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天の采配


 呂布は困惑していた。

 甘寧にとどめを刺そうと振りかぶった一撃。それを防いだ少年に。

 防いだことにではなく、一騎打ちの場に割り込んできた破天荒な様に困惑していた。


 呂布は戸惑っていた。

 みぞおちに抜き手、後頭部には脳を揺さぶる一撃を与えたにもかかわらず立ち上がった少年に。 

 子供というだけで、呂布が手加減していたのは否めない。否めないとはいえ致命打を与えられない上、追撃は剣を砕くだけに終わり、攻撃はそのほんどを躱されている。

 少年の見た目の矮小さに反するしぶとさに、呂布は戸惑いを覚えていた。


 今もそうだ。

 呂布の戟は空を切り、後退していく少年――太史慈はぴんぴんしている。


「なんで……」


 戟が空を切ったのか。呂布は答えを知りながらもある種の疑念を抱いた。

 戟を受け流した太史慈の技は、華雄や張遼となんら遜色ない高度な技術という印象を呂布に与えていた。その後の追撃は稚拙な大振りに終わったが、その技術的な落差がかえって呂布に混迷をもたらしていた。

 けれどもそれらを超える最大の要因は――。


「また……来る」


 武器を砕き、体に痛みを刻み付けてもなお向かって来る太史慈。

 その小さく脆い光を持つ瞳が、呂布を困惑させていた。




第三十九話 天の采配




 向かって来る太史慈の姿を吹雪が包み込む。


 呂布に吹き付ける突風は、太史慈が蹴り上げた雪を吹雪へと変えていた。

 それのみか薄黒い雲は晴れない。呂布の目は暗い白の煙幕に覆われていた。視界が開けたと思ったらのそれである。


「……ふぅ」


 呂布は狼狽えない。

 狼狽えることに意味はないと本能で知っているからだ。


 肌で感じる敵意は、正面から真っ直ぐ向かってきている。

 呂布は悠然と立ち尽くし、その到着を待つ。太史慈の足音はまだ届いていない。




 考えようによっては打って出るべきという選択肢もあった。

 呂布が動けば、太史慈がその位置を捉えるのは難しくなる。加えて先手を取れる可能性が格段に高くなるというものだが、呂布は堂々と正面から迎え撃つことを選択した。

 理由は三つ。

 

 まず第一に太史慈の動きを捉えられる利点がある。

 先の攻防では呂布の動きに対応していた太史慈。その素早さは小柄な体躯も相まって、自身に匹敵するものだと呂布は考えていた。その動きを完璧に捉えるなら後手に回るのも悪くはない。


 第二に反撃の利点がある。

 受け流しの技術は素晴らしく高いが、躱す際の体捌きは悪く言えば野生のそれ。攻撃に関する動作もてんでお粗末ときた。とくれば攻撃を誘い、反撃に徹した方が勝算は高くなる。


 第三に太史慈が何をしてくるのか、単純に興味があった。

 泥の投擲。両手に剣。あるいは剣を軸にしての跳躍――武人と呼ばれる人間が行う技術的な強みや、野生的な能力頼みの身のこなしとは違う強みを持っている。呂布はそう感じ取っていた。

 決闘、仕合――数多く経験してきたその中には呂布に張り合える者もいたが、あくまで上っ面だけ。人との戦いで命を差し出すようなやり取りを、呂布は未だかつて経験したことが無い。呂布の超人的な身体能力と、身に着けてきた数々の技術。同じ土俵で戦ったなら、それに張り合えるものなど“個”ではあり得ないからだ。


 戦友、張遼が嬉々として語る“命を燃やす戦い”というもの。呂布はそれを経験してみたかった。幼い好奇心がそうさせていた。遊び心からなのかもしれない。

 武人と言う枠組みに当てはまらない、野生とは異なる知性を携えた少年、太史慈ならもしかしたら――――。

 これが迎撃を選択する理由の大半を占めていたことに呂布は気づかない。


 呂布は徹底した迎撃を選択した。


 煙幕の中、突風に混じった異質な風切り音に感づく。正面から僅かな囁き。

 呂布は飛来する剣をあえて弾いた。自らの場を太史慈に教えるためだ。


 ――――来る。


 呂布は心を構える。身ではなく心を構えた。

 視覚で吹雪の流れの違和感を、聴覚で足音や風切り音を、嗅覚で血の臭いを――太史慈の動きを捉えるための静的な集中。

 筋肉は脱力。構えは無い。

 力みは速度の妨げとなる。柔軟な対応は軽い脱力から生まれるというもの。


 呂布は完全に迎撃の体勢に入っていた――。




 この時、呂布を中心とする戦場の遥か上空で、半ば偶然、半ば必然的な変化が起きていた。


 予兆はあった。

 太史慈の背後から吹き、呂布の正面へと吹き付けた突風の――上空の気流。

 それが上空を漂う黒々とした雲に一点、見上げた月ほどの小さな穴をじ開けた。

 厚い雲にできた些細な切れ目は、隠し続けてきた光の源を抑えきれない。


 暗雲に身を潜めていた太陽。その眼差しが地上へと振り注ぐ。


 誰もが予想し得なかった天の悪戯であった。

 どちらか一方にとっては勝利への、どちらか一方へは敗北への道筋。


 地上へと伸びる光の道が――。




 勝利者を祝福するかのように、二人の戦いの場へと降り注いだ。

 舞い上がる粉雪。その一粒一粒が鏡のように光を反射し、強烈な閃光となって呂布の視界を埋め尽くす。 

 呂布は反射的に手をかざしたが、光はとうに網膜へと行き届いていた。

 

 暗がりに差し込んだ日の輝き。雪による乱反射の閃光。


 迎撃のための専心と人間離れした鋭敏な感覚器官が災いした。

 僅かな吹雪の揺らぎをも見逃すまいと目を凝らしていた状態への閃光。それが呂布の視神経を伝い、脳を一時的な麻痺状態へと陥れた。指令部の麻痺は当然末端へも及ぶ。

 

 直後、呂布の聴覚が辛うじて捉えた風切り音。方向は正面。

 呂布はそれ目掛けて戟を振った。

 肉体の反射が行ったそれは飛来した鞘を弾きとばした。が、呂布は戟を引きもどすという行動に至れない。


「うおおおォああぁぁー!!」


 畳みかけるような咆哮が呂布を襲う。

 それは太史慈の狙い通り、呂布の身体に驚愕という名の硬直をもたらした。


 呂布の心臓が跳ねる。 


 されど、心に焦りはない。

 呂布は肉体の反射を抑えつけ、無理やり瞼を抉じ開ける。

 薄っすら開いた視界は白。目に映るものはそのことごとくが光にぼやけている。視力は回復しきっていない。


「あああぁぁぁ!!」


 ――敵が迫っている。

 瞳を動かす。どこへ動かしても視界は相変わらずの白。わかっていても敵影は捉えられない。太史慈の足音は声に消され、雄叫びは風と共に渦巻く。





 天は、太史慈に味方していた。

 天の時も地の利も、太史慈に味方していたのだ。

  



 呂布の視界に、降り注ぐ光とは真逆のそれが映るまでは――。

 青天の霹靂とでもいうべきその存在に、太史慈は気づいていない。


 閃光の中、呂布は視界の斜め下方で揺れる黒い光を捉えた。周囲の“白”と明確な対比を持つ異質な光。

 その向こうに、何かがいる。


 ――敵。


 呂布の視力は戻っていない。

 だが、黒い光の先に太史慈がいる。五感とは別の本能的な感覚に、呂布は足を振り上げる。


 軸足を置き、目元を覆っていた腕を引いて、腰の捻りを威力に変える。

 中段目掛けた横薙ぎの蹴り。

 

 ただの蹴りと侮ることなかれ。

 これらの動作は傍から見たらほんの一瞬。生命の危機に瀕して極限の集中状態であった太史慈でさえ捉えきれぬ動作で放たれた全身全霊の一撃。

 黒い光目掛けて繰り出されてそれが――。


「     !!」


 言葉で言い表せない絶叫を轟かせた。

 太史慈の悲鳴。脛から上がってくる不規則な破砕の微振動――呂布は軸足を一層固め、何もかも巻き込む勢いで脚を振り切った。


 閃光が吹き飛ぶ。 

 脛から重量が離れていく感覚。蹴り飛ばした太史慈の体が車輪のように回転していく。


 呂布は足を地につける。

 回復した視力。舞い上がった雪の残滓が呂布の視界に残った。


 ――……倒した?


 手ごたえはあったが、絶命には至っていない。


 ――――立ち上がるかもしれない。


 その疑念は呂布に気の緩みを与えない。警戒心を足取りに込めて、呂布は雪の標を追う。




 抉れた地面が続く。

 呂布の攻撃の爪痕とでもいうべきだろうか。雪は吹き飛ばされ、泥は深く抉り取られている。その両脇には土がさも畑のうねのように盛り上がり、太史慈の肉体のありかを示していた。

 戟の切っ先についた血の臭いと同じ香りを辿り行きついた先には、呂布が目を見開く事態が待ち構えていた。


 眼の前の少年――太史慈は立ち上がっていた。足は震えながらも、しっかり自重を支えている。

 

「いッてぇ……」


 更にあろうことか武器を構えた。震える右腕は湾刀を固く握りしめている。


 しなだれている左腕。粉砕とまではいかないが疑う余地も無く折れている。

 隙間風のようなどこから漏れているかもわからない細い呼吸。乱れたそれは闘える状態でないことを物語っている。

 目の焦点は合わない。当然だ。それだけの損害は与えている。


 だというのに太史慈の瞳は戦意を宿したまま――。


「どうして……」


 立ち上がれるのか。戦おうとするのか。肉体は限界のはずなのに……。

 ほぼ無意識に伸びる手は、太史慈の胸を押していた。

 呂布はそれが自身の憶測でないことを知る。

 

「――かッ!」


 呂布からしたら触れただけ。だというのに太史慈は体勢を崩し、挙句尻もちをついた。

 その口から漏れたのは殺し損ねた苦悶の声。吐き出した唾液には赤が混じっていた。握力も尽きたのか、握られていた湾刀は呂布の足元に沈む。


 これで武器は無い。戦えない。


 ――――……どうする?


 呂布は太史慈を眺める。

 まだ向かって来るのか。まだ立ち上がれるのか。

 胸の内、密かに息づく好奇心から呂布は手を出さない。

 

 視線の先。強気な顔を苦痛に歪め、期待に応えるように太史慈は右腕を振り上げた。

 威嚇のつもりとも思えたが、その表情から活力が失われていく。指は震えながらも、まるで手の中を確かめるように小刻みに握りを繰り返していた。

 武器を落としたことすら感知できなかった神経の鈍り。

  

「ちくしょう…………!」


 太史慈の目に涙があふれる。

 声を殺しながらも溢れ出る涙を止められない姿は、まさしく子供そのものだった。

 立ち上がれるような、ましてや戦える状態でないことは明白となった。



 呂布は決して小さくない落胆に似た鼓動の衰えとともに、道に迷う幼子に向ける憐れみの気持ちに困惑していた。



 呂布に下された命令は一つ。

 “孫策の軍勢、その孤立した前線部隊に壊滅的な損害を与えること”。

 この時すでに呂布と配下の騎馬隊は甘寧隊、黄寛隊に瀕死とも言える損害を与えていた。加えて――呂布の耳には届いていないが――炎上する雲梯方面へ逃亡していく軍勢にも指揮系統を混乱に追い込むまでの被害をもたらした。

 呂布が知るだけでも、命令通りの戦果をあげたと考えて良い。


 然らば、子供ひとり見逃しても命令に支障はない。

 困惑の感覚に、呂布が自身の内で折り合いつけ終えた頃だった。


 呂布は燃えるような敵意に感づく。

 突然の出現。出所は限りなく近い。


 ――――まさか!?


 再びの困惑と鼓動の高まり。呂布は意識を集中する。

 

 尻もちをついたままの太史慈。涙が滲むその瞳には確かな力が戻っていた。

 呂布が目を離していたわけではない。だが太史慈の瞳の転換、その一瞬を察することができなかった。


 太史慈の唇から牙が覗く。

 

「お前なんかが、俺を……殺せるもんかァ!」 

 

 言葉の裏に隠れた震えは強がりなのか、呂布にはわからない。


 ――どうしてそうまで戦おうとするの?


 鼓動の高まりの理由すら呂布にはわからない。彼女もまた大人というには幼かった。

 疑念と高鳴り渦巻く不思議な感覚。呂布は太史慈から目を離せなかった。離したくなかった。


 視線を途切れさせたのは、ごくごく小さな薄鈍い風切り音。

 音から察する形状は棒状の物。鋭利な刃ではない。 

 呂布はそれ――飛来する鞘を視界に捉え、戟で弾いた。太史慈のものに比べ、威力のない投擲物。 

 

「いやあァァ!!」


 後続として雄叫びが迫る。

 坊主頭に孫策軍の装備――呂布の敵だった。

 

 その瞬間、呂布の足もとで泥が跳ねた。呂布は視線だけを下に向ける。

 足もとに伸びる手。太史慈が前のめりに接近してくる。狙いは湾刀だと呂布は即座に理解できた。


 立ち上がれもしないのに接近してきたその軽率さは、呂布の胸の高鳴りに水を差すされたような鎮火をもたらした。 

 呂布は湾刀に飛びつこうとした太史慈を戟の柄で突き離す。それ以上は必要ないとしての軽い殴打。


「――――かッ!!」


 頭からひっくり返る太史慈、口からは悲鳴にもなれない空気の排出。


 激痛で呼吸もままならないはず。

 呂布は坊主頭の敵――張豊へと目を向ける。突進の速度は鈍い。 


 太史慈の瞳に力が戻ったのは向かって来る坊主頭の男のせいか。

 張豊の見計らったような登場に抱いた呂布の見解は――事実とは異なるが――至当であった。そこから呂布が導き出したのは一つ。

 太史慈が見ている前で張豊に勝利すること。最後の希望に勝利することで、太史慈の戦意を完全に挫くことができると直感しての終着点であった。


 呂布は足を引いて半身の状態、戟の切っ先を張豊へ向けた。速度と間合いを重視した突きの構え。

 

「あああぁぁ!!」


 張豊に目立った動きは無い。何の変哲もない単なる突進だ。

 呂布は接近してくる張豊の、その胸へと照準を合わせる。


「ああああッー!!」


 刃を向けられているのに、張豊に怯んだ様子はない。

 発するはその身を火に変えるが如き決死の絶叫。青白い表情に浮かぶのは代償ともいうべき死相。


 それは呂布の経験したことのない形相であった。

 恐慌や諦観、呂布はそういった後ろ向きな特攻を数えきれない程相手にしてきた。

 眼の前の男はそのどれにも当てはまらない。武人の前向きなものとも違う、呂布にとっては奇怪な瞳――。




 張豊の無謀とも思える特攻は、呂布の反応を一手遅らせた。




 呂布の心にできた精神的揺らぎ。それは呂布自らの手足ともいえる戟、その間合い感覚に微小な狂いを与えた。

 突きの間合いの内へ、ほんの一歩――たかが一歩だけ深く入り込まれた張豊に対し、呂布は急いて戟を突き出す。


「     !!」


 下馬評通り、呂布の戟は張豊の肉体を貫いた。

 ……が、手元の狂いは思いのほか大きい。


 ――――外した。


 呂布の頬に、生涯で数えるほどしかなかった冷たい汗が伝う。

 張豊の胸の中心を貫くはずだった刃は心臓を大きく外れ、右肺うはいへとめり込んでいた。

 すぐに戟を引き戻す。


「今度は――」


 外さない。

 呂布は踏み出す。戟を手の中で回転させ、倒れ込む張豊の背を見下ろせる位置へ。

 切っ先を敵――張豊の胸部、その中心地目掛けて。握りは固く、軋むほど奥歯を噛み締めて。


「ふっ……!」


 赤いまなこで戟を振り下ろした。

 鎧も、筋肉も、骨も。刃で叩き潰すかの如き鬼気迫る一撃。

 死に体同前の相手に振り下ろすべきではないキレた一撃が、張豊の心臓を打ち貫く。




 地面に縫い付けた肉体から流れ出る命の水。

 刃を抜くでもなく流れ出る血。




 呂布の心は酷い虚脱感に支配されていた。

 刃の乱れは突き刺した相手に苦痛をもたらす。苦痛を与えないとするのは、敵を倒すことを生業とする呂布にとっての唯一の信条であった。


 反応が遅れたからの焦りなのか、奇怪な瞳をした敵に困惑したのか、それとも――。 

 呂布には、わからない。

 

「うあああぁぁぁぁああぁぁ!!」


 絶叫が呂布を我に返す。 

 地面にへたり込む太史慈の傷だらけの顔は、呂布の瞳に血の涙を流しているように映った。

 戦意は恐慌に、光は虚ろへと陥っている。


 ――勝利。

 それは決定的であったが、呂布にはその実感がまるで湧かない。


「呂布将軍。孫策の援軍が迫っております」


 見計らっての高順の報告に呂布は耳を澄ます。

 金属が小刻みにぶつかり合う音。泥が跳ねる靴音。勇ましい軍気の猛りが呂布の感覚に迫ってくる。


 先の通り、命令は完遂したも同然。ここに留まり、迎撃する意味は感じられないとして呂布は口を開く。


「後退する」

「あの無礼者はどうされますか」


 高順は宙を彷徨う放心状態の太史慈を指さし、剣を抜いた。

 生かしておく気はない。そう告げているようだ。


 もちろん、呂布の考えは変わらない。


「……あのままでいい」


 心は泥のように、体は砂を詰め込まれたように重い。

 呂布は素っ気なく一言だけ告げると、愛馬のもとへと足を進める。


「……ん」


 短い道中、抉れた地面の中に黒い光が煌めいた。呂布を救ったあの光だ。

 呂布は泥にまみれたそれを手に取り、汚れを服で拭った。呂布の側近である陳宮が見繕った高価な装束であったが、呂布には関係のないこと。


「綺麗」


 黒い宝石のような首飾りは、呂布の意識を呑み込むような輝きを秘めていた。

 黒曜石の首飾り。

 自らの物としたい衝動を抑え込んだのは、この持ち手を察した呂布の理性であった。

 太史慈の物だと。

 

「…………残念」


 人の物を盗ってはならない。

 眼鏡をかけた自軍の軍師からのいいつけであったし、そんな気分にもなれなかった。

 呂布は首飾りを傷つけないように太史慈に向けて放り、赤い毛並の馬――赤兎馬に飛び乗った。


 呂布は中央へ目を向ける。

 老兵ばかりの袁紹、袁術軍は死体の山となり、中央を攻める張遼の軍勢もすでに撤退を開始している。左右両翼を攻める部隊にも連合の援軍が迫る頃合だ。




 呂布はほぼ無傷の部隊を率いて砦に凱旋する。

 誰の目にも明らかな勝利者の胸中を知る者は誰一人としていない。

 胸に抱えた言い知れぬ疼きは、本人ですら理解できないのだから……。






 これから数日の後、呂布は劉備ら三姉妹によって虎牢関より敗走することとなる。

 その武功は瞬く間に大陸中に広がっていくのだが――――太史慈がそれを知るのは、これより幾ばくかの時が過ぎてからであった。




 

 






 呂布さんの性格は原作とは異なると思われますが、成長過程として楽しんでもらえると嬉しいです。

 次回も早めに!

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