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王子の婚約者である私ですが、ヒロインを全力で支援します  作者: 幸イテ(旧名:kouta)
第四章 次代を背負う者達

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第五十三話 熊殺しの大剣


「角グマが三体同時に?」

「ああ、それが村が壊滅に至った理由だ」

 エルから聞いた話ではあるが、角グマ討伐はまさに死闘だと聞く。一体でもそれほどなのに、三体現れた時の絶望感はどれ程か。

 今、私達はスタンピートによって壊滅させられた村の話を聞いていた。

 私達はこれから物資を配りにベルナール領を回る。角グマとも今後出くわす可能性は高い。自分達の身を守るためにも、ベルナール領にある他の村を守るためにも、話は聞いておくべきだった。

「角グマは縄張り意識が強いから、本来同時に現れる事なんてないのだが……」

「ヴォルフ達も最後の一匹まで粘るというのはおかしいのよね?」

「ああ、奴らが襲ってくるのは狩りのため、つまり生きるためだからな。仲間が犠牲になった時点で逃げるはずだ。森から追い出されたヴォルフ達が簡単に餌にありつけたとは思わない。もう後がなかったのだろう」

「もう一度狩りをやるような余力はなかったと……」

「そういう事だな。俺が見るに獣達もスタンピート直後とは違って理性が戻ってきているように思えるが、それでも村を襲いに来る奴らはいる。そういう奴らは大抵痩せているよ」

「理性が戻ったのなら森へと帰ったりしないのかしら?」

「もちろん帰った奴らもいるだろうさ。今各地の村に出没しているのは帰り道が分からなくなった奴らだと俺らは推測している」

 であるのなら獣達は詰んでいる。そう思った。

「追い詰められた結果、一か八かの勝負に出たって事ね」

 ストライの話に私は考え込む。はたして私達に襲い掛かってきたヴォルフ達はどうであったのか? 冷静さは保つ事が出来たが、流石に体つきまで見ている余裕はなかった。とりあえず分かったのは、スタンピートのせいで獣の常識が相当変わってしまっているという事。急に住処を追われた獣達もまた被害者なのだろう。

「ああ、そうだ。角グマについて一つ話しておくべき事がある。これはスタンピートが起きたからじゃなくて、元からの習性だ」

 そうしてストライから語られたのは意外な事実であった。

「今の時期、最も恐れるべきものは母グマだ」

「オスではなく?」

「ああ、角グマのオスは人と違って子育てしないからな」

 随分と薄情なものだと思ったが、それを男であるストライに言うのも何なので、肩をすくめるに留める。角グマには角グマの生存戦略がある。変に深く考えるより、そう思う事にしよう。

「今の時期は角グマにとって子育ての時期なんだ。この時期の母グマは子を守るために周りに対して攻撃的になる。暴力の権化が明確な殺意を持って襲ってくるんだ。一番恐ろしい相手だよ」

「……ヴォルフ達は獣除けの臭いを抜けてきたの。子を持つ母グマはどうかしら?」

「母グマに獣除けはもっともやっちゃいけない行為だ」

「それは何故?」


「獣除けは嫌な臭いというだけで、耐えられない激臭ではない」


 納得の答えであった。獣除けの臭いを強力にする事は可能であろうが、それでは人間の方にも支障が出てしまう。獣除けは人間には普通で獣には嫌な臭いでなければ意味がないのだ。

「平時であれば避けるだけだろうが、子グマがいるのであれば話は違う。過剰なくらい防衛本能が高まっている子連れの母グマは、獣除けの臭いを子供に攻撃されていると勘違いし、殺意むき出しで攻撃してくる事があるんだ。すべてがそうというわけではないのだが、今の時期の母グマには近寄らないに越した事はない」

 角グマのような巨大な生き物が明確な敵意を持って攻撃してくる。その恐怖はとてつもないだろう。今はオルフ達のせいでどこもかしこも獣除けの臭いで溢れている。なるべく出会いたくない相手だ。しかしこればかりは運に近いだろう。私達は最悪を想定して行動しなければならない。

「獣除けに頼らない方法はあるのかしら?」

「音を鳴らすとかあるが、森の外にいる角グマに対して効果があるかは謎だな」

「完全に避ける方法はないというわけね」

 自分で言葉にするとより恐怖を感じる。声が震えそうになるのを抑えながら私はストライに尋ねた。

「もしもでくわしたらどうするべき?」

「……相手が逃げてくれたらいいが、向かってくるのであれば戦うしかないだろうな」

 思わず深いため息が出た。ここに来た以上引くつもりはないが、それでも脅威が明確になると、緊張感が増してくる。

「ストライ様、エルさんやフレデリックさんは毒を使って持久戦で倒す方法を用いるのですが、このベルナール領ではどのように角グマを討伐をするのですか?」

 私の不安を察したのか、ソフィアがストライに討伐方法を尋ねた。

「ストライ様は聞くに両手剣の使い手だとか。それに関連したものなのかしら?」

 アーニャも興味津々のようでそれに続く。確かに私もベルナール流なるものがあるのかは気になる所だった。


「ああ、それだが……」




「ストライ様! 角グマの目撃情報がありました! 村の外の畑に侵入しているとのこと!」

 突然の知らせに背筋が凍った。私達の弱点は純粋な暴力だろう。それを体現する角グマはまさに天敵だ。そのためにエルとフレデリック達がいるわけだが、自分だけではどうしようもないと言う事実が私の恐怖心を増長させる。一方でストライは冷静そのもので、むしろ獰猛に笑って見せた。

「このタイミングで角グマとはな。だが丁度いい。ベルナール流の戦いをお見せしよう」

 一見その余裕は慢心にも見えるだろう。しかし私は肌で感じた。ストライの空気が急に変わったのを。目に火が灯り、あるはずのない熱を感じる。ストライの中の戦いのスイッチが入ったのだ。


「あんた達なら角グマ相手でもヘマしないな?」


 ストライの視線は私達ではなく、フレデリックとエルに向いていた。その視線はどこか挑発的で、二人の心にも火がつく。いつもは私達の護衛である二人もまた武人なのだ。

「もちろんだ」

「任せてください」

「そうでなくてはな! 本当は俺がずっとついて行ければ良いんだが、俺はここを離れられない。だからあんた達は俺達の戦いを見ろ! あんた達の事だから、模倣なんざ簡単だろ?」

「見て盗めと言う事だな」

「すぐにモノにしてみせますよ」

 どうやらストライはこれからの死闘で角グマ討伐のノウハウを教えるつもりらしい。摸擬戦とかではなく、本当の戦いの中で覚えてみせろと。ストライ達が段取りを確認する中、アルベルトが訪ねた。

「私達はどうすればいい?」

 こちらとしては何か手助けをしたいが、邪魔はしたくない。ストライは思案顔になったが、答えはすぐに返ってきた。

「皆も実物を見たほうが良いだろう。知ってさえいれば恐怖は薄まるからな」

 心の内を見透かされた気がした。そう、私は本物の角グマを見た事がない。だからこそ恐怖してしまう。恐怖に打ち勝つだけの経験がないから。

「だが近くに寄るのは危なすぎる。そこでこれだ」

 そう言ってストライが取り出したのは双眼鏡だった。

「村には物見櫓がある。そこからこれを使って俺達の戦いを見ていてくれ」

 もしも本物の角グマを知れば私は恐怖を克服出来るのだろうか。


 そうであるのなら断る理由はない。


「しっかり見届けるわ」


 思いの外、私のその声はしっかりしていた。




 ストライ達と別れて私達は物見櫓を登る。高さとしては5階建ての家といったところか。村自体が丘の上にあり、一望出来る景色はもっと高く感じた。

「あれが角グマがいると思われる畑?」

「そうですな」

 櫓についてきてくれたのはこの村の村長だ。ご老体の身であるが梯子をゆうゆうと登るだけの体力を誇り、背筋もしっかり伸びている。聞くに元ベルナール領の精鋭部隊の隊長をしていたとの事だった。

「今のところ全く見えないわね」

「相手も生き物ですからな。特にここは角グマにとって知らない土地。周囲を警戒しつつ、目立たないようにしながら移動しているのでしょう」

「なんだか怯えているように聞こえます」

 ソフィアの問いは私も感じた事だ。散々角グマの強大さを聞かされてきた私達にとって、その慎重さは真逆に聞こえた。

「怯えていますとも。だから攻撃してくるのです。生き残るために」

 村長の言葉に私達は何も言えなくなった。ヴォルフ達の襲撃を受けてその必死さを知っていたはずなのに、ストライから母グマの話を聞いていたのに、どうして普通の生き物とは違うと思ってしまったのか。恐怖は目を曇らせると痛感した。


 だからこそ私はこの戦いを見届けなければならないんだろう。


 決意を新たにしていると、アーニャが声をあげた。

「ストライ様達が見えましたわ」

 私達は双眼鏡を手に取り、急いで彼らの姿を探した。ようやくストライの姿を確認した時、彼の背負っている何かを見て呆気に取られてしまった。


「あれは……剣なのか?」

 

 初めに戸惑いの声をあげたのはアルベルトだ。それもそのはず、ストライが両手剣を使う事は知っていたが、私達が想定する両手剣とは鋼鉄製の重々しい感じのものだ。だがストライのは違う。

 パッと見の話ではあるが、巨大な木刀で、刃に当たる部分には何か鋭い棘のようなものが等間隔に生えている。とても原始的で時代に逆行したような代物だ。

「あれは木製……なの?」

「ええ、鉄は重いですからな。威力はあっても速さがないのであれば意味がない。先に角グマから一撃貰ってしまいますわい」

 どちらかと言うと外れて欲しかった問いは、間髪入れずに肯定され、私は微妙な気分になる。あれでどうやって角グマを倒すというのか?

「となるとあの棘に秘密があるのだろうか?」

「そういう事です。何せあの棘は鉄をも貫く代物ですから」

「そんなモノが存在しているなんて……一体それは何なのだ?」



「角グマの角ですよ」



 私達は絶句した。

「いや待て。角グマの素材が固くて優れているのは知っている。だが加工は難しかったはずでは?」

 ベルナール領への道で、アーニャが角グマを素材として利用出来ないか提案した時、それは無理だと指摘したのはアルベルトである。彼が嘘をついているとは思ってないが、真相は気になる。

「ええ、だから角だけなのです」

「……どういう事ですの?」

 アーニャの戸惑いの声に村長は説明した。

「角グマの毛皮は矢をはじくほど頑丈で、その内側は分厚い筋肉の塊。それをささえる骨も密度が高く、鉄よりも固い。角グマの角は骨の一部が外に露出している事になるわけですが、それはすなわち皮と筋肉を無視出来るという事でもあります。さらに言えば角は他の骨と比べると細く、武器として使えと言わんばかりに鋭くとがっている。利用しない手はない」

「角に限定すると加工コストも抑えられるという訳か。確かにそうだ」

 アルベルトは納得を見せるが、今度は別の疑問がわいてくる。

「加工コストの問題が解決するのであれば、もっと角グマの武器は知られていても良くなくて?」

 そう、アーニャの言う通り、武器利用が出来るのであれば国全体に広がっていなければおかしい。鉄より強いのは魅力的なはずだ。そうなっていないのは何故なのか。

「人にとって角グマは厄介な相手です。だが狩りつくすわけにはいきませんのでな。角グマがいてくれるからこそベルナール領は守られている側面もあるのです」


 村長の答えは考えさせられるものであった。




今回もお読みいただきありがとうございました。

角グマの加工が難しいという話は乱獲防止の側面もありますって話です。

次は熊殺しの大剣がどのように使われるか、実践編です!

次回更新は木曜日、宜しくお願いします。

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