表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王子の婚約者である私ですが、ヒロインを全力で支援します  作者: 幸イテ(旧名:kouta)
選択のその先へ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/30

第二十九話 在りし日の理想 ソフィアサイド


「ソフィア助かった」


 話し合いが終わった後のアルベルト様の第一声はそれでした。

「どういたしまして。余計なお世話かとも思いましたが、正解だったようですね」

「ああ、君が許す方向に動いてくれなければ、私は教会に罰を与える方向に行かざるを得なかった。いや、本当は罰しなければいけないのだろう。男爵が私利私欲にまみれていたから、運良くこれだけの被害で済んだが、下手すれば革命が起きて内紛だったからな。しかし」

「その罪を正しく罰しようとすれば教会が潰れます」

「ああ」

 色は国の根幹に関わるものです。秘密の漏洩は重罪ですが、その状況を作ってしまった教会の者のほとんどは今の重鎮達なわけです。上が丸ごと抜けてしまえばもはや教会は成り立たないでしょう。

「……仮に教会がなくなるとすれば国はその痛みに耐えられません」

「色んな所で問題が出るな。教会の運営が回らなくなるだけでなく、色の事実を知っている者も軒並み消えてしまう」

「国だけで隠すのは難しいでしょうね。また色付けは現状、教会の者にしか出来ないのも問題です」

 色付けに関しては権力者が覚えてしまうと、それこそ男爵のように悪用しだす懸念があったため、あえてと言う部分はあるのでしょう。色付けの持つ教会に監視させる事で、貴族の質を一定に保っていたのです。

 一方で教会側から問題が発生した場合の監視が甘かったわけですが。アルベルト様は頭を抱えながら続けます。

「何より何の罪か表立って公表出来ない事が辛いな。共犯者である我々はともかく、下位貴族と民の教会に対する支持は厚い。おそらくであるが、これはこれで内紛が起きてたな」

 ぞっとする話でした。私達の国はまさに紙一重の状況だったのです。

「運に助けられた。本当にぎりぎりだった」

「ええ」

 結局それに尽きました。私とアルベルト様は、ちゃんと己がすべき仕事をしたと思いますが、一番重要だったのは運が良かった事です。

 そもそも今回の件は、ウェンディのなりかわりを見逃していた時点で後手に回っていました。男爵が私利私欲にまみれた愚か者で、最小限の傷で済んでいたからこそ、私達は教会を許すという選択肢が取れたわけです。

 

 状況が最悪じゃなくても、油断辞さぬ状況には変わりありません。事の発端であるオルフが未だに野放しになっているのですから。彼を捕らえない事には国が崩壊する危機は残り続けるでしょう。

「全く退屈しないな」

 ですがアルベルト様はそれがどうしたと笑いました。

「本当に」

 私もそれに続き、笑顔を作ります。


 私達のそれは、単なる強がりでしかありませんが、同時に闘志の現れでもありました。元から簡単な道だと思っておりません。問題は起こるもの、私達は初めからそう考えていました。


 運が決め手となって勝利、上等です。『運がある』はむしろ最強の能力ではありませんか。


 どんな形でも、勝ちは勝ちです。


 思い出すのはセイファート家の門でナタリア様と対峙した時の事。ナタリア様は言いました。この道は決して楽な道ではないと。むしろ一番険しい地獄の道だと。


 それでも私は選んだのです。そこにアルベルト様とナタリア様がいるのならと。


 だから試練は望むところです。退路なんて元からありません。私がソフィア・クアラルンになった時から。ナタリア様の言っていた、やり遂げた先にのみある平穏の時、そこを目指して私はただ走り抜けるだけです。



 決意を胸に秘め、私はアルベルト様と共に部屋を後にしました。こうして私の最初の大仕事は終わったのでした。




 アルベルト様と別れ、屋敷の前まで到着すると、疲労感がどっと噴き出してきます。怒りを出しきった反動が一気に来た、そう思いました。

 今更ながらに指先が震えてきます。フローレル男爵は疑いようもなく悪人です。それでも彼を始末する事を選んだ事実は重いものでした。国を守るためとはいえ、人の命を奪う力を手に入れてしまった。そこに喜びなんてありません。

 皆、誰かが罪を犯したとして、その報いを受ければいいと言います。でもそれは自分に責任がないからこそ言える事なのだと思い知りました。


 私は拳を握り、今日初めて感じた重さを嚙み締めました。王妃になる以上、私はこれからもこうした重さを積み重ねていくのでしょう。


「全く、断罪が気持ちいいなんて……とんでもないですね」


 今でこそ私も同じ立場に立っていますが、子供のうちから覚悟を決めていたアルベルト様とナタリア様は凄いとしか言いようがありません。

 王族の責務とは何て重たいのか、命令一つで人の命を奪える立場とは何て恐ろしいのか、私は二人に畏怖の念を禁じ得ませんでした。



「ただいま戻りました」

 私は玄関口まで辿り着くと、帰ってきた事を告げます。するとすぐに侯爵様と奥様が迎えてくれました。二人は私がフローレル男爵に会いに行った事を知っていたため、心配してくれたのでしょう。

「おかえりソフィア。終わったのか?」

「ええ、お義父様、お義母様。フローレル男爵と決着をつけてまいりました」

「そう、本当にご苦労だったわね」

 侯爵様達から労いの言葉を貰って、私は心が温かくなりました。帰ってきた、そう実感が沸きます。ですが報告はちゃんとしなければいけません。

「フローレル男爵は病死と言う扱いになります。それに伴い男爵家もなくなるでしょう」

「そうか。男爵領の領民は一時期大変になるだろうが、将来を考えると空きが出るのは悪い事ではない。バージェス王の特待生制度は、優秀な平民から新たに貴族へ迎え入れる事も視野に入っていた」

「今回の件は色の機密の漏洩も含まれていたから、私達大人がやるべきか考えましたが、見事やってみせましたね」

 普段は優しいご夫妻なのですが、流石のナタリア様のご両親でした。その名が有名になるほどの優秀な密偵を抱えているのです。只者であるはずがありません。私も娘としてではなく、公爵令嬢として話を続けます。

「ただ問題はすべて解決したわけではありません。最も危険な人物は野放しとなっています」

「先にエルの伝書ガラスが来たから知っている。まさか死んだはずの司教の息子だとはな。まだ油断は出来ないし、男爵の加護がなくなって、むしろより危険になったかもしれない。ただ危険とチャンスは紙一重だ」

「動くのであれば目立つ事は避けられないわ。アルベルト様の方で動いているでしょうが、セイファート家も全力を尽くしましょう。でもあなたは一度休みなさい。ここ数日は色々あって疲れがたまっているはずよ。司教の息子の調査については私達の方に任せて」

「ありがとうございます」

 二人に認められてようやく私に達成感が沸いてきました。オルフの危険性ばかり考えてしまっていましたが、潜伏されたままも困ってしまうのは確かです。ここは一つ進んだと考えた方が建設的なのでしょう。

 私がそのような事を考えていると、ふと侯爵様が妙な事を言いました。

「ところでソフィア、さっさと湯浴みして休みたい所だろうが、その前に一度厨房に行ってみると良い」


「厨房、ですか?」


 戸惑う私に侯爵様は朗らかに笑います。それは私が喜ぶと確信しているようでした。奥様も同じように笑っています。厨房であるのでしたら誰かが料理をしているのでしょうが、一体誰が……? 


 直後、私の頭にとある光景が脳裏をかすめました。


「私、行ってきます!」


「ふふ、行ってらっしゃい」


 ドレスで走るなんてはしたない。それは分かっています。でも今だけはそんなの関係ありませんでした。ドレスの裾を持ちながら全力で駆けます。綺麗なドレスは嫌いではありませんが、こういう時は邪魔でしかなく、酷くもどかしい。

 途中メイドのナンシーさん達とすれ違いましたが、今だけは誰も私を咎めませんでした。皆私がどこに向かっているか分かっているのです。


「はぁ、はぁ……」

 息を切らしながらも厨房前に辿り着いた私は、一度ゆっくり呼吸を整えました。きっとここで料理をしているのはナタリア様だ。ヒントとなったのはナタリア様が幼い頃、炊き出しをしていたという事。

 普通の貴族は料理をしないのは分かっています。でもナタリア様だったら……私は期待に胸を膨らませながら、恐る恐る厨房の中を覗き見ました。


「あっ……」


 私が真っ先に思った事、それは……


 これは駄目だ、という事でした。



 目の前にあるのは鼻歌を歌いながら、鍋をかき混ぜるナタリア様です。いつもの凛とした姿ももちろん好きですが、今のナタリア様はとても無邪気で、純粋に料理を楽しんでいるようでした。

 国も、責任も関係ない、素のナタリア様がそこにはいました。私は心の中で同じ言葉を繰り返します。



 ああ、駄目です。こんな姿を見せられてしまっては……



 私には分かってしまいました。フランがどうしてあそこまでナタリア様に焦がれたのか。お腹が空いて明日生きているかも分からない中、あのナタリア様に微笑みながら、温かい食事を提供されたのだとしたら。


 そんなの好きになってしまうに決まっています。


「あら? 帰ってきてたのね」


 私が立ち尽くしていると、私に気づいたナタリア様は微笑んでくれました。久々に見た屈託ない笑顔に私は泣きそうになります。私は誤魔化すようにナタリア様に問いかけました。

「ナタリア様、お料理が出来たのですね?」

「炊き出ししていた頃はよくやっていたのよ。やるからには自分の料理を食べてもらいたくて。ま、別に私が作る必要はなかったのだけどね。私の我儘で随分と周りを困らせたと思うわ」

 確かに誰が作ろうが食べ物に違いはありません。でもやっぱり違うのです。

「私はナタリア様の料理だったら食べたいですよ?」

「ふふ、そう言ってくれて嬉しいわ。でも今日は久々にやったから段取りが悪くて。やっぱり継続していないと忘れるものね。だからといって食べさせないとかはないけれど、その代わり味に期待しないでね」

「分かりました。ところでこのまま見ていてもいいですか? 邪魔はしないので」

「別に構わないけど、あなたも物好きね」

 それは何気ないいつもの会話でした。戻ってきた日常を私は噛み締めます。ナタリア様が元気になってくれて本当に良かった。

 

 私はそのままナタリア様が料理をする光景を眺めていました。本人は久しぶりで上手く出来ないと言っていましたが、それでも腕前は十分なほどで、炊き出しの時も、自分の手で美味しい物を食べさせたかったのだろうなと容易に想像が出来ました。

 ナタリア様は料理に集中しているため、それ以上の会話はありません。しかしあの時と違い、ナタリア様は私が近くにいる事を許容してくれている。だから無言でも心地良い時間でした。


 その後も私が取り戻した幸せを満喫していると、不意にナタリア様が言いました。



「ウェンディの……フランの事……聞いたわ」



 私から見えるのは後ろ姿のため、その表情は分かりません。でも自分から話したという事は、ナタリア様の中で何かしらの整理がついたという事なのでしょう。

「お義父様とお義母様はとうとう話したのですね」

「あら? その呼び方……」

「はい、お二人が良いと言っているのに、何時までも意地張っている自分が馬鹿らしくなりまして」

「ふふ、ずっと呼ばれたいと言っていたから喜んだでしょうね」

「あんなに喜んでくれるなら、もっと早くに呼んであげれば良かったと後悔してます」

 ナタリア様は一度子皿にスープをよそい、味を確認しました。納得出来る味だったのでしょう。一人頷くと鍋に蓋をして、私の方へ向き直りました。


「話を聞いてからもう一度、あの子の事思い出せないか挑戦してみたのだけど、それでも無理だったわ」


 ナタリア様は特に落胆した様子もなく言いました。あくまで淡々と。私はそれをどう受け取ればいいか考えましたが、その答えが出る前にナタリア様は不満げに口を尖らせます。どこか子どもっぽい珍しい表情でした。

「でもね? それも当然なの。だって炊き出しの時にわざわざ名前を聞いたりしないでしょ? 顔だって一瞬見ただけの人をどう覚えていろって話なの?」

 いきなりフランに対する不満が始まった事に私は驚きましたが、ナタリア様の言う事はもっともでした。自分にとって素敵な思い出だから、相手にも覚えていて欲しいというのは我儘でしかないのですから。でも悪態の中に親しみが込められている気がするのは気のせいなのでしょうか?

「ただ……」


「ただ一人、印象に残っている子がいたわ。その子の髪は短かったけど、確かに女の子だった」


 私は息を呑みました。


 とうとうナタリア様は記憶の底から引き出したのです。名も知らないあの子を……


「その子はね? 私がスープとパンを手渡すと、顔をキラキラさせてありがとうって言ってくれたの。私はそれが嬉しくて、より料理に力を入れるようになったわ。もっと美味しくってね」


 それがフランであるかは今の私達には分かりません。きっとそうであろうという推測のみです。それでもかまわないと私は思いました。


 事実を教えなかったのはあくまでフランの責任です。本来ナタリア様は思い出す必要なんてありませんでした。でもやり遂げたのです。ナタリア様は十分過ぎる程、頑張りました。

「ナタリア様、フランの事を思い出す事は止めはしませんけど、あまりフランの方ばっかり向いていると私嫉妬しちゃいますよ?」

 私はナタリア様に釘を刺します。フランの存在がナタリア様の記憶に残るのは、今更なので認めていますが、ナタリア様の一番になる事は認めていません。自ら退場した人間でそれは流石に図々しいです。

「ふふ、可愛らしい嫉妬ね。分かってるわよ」

「だったらいいです」

 たらればを考えれば無限に答えは出てきます。もっとうまくやれたはずは尽きません。ナタリア様は無事に立ち上がる事が出来ましたが、きっと完全に回復する事なんてないんでしょう。フランはそれだけのものをナタリア様に刻み込みました。


 それは私だって同じ。私はフランを別の私の可能性だと知ってしまったし、人を裁く事の重さを思い知りました。行いとして正しくとも、人のその後の人生を奪う選択をした事は、これからもずっとしこりとなって残り続けるでしょう。


 私も、ナタリア様も傷を抱えたまま生きていくのです。生きている限り。



「さて、頃合いかしらね。早速味見してみる?」

「是非」

 ナタリア様から受け取ったスープ入りのお皿に私は口を付けます。



 待ちに待ったその味は、優しさに溢れていました。







これにて第二部完結です!


読者の皆様、ここまでお付き合いくださり、誠にありがとうございました!


第二部は一部から引っ張っていた色の伏線を回収する事が第一目標だったのですが、終わってみれば当初の予定以上に色々書いてしまいました。第一部は基本的にナタリアが頑張っていましたが、第二部ではアルベルトの本来の優秀さ、ソフィアの成長した姿を見せられたかと思います。流れでウェンディについても色々語りたくなりますが、ここら辺はちゃんと完結した際にキャラ語り部分などを設けようかなと。


次は第三部となりますが、この物語は次の第三部+エピローグで完結の予定です。

最後の終わりまでお付き合いいただけると嬉しいです。

三部については、すでに書き始めているのですが、ギリギリだと色々ミスが出てきますので、一度ストックを貯めたいと思います。よって更新は再来週の月曜日、4月6日を目処に再開する予定です。


少しお休みをいただきますが、今後とも宜しくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ