エピローグ
左右には南陽の文官武官、その中でも有名な人物ばかりが顔を並べていた。
甘寧将軍や黄蓋将軍等の武官の方々。陸遜様や魯粛様等の文官の方々――――ちびりそうなぐらい凄然とした顔ぶれだ。
だけど俺は大広間に敷かれた滑らかな赤い絨毯の上を胸を張って歩く。いつもの装備を身に着けて、一歩一歩を堂々と踏みしめる。骨折のちくちくする痛みは気にするほどじゃない。
縮こまっていたら隊のみんなに顔向けできないもんな。
向かう先は背もたれや椅子に“華”の装飾が施された王座。
数段ある階段の上に位置するそこまでのぼってはいけないので、階段の手前で若干の距離的余裕を持って立ち止まる。
そして王座に座するは俺たちの王様――――孫策様だ。
その脇には二人の女性が直立していた。そのうちの一人、王座の横にびしっと直立していた周瑜様が一歩前に出てきた。
「太史慈 子義」
俺の名が広間に響く。親から貰った大切な俺の名前。
「はい!」
目一杯の返事と、力を入れた瞳でもって応える。
これに周瑜様は満足そうに口元を緩ませた。
「もう耳にしていると思うが、お前の昇進が決まっている。呂布を退けたその卓越した武を、我らが主――孫策様のもとで振るってはくれないか」
「難しいことをしろってわけじゃないわ。初めから将軍の補佐をするわけじゃないし、部隊の指揮をするでもない。役職的には将軍見習いってところね」
孫策様の軽い調子での補足が入ると周瑜様は元の位置へ退いた。
青い瞳。
あの方の瞳と同じ色、それでいてまた別の光が俺に向けられた。
「その力を私の為に磨いて、私の為に使って頂戴。どうかしら?」
傲慢にも取れる内容だったが、その声から嫌な感じは全くしなかった。
不思議な感覚だ。
軽い調子に聞こえるのに、その命令からは心臓を揺さぶるような感覚を覚えた。
もちろん、答えは決まっている。
「はい。謹んでお受けいたします」
自分で考えて、自分で導き出した答え。
両手の指同士を絡めて頭を下げると共に両膝を絨毯に立てる。――というのが正式な礼だった。
左腕が折れてるから右腕だけをその形にして後は形通り。
この任官式の前、文官の方から指導を受けた臣下の礼の形だ。これで合ってるよな……。
「期待しているわよ、子義」
「はい!」
張さん。万修。李尋。李和。黄寛隊長に隊のみんな。
すみませんでした。
ありがとうございました。
俺はまだ戦います。
「太史慈 子義」
これから先どんな困難に直面しても、自分の信念を――。
「まだまだ未熟者ですが、誠心誠意仕えさせていただきます」
本当の覚悟を持てるように強くなってみせます。
「どうか、よろしくお願いします!!」
そして呂布にだって勝ってみせます。
だから――――ほんの少しだけ勇気を分けてください。
――――もう一つだけ誓っておこう。
孫策様の隣りにいる一人の女性と目が合う。
青く、深い瞳だった。
「私も期待させてくれ、太史慈」
柔らかく、太陽の温かみを秘めた瞳。
「ありがとうございます!」
いつか、あの方の助けになれるぐらい強くなってみせる。