僕と事件と透明幼女
4月7日(水):登校日
9:00 始業式(体育館)
僕の名前は『高崎良人』。
紅海高校(エスカレーター校)、2年1組、出席番号13番。
6月19日生まれ、血液型A型、好きな言葉は『平和・普通』
得意教科、体育
苦手な事、異常なモノに纏わり憑かれること
口癖、「憑かれて疲れた・・・」
9:30 始業式終了。
鐘の音と共に生徒達は一斉に体育館から出て行く。
良人も数人の友人と共に体育館を後にし、教室を目指した。
「にしても、校長の話ナゲェ~よなぁ~」
と言う一人につられ、数人の生徒も校長の長話へと悪態を吐いていた。
そして、良人が口を開こうとした瞬間・・・
「待てお前達、誰の悪口を言っている!?」
何者かが背後から呼び止めた
振り返ると、生徒指導の教師が仁王立ちで立っていた。
「ゲッ、皆中先生・・・」
体育教師の皆中が両手を腰に当て睨んでいる。
全身ジャージに竹刀となんとも体育教師風のみため。
筋肉質で極真空手の顧問、県大会第4位の実力者。
どんな不良生徒も改心させる肉体派である。
彼等も顔から血の気が引き、一斉に良人の方を指差した。
「「「高崎が勝手に言い始めたことです!」」」
「・・・違います。」
嫌々、と苦笑いで手を振り否定したが手首を握り生徒指導室へと連行されてしまった・・・
「「「すまん高崎、お前の不幸体質で乗り越えてくれ。」」」
それぞれが内心で謝罪し、何事も無かったかのように教室へ戻っていった。
9:40 生徒指導室
「で、高崎。今回は裏切られたな?」
「いつもの事ですよ、先生。」
「正直、お前の不思議な体質には解決法がねぇ~からなぁ~」
タバコを咥え、火を点す。
「先生、ココ生徒指導室です。」
「気にすんな。」
高崎にはいくつかの疑問と不安があった。
その内の2つとして・・・
・どうして皆中が陰陽師の末裔なのか。
・なぜ彼は自分に対してはとても教師らしからぬ態度なのだろうか。
だが、彼は唯一無二の良人の理解者である。
それは、高崎良人が自主的に夏季補習へ参加したある日の晩の事。
下校時間を過ぎ急ぐ良人は一つの光に気がついた。
職員室ではない、たぶん普通の教室だろう。
気になり覗きに行くと、そこには一人の女生徒が残っていた。
そこまでは普通なのだが、その生徒の背後には人ならざるモノが憑いていたのだ。
ソレは異常なまで膨れ上がり、彼女や周りへと被害を出す一歩手前だった。
それを除霊したのが皆中だった。
突如教室へ現れた彼は、護符を貼った右手でソレへと殴り掛った。
次の瞬間にはソレは消え、女生徒は気を失って倒れてしまった。
その後、良人は皆中の車で家まで送られる最中に彼についてを少し聞いた。
自分が陰陽師の末裔である事。
たまに捕り憑かれた生徒達からソレを除霊し、黄泉の国へと送っている事。
その日をきっかけに、良人の教室の四角には朱雀・青龍・白虎・玄武の護符を貼られた。
だが、良人の中での皆中の印象は『暴力陰陽師』のまま変わっていない。
「聞いてんのか、高崎?」
「えっ!えぇ、また生徒を除霊したんですよね?」
「聞いてるんなら良いや。で、最近この学校でのアヤカシの量はどうだ?」
「そうですね、デカイのなら先生が殆ど潰してますね。小さいのは沢山居ますが、害は無いと思います。僕にちょっかいを出して来ないと言う事はまだ力が無い証拠ですし。」
「そうか・・・だが、何か遇ってからじゃ遅いしな」
「なんなら校舎中に護符でも貼ったらどうです?」
「それが出来れば世界中に貼り付けて歩いてて、この学校にゃいなぜ?言うほど楽じゃないんだよ陰陽師も」
「はぁ~・・・」
ジト目で良人が睨むと、ムッとした表情で返してきた。
それから、軽い調子でやりとりし生徒指導室を出ようとした。
「おい高崎、今日の顔はかなり悪い。気ぃ~つけろよ」
「サラッと酷い事言わないでくださいよ、先生。」
ガチャリと扉が閉められ、一人残された皆中はゆっくりと煙を吐き出しボソっと言った。
「顔が悪いってのは、表情じゃなく人相が悪いって意味なんだがな・・・マジで気をつけろよ、高崎君」
10:00 2年1組
「遅れてすいません、皆中先生に呼ばれてました。」
「そうか・・・高崎、今回はなんで呼ばれた?」
「人の不幸に興味を示さないで下さいよ、先生。」
「じゃ、ホームルーム中に入ってくるな」
「それじゃ教室入れませんよ」
「なら呼ばれるなよ、さぁ席付け」
「うぃ~っす」
ゆっくり一番後ろの席へと腰を下ろし頭を伏せた。
窓から少女が見つめている。
ココは三階、地面とは裕に15m以上離れている。
人ではないのは確定である。
また何か面倒事だろう・・・
と、腹をくくり休み時間を待った。
鐘が鳴り、ホームルームが終わりゆっくりと腰を浮かした。
それから窓へと視線を移し、屋上へ来る様に合図した。
11:05 屋上
「俺に何か用か?それとも暴力陰陽師か?」
『探して欲しい物が有るんです。』
「・・・はぁ~・・・」
一気に肩の力を落とし溜息を吐いた。
この手の依頼は度々舞い込むのだが、ろくな物ではない。
最悪の場合は、体を乗っ取られるか、守護霊として憑かれるか、呪われる。
特に、幼い子と中年には呪われ易い。
逆に、老人や動物には守護霊として憑かれ易い。
すでに動物だけで10を超えそうだ。
『そんな嫌そうな溜息吐かないでよ、私はちゃんと成仏したいの。』
「はいはい、んで何がしたいの?」
『ママに買ってもらったクマちゃんのキーホルダーを探してるの。』
「どこらへんか覚えてる?」
『うんとねぇ~、あの赤くて大きいマンションの近く』
「そうか、学校帰りにでも行って見るか。」
『どれくらいになるの?』
「あと30分くらいじゃないかな?我慢できるか?」
『我慢する。』
「良い子だ、名前は?」
『由香』
「由香ちゃんか、俺は良人。よろしく」
『お兄ちゃんは、お兄ちゃんで良いや』
「まぁ、そうだな。んじゃ、校門で待ってて、終わったらすぐ行くから」
『うん。』
一緒に階段を下り、教室へ向かう良人を悲しそうに見送り消えていった。
「どこ行ってたんだ、、高崎?」
「ウルセェ~裏切り者A」
「うっわ、俺がA?俺はどっちかって言うとC顔だろ?」
「何でも良いけど、不幸を僕に押し付けるな」
「リョーカイ」
「はいはぁ~い、SHR始めるぞぉ~」
担任が入ってきて、生徒は一斉に席へ戻っていく。
12:15 紅海高校校門前
「待たせたな。」
『お兄ちゃん!』
「どうした?」
『来ないかと思ってちょっと心配しただけだよ』
「そうかい、じゃ行こうか?ココだと人目につく。」
『はぁ~い』
「高崎、もう見てるぞ」
「一人しゃべりを凝視してますよぉ~」
「相変わらず器用な一人しゃべりだな」
「うっせぇ~無能力者どもが!行くぞ!?」
『・・・うん。』
ズカズカと歩き、イライラを足音で表現する。
正しく言うなら、地面へと八つ当たりでストレス発散中である。
『ごめんなさい、由香のせいでお兄ちゃんのお友達居なくなったんだよね?』
「・・・表現が、冷たい・・・」
『えっと、その、ごめんなさい』
「あぁ~もう謝んなくて良いから」
『はい。』
「んで、どの辺でいつ頃無くしたの?」
『詳しくは覚えてないの。』
「覚えてない?」
『うん、学校帰りの途中に記憶が無くなっちゃって・・・』
「死んじゃったんだ。」
『そうみたい。』
「最初に居たのは何処だった?」
『あの赤いマンションの部屋だった。でも、なんか気持ち悪いのがいっぱい居たから出てきたの』
「・・・殺人事件?」
『由香、殺されちゃったの!?』
「自分事なのに今更驚くのかい・・・」
『ママも心配してるかな?』
「たぶんね。まずは皆中に電話しとくか」
『みなか・・・?』
「うん、暴力陰陽師教師だよ」
ケータイを出し、皆中の番号へとかける。
『俺だ。』
「先生、この付近で小学生が行方不明になる事件っていつありました?」
『なんだ急に・・・しらねぇ~よ』
「至急調べてください!」
『こっちは明日の入学式で忙しいんだよ?』
「こっちもこっちで忙しいんです。何か解かったら電話ください。」
『はいはい、じゃぁ切るよ?』
プツッ、プーップーッ
と、聞き慣れた音で終わった。
『どうだった?』
「調べてみるってさ。さぁ、キーホルダー探そうか?」
『うん!』
それから、マンションを中心に2km圏内をくまなく探し回っていた・・・
時間は既に5:00を過ぎ始めていた。
あと一時間もすれば日は沈み始めるだろう・・・
未だに皆中から電話は無い。
(何してんだ、皆中の奴!)
『無いね、クマちゃん』
「仕方ない、あのマンションに行って見ようか・・・?」
『あんまり行きたくないな・・・』
「俺だって行きたくないよ?君がアソコで死んでるんだったら不吉なモノが集まってるからね」
『・・・うん。』
「でもさ、君を成仏させてあげたいってのも本音なんだよねぇ~」
『・・・うん。』
「行こう。」
ゆっくり手を繋ぎ、マンションの階段を上がり始めた。
7階の部屋の一角から黒いオーラが噴出している。
きっとあそこに違いない。
「見付けた。」
『あのお部屋だよね?』
「あぁ。」
『行きたくないよ、行ったら帰って来れない気がするの。』
「なら待ってろ、俺が行ってくる。」
『駄目だよ、もう良いの。クマちゃん諦めるから良いの』
「良い分けないだろ!?大切なものなんだろ?」
『・・・でも・・・』
「良いから待ってろ。」
『行く、由香も一緒に行く。』
「良い子だな」
優しく頭を撫でてやった。
それだけしか良人に出来る事は無かった。
チャイム鳴らした。
返事は無かったので再度チャイムを鳴らした。
やはり返事は無い。
「誰も居ないのか・・・?」
『そうだね。』
「内側から鍵を開けられないか?」
『やってみる。』
「ありがとう」
ガチャッと鍵が開く音がした。
ゆっくりドアノブを回し、扉を開いた。
もう既に入るとヤバイ感じがする。
「お邪魔しまぁ~す」
ゆっくりと土足で上がり込み最奥のリビングへ向かった。
扉は半開きのままで、最近まで生活していた感じがする。
未だに人は住んでいるのだろう。
「誰も、居ないな?」
『うん、ココには何も無い。』
一個一個部屋を確認していく。
そして最も嫌な感じがする部屋を開いた。
そこには白骨化した小学生程度の子供の遺体とソレを取り囲むようにアヤカシの類が集まっていた。
「これは酷い・・・」
口元へ手をやり、鼻を塞いだ。
もはやロクに見られた物ではない。
最近の遺体じゃない。
もう5,6年かそれ以上経ってるはずだ・・・
不意に後頭部を誰かに強打された。
「うっ!」
良人は意識を失う寸前で留まったが、動けなかった。
手足を縛られ、少女の遺体と並べて置かれてしまった。
アヤカシが良人や犯人の周りをうごめいている。
由香はリビングの角で小さくなり泣いている。
良人の目の前にはクマのキーホルダーがあった。
ランドセルに付けられたキーホルダー・・・
この遺体は由香の物で間違い無いだろう。
そして、おそらくコイツが犯人。
だが良人には何も出来なかった・・・
(何してんだ皆中の奴!)
「聞こえてんだろ、お前どうやってココに入った?」
「・・・その子に・・・助けてもらった・・・」
「お前、壊れてるのか?」
「人・・・殺しに、言われたくないね・・・」
「そうかい、秘密を知ったんだ死ね。」
ギラギラ光る刃を首元に当て、脅す。
きっと由香も、こう言う風に脅されながら殺されたのだろう・・・
可哀想な話である。
ドンっと玄関の方から大きな物音がした。
カッターシャツを腕まで捲り上げた汗だくの皆中だった。
「テメェ~人の生徒にテェ~出すなっ!!!」
ダッと駆け出し、鍛え上げた鉄拳で男を殴り飛ばした。
立ち上がる男の胸倉を掴み、壁へと投げつけた。
グエッと苦鳴をもらしたまま苦痛に悶える男の腹を踏みつけて終わらせてしまった。
「おせぇ~ぞ皆中・・・」
「悪いな、立て込んでたんだ。」
良人へとゆっくり近付いていく。
男が落としたナイフで紐を切り、遺体を見つめて呟いた。
「可哀想な事をしやがる・・・」
「リビングの端で怯えてる。早くこの部屋を浄化してくれ、憑かれちまう。」
「あぁ、そうだな。」
玄関へ一枚の札を貼った。
崩した文字で、『神蛇』と書かれている。
邪悪な物を喰らい尽くすと言う意味だろうか・・・?
「警察には電話したのか・・・?」
「まだだ、人使い荒いぞお前。助けてやったんだ感謝しやがれ。」
「由香、大丈夫か?」
『お・・・兄・・・ちゃん?』
涙を流し、怯えていた。
仕方ない事なのかもしれない・・・
「よく我慢したな。これを探してたんだろ?」
『・・・うん、ありがと』
クマのキーホルダーを渡すと、スッと体が徐々に透明へと成っていく。
成仏を始めていた・・・
「由香、元気でな」
『お兄ちゃん、ありがと。由香、お兄ちゃんの事忘れないよ』
無垢な笑顔で笑っていた。
それから、警察を呼び少女との一件は無事終わりを迎えようとしていた。
結局、事情聴取が終わったのは8:30を過ぎていた。
事件の内容などを詳しく聞けはしなかったが、皆中と同時に開放されたので皆中から聞くことにした。
「あの子はな、6年前の9月に行方不明に成っていた斉藤由香ちゃん。
下校途中に行方不明になって半年間捜索されたが事件は難航して中止された。
まさか、今更こんな形で事件が発覚するとは思いもしなかったんだろ。」
「ひどい・・・」
「世界なんてのはそんな悪で包まれてるのさ。」
「それじゃまるで・・・」
「人が悪いみたいか・・・?」
「はい。」
「そんな世界でしか生きられないのが人間なのさ。まぁ、今日はもう遅い、明日は入学式だ家まで送って行ってやる。」
「いや、自分で帰れるから大丈夫だ。」
「そうか・・・?遠慮すんなよ」
「一人に、なりたいんです。」
「・・・そうだよなぁ~」
そのままバラバラの方向へと歩みを進めた。
良人はもう一つの災難、怪異と出会うために・・・