだ矢先。思い出の中に沈みかかっていたカップルに遭遇してしまったわけだ。

 そうして彼女の方は、あたしに会ったから、というわけでも無さそうな若干の不機嫌顔。

 そのわけが如実に分かってしまった。男が手に乗せたトレーには、軽食と二つのグラス。その体で店内を彷徨ったものの、空席が見つからなかったのだろう。

 目が合ってしまったものだから、何とも気まずいままに会釈を交わして――男が困ったように笑うから、思わず手を差し伸べてしまったっていうわけ。

 別に何の下心も無い、親切心。

 あたしは四人席を一人で使っていたわけで、コーヒーも、もう3口の所だったわけで――。

「あたしもう行くから、ここ座ったら?」

 大人だもの。数分の相席くらい許してくれるだろうと思った。

 まあ今となっては、3口のコーヒーだって勿体無いなんて働いた思考を丸めて固めて弾き飛ばしたいけど。

 なわけだから、ありがたく思って座れ。そして数分こちらを無視して、思う存分いちゃついてくれて構わないから。

 相変らずほわりと可愛らしい彼女も、そこは正妻の意地? 緩やかに笑って「ありがとうございます」なんて余裕を作ってくれちゃって――女の確執っていうのは時が解決しやしない、と男は知らなかったのだろうな。

 そういう、ちょっとボケた所も好きだったんだよ、うん。

 だけど何を勘違いしたのか、こちとら親しい友人では無いのだ。

 明らかにほっと胸を撫で下ろした男は「そういえば」とこちらを見ながら話しかけてきたのだ。

「あのさ、みさちゃんが買ってくれたあの香水、普通の店では置いてないの?」

 その瞬間、空気が凍りつく音が確かにした。あたしと彼女の間では、それがパリンと割れた音までしたさ。

 その台詞に思わず固まっちゃったのは、別に意味が通じなかったわけじゃない。

 何爆弾投下してくれてんだ、という話だったのだ。

「あの、みさちゃんが誕生日にくれたやつさ? あれ、すごく好きで新しく買いたいんだけど、あんま店で見かけないから」

 ああ、違う。爆弾じゃないや地雷踏んでるんだ。しかも、連鎖反応で次々に爆発してる。

 それこそ店員にでも聞けば、分かる。取り寄せてくれる店だってあるだろう。しかしそれをしないのが、この男だ。何ていうのかな。そんな事で店員を煩わせるなんて、とかという間違った謙虚さを発揮するのだ。それが店員の仕事なんだから聞いて来い、と思えるそんな態度が、当時はかいぐりたい程可愛く見えた。 ついでに言えばこのネット社会、労せず手に出来るくらいの香水でしたよ、悪いけど!

「あーネットで買ったから。検索してみたら?」

 昔の事だし、覚えていないのもあるし、わざわざ購入したオンラインショップの名前まで教えない。

 っていうか、香水ねぇ。俺色に染まれ! みたいな意味であげたんだっけなぁ、確か。

「あーそっか、そうだよね。毎日つけてるからさ、幾つかストックしておきたいんだよね」

 世間話にしても、元カノと今カノの間でその話は無いわー。こちらへの遠慮で良く言ってるのかもしれないけど、手放しで褒めるとか、空気が読めないとしか言えない。

 どこまでボケ倒す気だ、この野郎。

 隣の彼女の表情が険しくなっていくのに気が付いて欲しい。

 でもそんな事をあたしが指摘したら、益々彼女の逆鱗に触れてしまうだろう。

 ひとり場違いに朗らかな声を出す男と、沈黙する女と、素っ気無い女。別に雰囲気としては、悪くない筈だ。そんな人目を引く事態でも無い。

 でもだからこそ、やり過ごしがたい修羅場の空気。

「あ、そう。じゃ、あたしもうコーヒー飲み終わったから、出るね。ごゆっくり」

 これはもう早々に退散するに限ると、残った3口を飲み下し、あたしは席を立つ。

 やばい、どうしよう。今更未練も何も最初から無かったけど、あたし、何でこの男と付き合ってたんだ。

 そんな落胆に追い討ちをかける、のほほんとした、マイナスイオンでも出てそうな声。

「そっか、せっかく会えたのに残念だね」

 せっかくも何も!! 空笑いを返すだけで精一杯だ!!


 昔の同僚に連れて行ってもらった合コン。別段彼氏が欲しいとは思って居なかった。楽しく飲めればそれでいいや、って。

 なのにやたら張り切る他のメンツの中で、彼は、明らかに数合わせという、戸惑いに満ちた様子で席に居た。率先して話かけて来ない、むしろどうしているのという位の場違いさ。その何とも居心地が悪そうな様子が、あたしの母性本能というやつをクリーンヒットした。

 年相応に着慣れた感があるスーツと縁の細い眼鏡は、職場に居ればそこそこ仕事が出来そうで。聞いたらそれなりに優秀な営業マンだっていうから、面白い。同僚であるという他のメンツは、成程営業らしいトークの巧さで会話を回していたのに、彼だけは一人のんびり。

 途中からはあたしを女と見なさなくなったメンツの中――焼酎かっくらってバカ笑いしていたあたしもあたしだけど――彼だけは、ずっと変らずに、あたしを女扱いしてくれたっけ。

 帰り際に無理矢理聞きだした連絡先。拙いメールのやり取りが、次第に親しんだものに変わって。何だか素っ気無い動物をてなづけていくような、そんな充足感を味わったっけ。

 付き合ってからも中々手を出してこない彼に、焦らされてる瞬間が、もう、何かたまらなくツボだった。

 何だろうな、あれって。

 中高生じゃあるまいに、恋に恋していたっていうかさ。

 

 付き合っていた当時は彼の事を悪く思った事なんて無いし、本当に一つも目につかなかった。その全てが魅力だった。

 でも、何だろうな。

 最近、合コンに行っても、好みの草食系に食指が動かないのは。


 違い、を知ってしまったからかな。





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