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世界を救った勇者さま

作者: 月見ココア






むかし、むかし、アルタスと名付けられた世界は戦乱のなかにありました。


アルタスには人間と魔族、エルフにドワーフ、獣人、竜人など


他にも多種多様な種族が生きていましたがそれぞれの仲が悪く争いが絶えませんでした。



「ああ、なんていうことでしょう。

 どうしてお前たちは争ってばかり。これではアルタスが壊れてしまう」



世界の、そしてすべての種族の母である女神様は悲しみました。


泣いて、泣いて、泣いて、悲しんだ女神さまの涙で大河が生まれるほどに。


けれど女神様は悲しむばかりではありません。


泣きながら、どうすればこの争いが終わるか考えました。


この暗き闇のような終わらない戦乱を終わらす方法を。



「そうだ、人間たちが作った書物にはたしかこのような時にはユウシャが現れると……」



女神様はすべての種族を愛していましたが、人間たちが作る物語が大好きでした。

そのなかには世界を滅ぼす闇と戦う光の勇者なる者の物語がたくさんあったのです。

いまこそその童話を真実にすべきだと女神様はさっそく下界を覗きます。



「さて、どこかに勇者になれそうな者はいないものか……」



女神さまはアルタス中を見回して正義感が強く、優しく公平な人物を探します。

神様にはいくつかルールがあり直接世界に介入してはいけません。

だから条件にあった者に力を与えようと考えました。



「こらっ、いいかげんにしないか!」



そこに誰かを叱るような若者の声が聞こえました。

見れば、争うエルフと魔族の間に入って仲裁をしている様子。

彼そのものは人間のようでしたが他種族に偏見はなく、公平に接しています。


「ああ、彼です。彼ならばきっと……」


さっそく女神様はその青年の夢枕に立ち、その声を届けます。

『勇者』としての力を授ける。その力でこの大地から争いを無くしてほしいと。

青年はびっくりしましたが、彼は熱心な女神教会の信者でした。


「この世界を荒らす“悪”をどうか倒してほしいのです」


その女神さまから直々に頼まれたので、青年は大きく頷きます。


「はい、女神さま。私はこの世界から争いを無くすために“悪”と戦いましょう!」


「ああ、ありがとう勇者。あなたのこれからに幸多からんことを天上で見守っています」




女神様から様々な『力』と共に『勇者』の称号を与えられた青年は頑張りました。


西に人と魔族の戦乱あると聞けば、武器や魔力を奪って争いを止め、


東に傷ついた竜人がいると聞けば、その傷を治してあげ、


南に燃え盛るエルフの森があると聞けば、雨をふらして火を消して、


北に圧政を敷く人の王がいると聞けば、王を打倒する。




勇者は戦い続けました。


女神様の頼みだからだけではありません。


彼は種族に関係なく困っているヒト、苦しんでいるヒトを放っておけなかったのです。


だから人を襲う魔族を倒し、奴隷にされたエルフを解放し、苦しむヒトビトを助けます。



──ひとりでは無理だ


──やめておきなさい


──もっと慎重に



そんな心配の声を一蹴し、勇者はヒトビトを脅かす“悪”と戦い続けます。




ですが、そのために戦乱を望む“悪”は、


他種族を認められない“悪”にとって勇者は邪魔者になりました。


ですが勇者は強い。何とか味方にできないかと考えます。




時には法外な金品で買収しようとしました。


「わたしはそのようなモノが欲しくて戦っているのではない。すべては平和のためだ」


時には絶世の美女を差し向け籠絡しようとしました。


「可哀想に、君がそんなことをしなくてすむ世界にしてみせよう」


時には権力者たちが国を護るためだといって、勇者に軍に入ってくれと頼みます。


「この力は世界を救うもの、国を守るためのものではない」




しかしそのすべては失敗し、勇者は誰の指示も聞かずに今日も一人で戦います。




“悪”はついに勇者打倒を決意しました。




帝国最強といわれる神の槍を持つ竜人。


暴風の異名を持つ巨大な戦斧を振るう獣人。


すべての魔導を極めた妖艶な魔女。


世界すべてを知っているとされる智謀のエルフ。


ドワーフの武装をまとった三万を超える屈強な人間の軍隊。



勇者を倒そうと彼らは一致団結して、その刃を彼に向けました。




「わたしは負けぬ、この世の悪をすべて打倒するその日まで!!」



伝説的な戦士を旗頭とした万の軍勢を前にしても勇者の決意は変わりません。

なぜなら目の前にいるそれこそが彼が倒すべき敵、争いを望む“悪”なのです。

勇ましく、雄々しく、勇者は怯えることなく戦いを挑みます。


両者の戦いは中々終わらず、一週間も続きました。

矢が、石が、魔法が、怒号が、戦場で飛び交います。

女神の加護のある勇者に矢や投石は当たらず、

魔法は膨大な魔力で打消し戦士たちの怒号はその剣にて斬りおとされる。



「ば、ばけものめ……」


竜人がその鱗を貫かれ、


「申し訳、ありませぬ……父、うえ……」


獣人は両腕を斬りおとされ、


「──────っっ!?」


魔女は悲鳴をあげる暇なく勇者の魔法で灰となり、


「こんな、こんなものは戦いですらない!」


すべての知略を打ち破られたエルフは流れ矢に討たれた。


「ミスリルの剣が一撃で!?」


ドワーフ自慢の装備も勇者の力の前では紙屑同然に破壊され、


「おい! 嘘だろ……こっちは三万も……がぁっ!?」


そして気付けば生き残ったのは勇者だけでした。



「やった! やりました女神様!

 悪を、騒乱を望む巨大な悪を、わたしは倒しました!」



「よくやりました勇者よ……これで世界は平和になります……」



その後、小さな争いは起こりましたが戦乱の時代は終わりを告げました。




こうして勇者は世界を救い、そして──────────













──────────ヒトは滅んでしまいました




「あれ?」



女神様は訳が分からず、首を傾げましたとさ。







訳が分からねぇ、って人は感想かメッセージでなんでも言ってください。

もしかしたら、回答編?を書くかもしれない(汗)



っていうかこれ、童話?


追記:「世界を壊した悪魔」という双子作?を作りました。

これと合わせて読むと「あ、そういうこと」となります。


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― 新着の感想 ―
[一言] 拝読させていただきました。 悪を滅ぼしたら誰もいなくなった……なんとも皮肉ですが、ピリッと利いた刺激のある落ちでした。 竜人も獣人もエルフも、みんなそれぞれ自分なりの正義を持った上で戦って…
2012/02/10 21:56 退会済み
管理
[良い点] 確かに童話ではないと思いますが面白い話デシタ [一言] 悪とは人の心に潜む悪意だったんデスネ!それなら全ての悪が滅んだら人も滅びますネ
[一言] 童話ってのは本来、何かの教訓になるものですからそう言った意味合いでは良いと思いますぞ?
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