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剣と魔法のエヴァージェント  作者: 久津乃浦・我無
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第二話:ユアラとセツナ

【第二話:ユアラとセツナ】

 キサラギ・セツナは心地よい眠気を感じウトウトながら、公園のベンチに座っていた。

暖かで心地よい風が頬を撫でる。なんだろう良い香りが漂ってくる。

さっきまで感じていた閉塞感やギスギスしていた心が洗われるような良い心地だ。

「(いっそこのまま永遠に眠ってしまいたい…)」

目を閉じ、そんな事を考えていた矢先、誰かの声が聞こえた。

「…セ。」

セツナはその声の主に言う。

「もう少し寝かせて…」

「…起きて。」そう言うと同時に肩を揺すられた。

「うわ!」思わず口元をじゅるっと袖で擦りながら飛び起きる。

しまった。公園のベンチでうたた寝しているのを誰かに見られた。

よだれが垂れていたかもしれない。恥ずかしい…

「大丈夫です!お構いなく!」セツナが寝言めいた事を言いながら慌てて飛び起きる。

そして周囲に視線を向けると動きが固まった。

真っ白だ…どこもかしこも真っ白な空間だ。

物音ひとつしない、距離も掴めないほどの広大な白い空間が広がっている。

セツナは思わず座っているベンチに視線を送る。

ベンチはある…いやむしろ、唯一色を持った物体は、

自分が今座っている公園のベンチだけだ。

恐る恐る脚を踏みしめてみると地面の感覚はあるようだ。

しかし踏みしめた時の音は聞こえてこない。

「ここどこだよ…」自分の声だけが響く。

戸惑うセツナに後ろから女性の声がした。

「ナッセ…」

「えっ!?呼んだ?」

振り返るとすぐそこに、一人の可愛らしい女性が立っていた。

年齢は同じくらいだろうか?

どこか民族衣装っぽい服装ではあるが、

腰には剣をぶら下げ、ブレストアーマーを着込んでる。

すると突然「ナッセ!会いたかった!」と歩み寄るなり抱き付かれた。

ひんやりとしたアーマーの隙間から伸びた彼女の腕がナッセの頬に触れ、

暖かさと共に、花の香りが漂ってくる。

「(これは夢?でも、なんだか判らないけど…これはイイ!!)」と一瞬思ってしまった。

しかし突然こんな良い事が起きるはずが無い。きっと都合のいい夢だ。

セツナは人違いのままで良いとも思ったが、意を決して話しかけてみた。

「ご…ごめん。人違いかも??」

すると彼女はバッと腕を離して一歩遠のく。

彼女の目にじんわりと涙がにじんでいる。

「…そう。失敗したのね…あなたの記憶はその人の心に取り込まれたままなのね」

そう言う彼女の悲しそうな表情にセツナの心の奥がギュっと締め付けられる。

なんだろう。彼女を知っている気もするし、初めてのような気もする。

「(というか、かわいい。…この際、勘違いでも夢でもいい、何とか彼女と会話せねば…)」

「あ…あの。(何を話せばいい…天気?いや真っ白じゃないか…

彼女の容姿をほめる?…いやそれは一番嫌われるパターンだ…考えろ。)」

セツナの頭がフル回転する。

そしてセツナの口をついて出た言葉はこうだった。

「…あの。ここはどこでしょう?(…最低な会話だ)」

すると彼女は小さくため息をついてこう言った。

「…ここは貴方の世界とエヴァージェントを繋ぐ回廊の中…」

「エヴァージェント?回廊?」

すると彼女はセツナの腕を掴むと、無理やり立ち上がらせてこう言った。

「君。時間がないの。回廊に閉じ込められてしまう前にここを出ます。着いてきて!」

セツナは急かされるまま手を引かれ歩き出す。

歩きざま、ふと気になってベンチの方に振り返ったが、もうそこにベンチは無く白い空間が広がっていた。

「あの…」セツナが質問しかけると、彼女がクルリと振り返った。

「そうだ。君。これを首にかけておいて。」

それは涙型の透明な石のペンダントだった。

彼女はセツナの首にかけるとこう言った。

「これからエヴァージェントの世界に入ります。

後悔したくなかったら、向こうの世界でこれは絶対外さないで。」

「(…そんなにヤバい物なのこれ!?)」

首にかけられたペンダントはズシリと重く、綺麗な宝石だ。

彼女の言うような危険な雰囲気もない。

ペンダントを見ていると、彼女が急かした「足を止めないで。歩き続けて。」

おそらく今のこの状況で、彼女にどんな質問をしても軽くあしらわれるだろう。

セツナは色々と質問したい衝動をグッと堪えると、

促されるまま彼女の後を追って歩き出す。

さっきまでは気にならなかったが、二人の足音が反響してきた。

心なしか白い空間が狭く感じる。

「急いで、回廊が閉じかけている。」

彼女に手を引かれながら急ぎ足で白い回廊を歩いてゆく。

すると正面の白い空間から緑色や赤色、黄色などの光の帯が、風に揺らめくリボンのように伸び、次第に周囲を覆いはじめる。

光の帯を視線で追いながら、前方に視界を戻した途端、激しい眩しさがセツナを襲った。

「うわっ!」思わずセツナは目を閉じる。

眩しさと同時に意識が飛びそうになり、めまいが襲ってきた。

セツナは慌てて平常心を保つよう意識を集中する。

目を閉じて数秒だろうか…

不意に鳥のさえずりや、木々が風で擦れる音が聞こえてきた。

それと同時に、むせ返るほどの湿気を帯びた青臭い植物の匂いがセツナの鼻をついた。

「目をあけていいわ」

セツナは咳こみながら、ゆっくりと目を開ける。

森だ。目を開けるとセツナは緑が生い茂る森の中に立っていた。

地面には苔が生え、木々の根っこが地面を張って凸凹している。

「ここはどこだ…」呆気にとられるセツナに彼女が言った。

「さっきも言ったでしょ。エヴァージェント。あなたの知らいない世界よ。

迷子になりたくなかったら着いてきて…」

彼女は繋いでいた手をパッと離すと、そそくさと先を行こうとする。

「おい。待ってくれ。説明してくれ。

そもそもまず僕の名前は“君”じゃない。キサラギ・セツナだ。」

すると彼女はこちらに向き直ると、腰に手を当ててため息をつきながら返す。

「そう。私はユアラ。ユアラ・ハリューズ。

説明…ね。それは追々話します。まずは町に行くので着いてきて。」

ユアラはそう言うとセツナを置いてスタスタと歩いてゆく。

「待ってくれユアラ!」

自身もびっくりするくらい馴れ馴れしい言葉がセツナの口をついて出る。

その言葉にユアラの足がピタッと止まる。

そして振り返る事なくこう言う。

「やめて! …その呼び方…今はキツイ。」

「(キツイ…)」セツナの脳裏に、同じ言葉でいじめを受けた時の風景がフラッシュバックした。

するともらったペンダントがほのかに熱を帯びた感覚になった。

セツナが貰ったペンダントを見ると、さっきまで透明だった宝石の中央にボコボコと黒いインクのような煙が沸いていた。

しかし、その煙が落ち着きを取り戻す頃には、

不思議とセツナの心も穏やかになるのだった。

「(なんだろうこれ…)」

セツナがペンダントに視線を落として立ち尽くしているのを見てユアラが声をかける。

「ナっ…迷子になりたいの?」

「いや。いくよハリューズさん」

セツナのその言葉にユアラの顔がまた曇った。


ウッドロック山脈 ラダルハン断崖

 森の中をしばらく歩くと、急に視界が広くなった。

地面が数メートル先で消え、その向こうには青く澄んだ空が広がっている。

さらに近づくとセツナは息ををのんだ。

ギアナ高地を彷彿とさせるほどの断崖絶壁の上に自分たちが立っていたのだ。

刹那の足元の崖下から緑の森が絨毯のように広がり、遥か遠くに視線を送るとキラリと光る建造物らしき物が見えた。

セツナが恐る恐る崖から下を覗き込む。

「うひゃー高いな…何百メートルあるんだ!?」

絶壁の遥か下に小さく森の木々が見えている。

その絶壁はわずかにU字を描きながら、

キラリと光る建造物を囲むように地面からそそり立っている。

崖の所々からは滝が流れ落ち、地面に触れる前に白い霧となって大気に溶け込んでいた。

するとユアラが「こっちに来て」とセツナを呼ぶ。

絶壁沿いに少し歩くと、目印のように2本の木の柱が立っている場所にきた。

2本の柱は絶壁沿いに立っており、一見すると釣り橋が落ちた跡のように見えるが、向こう岸などはなく、さっきと同じ青い空と緑の大地が広がるばかりだ。

「近道するわ。ここに立って…」とユアラはセツナの腕を引っ張ると2本の柱の中央に立たせた。

ユアラが一方の柱にぶら下がっていた木のハンマーを手に取ると、

頭上に吊るされた木の板を力一杯叩く。

コン!コン!コン!という音が周囲に木霊する。

しばらくすると、それに応えるように、どこからともなく同じような音が3回返ってきた。

それを確認したユアラがセツナに言う。

「準備はいい?」

「え?なに…」セツナが言いかけた時、ユアラが崖下に向けてセツナの背中をドンと押した。

一瞬にして胃が浮くような感覚がセツナを襲い「お、うわぁ!!」と悲鳴が上がる。

ユアラも後を追って平然と身を投げる。

断崖絶壁をかすめる様に落ちてゆくセツナとユアラ。

激しい風の音と共に崖肌が過ぎ行き、地面が急速に近づいてくる。

「し…しにゅ~ぅ」セツナが嚙みながら叫ぶ。

すると落下方向の崖肌に沿って、ボロ布がバッと展開された。

崖に予め設置されていたその機構は、セツナたちの落下する先で次々と展開されてゆく。

粗末な棒に張られたボロ布には赤や白、青色でカラーリングされた民族的な模様が入っている。

そのボロ布にセツナたちがボッ!っと突っ込む。

しかし一枚程度では落下の勢いを落としきれない。

二人は次々とボロ布を突き破ってゆく。

「うげ!」「うが!」「うご!」セツナが声をあげる。

何枚か突き破るうち、落下速度が落ちてきた。

するとユアラが発した。

『受け止めよ、猛き風のうねりとなり、我らの加護とならん』

その直後、地面側からブワッと突風が二人を包んだ。

その風によってさらに減速し、地面につく頃にはまるで宙に浮いているかのようになっていった。

足がつくと同時に地面にへたり込むセツナ。

「い…今のは…魔法?」

座り込みながらセツナが聞く。

「ええ…そう魔法…詠唱と呼ぶかな…って、立てる?」

ユアラは少し笑いながらセツナの腕を掴んで立たせた。

すると二人の様子を見ていた管理小屋の男が声をかけた。

「めずらしい。この方法を使う者がまだいたとは…」

ユアラが言う「近道したかったのよ」

「数日前だろうか。この先にある古代の神殿に行った若い冒険者が最後に使ったきりだ。

まさかこんな短期間でまた使われるとはな…」

そう言いつつ、二人が落ちてきた崖を見上げる。

「こりゃまた随分派手に突き破ってきたな…張替が大変だ」

管理小屋の男はそう言うと、工具を取りにいそいそと小屋に戻っていった。

男を見送ると、ユアラが言う。

「行きましょう。…えっと…セツナ。」

「(随分と言い辛そうだ、ここではそんなに呼びにくい名前なのだろうか?)」

セツナはそう思いつつ、歩き出したユアラに、ずっと気にしていた質問をした。

「ところで、なんで俺はエヴァージェントに来てしまったんだ?」

セツナの質問は当然だ、ここまで何の説明も無いまま連れ回したのだから。

セツナの問いかけにユアラは言葉を詰まらせた。

「…えっと。それは…」

「それは?」

「私が呼んだから…」

「…呼んだ?」

ますます意味が判らない。

「呼んだ理由は…」

セツナが言いかけた時、道の向こうから兵士たちがこちらに駆けてきた。

兵士たちがユアラとセツナを取り囲む。

「ユアラ・ハリューズだな。お前を世界転覆罪で逮捕する!」

兵士たちは言うが早いか、ユアラだけでなくセツナも地面に組み伏せた。

セツナが思わず叫ぶ。

「ま、まって!何?何が起きたんだよ!」

ユアラの方を見ると、唇をかみしめて震えている。

すると兵士の包囲の間から弓矢を背負った男が顔を出した。

「ディノ!!」ユアラが叫ぶ。

するとディノと呼ばれた男が悲しそうな顔で言った。

「俺は反対だったんだ…ユアラが悪いんだ…」

ユアラはそれに対して何も言い返さなかった。

兵士たちが二人を連れて行くとき、ディノがセツナを見てこう言った。

「へぇ…これは確かに似ている。心が重なると顔も似るのかな…」

セツナには理解できなかったが、これだけは判った。

今の状況は非常にマズイと。

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