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王子の婚約者である私ですが、ヒロインを全力で支援します  作者: 幸イテ(旧名:kouta)
第四章 次代を背負う者達

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第六十話 対等の敵


 父を自由にしてあげたかった、オルフのその言葉は何故か私の心を強く打った。


 アルベルトとオルフの差は大きかったはずだ。才能の問題ではない。環境の差の問題だ。アルベルトも私も恵まれている方の人間だろう。王族と高位貴族という責務はあれど、理解ある両親がいて、周囲の皆も私達自身を見てくれる。だから私達は自分に自信を持つ事が出来た。

 一方でオルフは彼自身ではなく父の代わりを求められた。自分が見られない人生、そこにどれ程の苦悩があったのだろう。


 アルベルトは建前ではなく本音を語った。だからオルフも本音で返した。傍から見れば二人の関係は執政者と追い詰められた罪人だ。しかし今の二人は間違いなく対等であった。


 不思議な事に二人の動機はどちらとも愛する人のためであった。


 アルベルトに関しては私がけしかけたわけだが、それでも選択したのはアルベルトだ。悩みを吹っ切ったアルベルトはとても頼もしく、本気でソフィアを守りたいのが伝わる。それでこそ私の共犯者だ。

 オルフは父こそが自分の見られない元凶であるはずなのだが、それでも父への愛は持ち続けていたようだ。自由にしてあげたかったという事は、オルフは何か司教の持つ葛藤を察していたのだろうか?


 人はいつだって誰かに敬われたいと思っている。それこそが己の生きる糧となるから。だが司教のように絶対的な価値を手にした者はどうなのだろう? 誰からも敬われ、嫌われる事はない。司教は間違いなく誰もが夢見る理想を手にしたはず。


「でも、全く心が震えないのは何故かしらね」



 果たして司教は……人を恨んだのだろうか?



 その答えは永久に分からないままだ。彼はもうこの世にはいないのだから。



「王子アルベルト、この馬鹿の頼みを聞いてくれるか?」

 オルフはどこか清々しい顔をし、アルベルトに話しかけた。

「まずは言ってみろ。聞いてから判断する」

 私にはまるで想像もつかなかった。今この場でオルフは何を言うつもりなのか。私達は緊張の面持ちでオルフを見る。彼は仲間達の方へ一度視線を向けた後、アルベルトに意思ある声で言い放った。



「『決闘』を申し込みたい」



 直後、空気が一気に張り詰めたのを感じた。確かに愚かな頼みだ。『決闘』は貴族同士の戦いで大事なものを賭け合って行われるものだ。言うなればプライドをかけた勝負である。だが追放されたオルフには司教の息子として賭けるものはなく、そもそも『決闘』を行う権利がない。

 それでもオルフは『決闘』を望んでいた。アルベルトの横にいるフレデリックが殺意を向けても、オルフは全く怯まなかった事からも彼の本気が伺える。だからか、ただの愚か者と言い切れない何かを感じさせた。

 アルベルトは焦らず熟考した後、ゆっくりと口を開いた。

「助命の歎願でもするつもりか?」

「ああ」

 寒気のするような冷たさを放つアルベルトに対し、オルフはあっさりと肯定した。その態度を何か妙に感じていると、オルフは勝負の一手を告げた。


「だが俺の命じゃない。救ってほしいのは仲間の命だ」


 オルフの仲間達が眼を見開いた。驚いたのは私達も一緒だ。この土壇場で仲間の助命だけを乞うなんて。


「俺が勝ったら仲間達の命を保障してほしい」


「オルフ!?」

「お前って奴は……」


 仲間達が泣きながらオルフを見る。オルフは微かな笑みを浮かべた後、アルベルトに再度問いかけた。

「受けてもらえるだろうか?」

「…………」

 アルベルトは黙り込んでしまう。実際難しい判断だ。受ける理由は全くない。だがオルフは己の全てを捧げてまで『決闘』を申し込んできた。今や肩書もないただのオルフであるが、仲間を救いたい彼の想いは高尚なものだ。そんな彼の挑戦を退けるのは王族としてのプライドに関わる。少なくとも私はそう思った。

「良いだろう。だが私は死ぬわけには行かない。万が一もあってはならない。理由は分かるな?」

「王族だから……いや、最愛のため、か」

「ああ、だから私の代役を立てよう。お前も知っているだろう? 『決闘』には代役も許されると」

「ああ、知っている」

「なら話は早い。見事私の代役を倒して見せたら、お前の仲間達の命は保証しよう。色の真実を知っている以上監視は一生つくが、処刑はしない事を約束しよう」

「誓約書は? 口約束では信用ならない」

「今用意させる。しばし待て。紙とペンはあるか?」

 程なくして紙とペンを受け取ったアルベルトは、早速ペンを紙の上で走らせる。最後にナイフで指の腹を切ったかと思うと、その指を紙の上に押し付けた。そう、血判状というものだ。

「さあ、お前もやるがいい」

 そう言ってアルベルトはオルフへ紙とペン、そしてナイフを渡す。オルフは書いている内容を確認した後、オルフは自分の署名をし、アルベルトがそうしたように自分の指を切って押し付け、返却した。

「これでいいか」

「ああ、これでこの紙はただの紙から正式な誓約書となる」

 アルベルトは血判状を専用の筒に詰めると封をした。

「ソフィア、持っていてくれるか」

「分かりました」

 筒を受け取ったソフィアはしっかりと抱える。そのまま私の方へと戻って来ようとした時、突然オルフは彼女へと声をかけた。

「ソフィア・クアラルン。あんたとウェンディの違いは何だった?」

 オルフの言うウェンディとはフランの事だ。私は驚きを隠せなかった。オルフとフランの関係はどうであったのか私には知りようもないが、それでもこうして聞いてくるからには、二人の仲は険悪ではなかったのだろう。

 突然声をかけられたソフィアであったが、それでも彼女は冷静であった。アルベルトも割り込んではこない。ソフィアを信頼しているからだ。ソフィアは決して守られるだけの存在ではない。

「ここで自分の力と言えれば良かったのですが、流石にそこまで傲慢にはなれませんね」

 ソフィアは顎に手を当て、思案顔を浮かべる。だが時間はさほどかからなかった。


「結局のところ、私は運が良かったんだと思います。それだけです」


 ソフィアは運だとあっさり言い切ったのだ。


 これにはオルフも驚いたのだろう。もちろんここに辿り着くまでのソフィアの努力は半端ではなかった。傍で見てきた私が一番それを知っている。でも存在するのだ。努力だけでは越えられない領域というのも。

「私はマリアンヌ院長に出会えた。そこからアルベルト様とナタリア様への出会いへと繋がり、今があります。一方でフランはフローレル男爵に出会ってしまった。これが逆なら私とフランの運命は逆だったかもしれません」

 人の縁とは馬鹿にならないものだ。私達はこの数か月の出来事を通じて、それを思い知らされた。そのすべてを受け入れられるわけではないが、私達は知っている。それが大事なのだと思う。

「どうだオルフ。我が婚約者は素晴らしいだろう?」

 そう言うアルベルトはどこか自慢げだった。

「ここでのろけるあんたも大概だが、確かに驚かされた。しかし……」

 オルフは今度は私の方を見た。

「察するにあんたがナタリア侯爵令嬢か?」

「ええ、そうよ」

「何故あんたがここにいる?」

「これを言われるのは二回目ね。貴族は屋敷でふんぞり返っていろとでも? 生憎私はそんなに呑気な頭をしていないわ。あなたの危険性を考えたら当然でしょ?」

「俺の危険性?」

「とぼけるんじゃないわよ。計画は甘かったかもしれない。でもあなたは本気だった。本気で革命を起こそうとした。それだけで十分脅威なのよ。今は婚約者を外れた身だけど、ナタリア・セイファートとしても見過ごせるものではないわ」

 それが私の彼に対する偽りない評価であった。人は本気になる理由を得た瞬間、一気に成長する。ソフィアがそうであったように。オルフも最初は取るに足らないと思っていたのに、ごく短い間に激変した。成長する時とはそういうものなのだ。

「そうか、そこまで本気だったか。動きが迅速なわけだ」

 諦めの中にどこか喜びも含まれていたような気がしたのは気のせいだろうか?

「ところであんた、婚約者とられたくせに仲良さそうだな」

「そりゃそうよ。私が彼女をアルベルトに薦めたんだもの」

「……王妃の立場から逃げたかったのか?」

「そういうわけじゃないわ。私自身、国を良くしたいという気持ちは今でも忘れていない。でももっと適任がいて、しかも思い合う同士ならそれに越した事はないでしょ。それに私は舞台から降りたわけじゃない。だからここにいる」

「なるほど、ここにいる事自体が証拠という訳か。否定しようもないな」

 不思議な感覚であった。私は今オルフと普通に会話している。しかしオルフが私に興味を示すとは思いもしなかった。その答えは彼の口から直接語られた。

「……全く皮肉なものだな。ウェンディは、フランは貴族の真似事なんて必要なかった」

 そう、オルフはフランをウェンディに仕立て上げた実行犯だ。きっとフランから私の事を聞いていたのだろう。だから私がどんな人物か気になったに違いない。

「あんたの横に立ちたいのであれば、フランはそのままで良かったんだな」

 オルフのその言葉に私の心がさざめいた。今やオルフはウェンディになる前のフランを知る数少ない人物であった。ここに来て彼が嘘をつく必要はない。紛れもなく真実なのだろう。


 見た目は違っていても、あの子の心はあの子のままだった。


 襲い来る罪の意識と心からの喜び、相反する思いが反響する。自分が死に追いやったのに喜ぶなんてとかつての私は思ったのかもしれない。でも、だ。私が気づかなかった事と同じく、フランだって正体を明かさなかった。


 私も、フランも完璧にこなせる程人が出来てない。今だってそう。成長したと言い切るだけの何かを私はまだ持っていない。でも私は焦らない。事実として受け入れてさえしまえば少し楽になる。だからどちらかを排除する必要はない。罪の意識と喜び、その両方を私は受け入れよう。


 私は万感の思いで、オルフに感謝を告げた。


「オルフ、感謝するわ。本当のあの子を教えてくれてありがとう」




今回もお読みいただきありがとうございました!

ここで皆様に一つお知らせがあります。

現時点でこの作品は無事最終話直前まで書き終えました。

よってここからブーストかけます!

今日から、毎日投稿する予定です。

完結は今週木曜日の予定で、この日は最終話とエピローグを連投します。

完結まで今しばしお付き合いください。


それではまた明日お会いしましょう。



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