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王子の婚約者である私ですが、ヒロインを全力で支援します  作者: 幸イテ(旧名:kouta)
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第二十一話 姿見えぬ者達


 私が差し示したベルナール辺境伯には他とは大きな違いがあった。他のリストに書かれた貴族には、多かれ少なかれ何かしら書かれている。だがこのベルナール辺境伯だけはその名前以外は白紙であった。

「ベルナール辺境伯……子息子女がこの学校に通っていない唯一の存在だな」

「ここでの勉強は辺境では役に立たない。そういう事なのでしょうね」

 辺境伯と言う言葉にあまり馴染みのないソフィアは私達に問いかけた。

「辺境伯……数ある爵位の中でも特殊とされているものでしたよね?」

 言葉として知ってはいるが、やはり会った事も見た事もないではしっくりこないのは当たり前の話である。アルベルトは確認の意味も含めて、ソフィアに丁寧に説明し始めた。

「ああ、一般的な貴族は公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵になるのは知ってると思うが、辺境伯というのは序列的には侯爵と伯爵の間に位置する事になっている。しかし話はそう単純ではない」

「といいますと?」

「辺境伯は爵位こそ中間に位置するが、ある意味では我が国と協力関係にある独立した小国みたいなものなんだ」

 これこそが私がソフィアにあえて辺境伯について詳しく教えていなかった理由であった。辺境伯のあり方はあまりにも独特過ぎるため、普通の一般貴族と混同されるのを避けたのだ。しかし今のソフィアならもう大丈夫だ。

 私はアルベルトが小国と言った意味をソフィアに説明する。

「国境に位置する辺境伯領は隣国に何かあったら一番先に影響が出る場所。緊急時には国からの指示を待っている時間はない。だからこそ辺境伯には他の貴族達とは違って、許可を得ずして独自に動ける権利が与えられてるの」

「だから国なのですね」

「国にとっての最大の味方でもあり、最大の敵でもある。それが辺境伯よ」

 私の言葉に頷くと、アルベルトは辺境伯をこう評した。

「彼らの矜持を裏切るような事があれば、我々王族にすら牙を向けるだろう」

 ソフィアは息を呑む。彼女の事だから理解したのだろう。もしも自分達が失敗した場合、討ちに来る者こそがこの辺境伯だと。

「しかしナタリア。何故この辺境伯を選んだ? 彼らを納得させる事が私達の最大の壁であるのは間違いないが、今回の振るい分けにはあまり関係ないだろう。そもそも参加すらしていないのだから」

 アルベルトの指摘に私は頭を振る。

「子息子女が学校に通ってないからって関係ないと断定するのは軽率よ」

「それは……その通りだな」

 アルベルトの思っていた事は理解出来る。アルベルトも別に辺境伯を警戒していなかったわけじゃない。ただ優先順位を下げていただけの事。実際私もそうだった。エルがとある情報を持ってくるまでは。

「実は今回の調査中、我が家の密偵の一人が、どこの家の者か分からない者を見つけたの」

 アルベルトの顔がこわばった。我がセイファート家の密偵の能力は高い。故に我が家の密偵を持ってしても調べ切れなかった事実は軽くはなかった。

「それでも正体は分からずとも、消去法を使うと選択肢は限られてくるわ」

 正体の分かっている各家の密偵達を除外していくと、残された貴族は数える程度になる。その残された中で一番匂うのがベルナール辺境伯であった。

「幸いその者がどこを訪れたかは分かっている。その者が訪れたのは――」

 私は視線をリストの方へと向け、今度は辺境伯とは違う、別の者を指差した。


「……ホープ子爵家か」


「どういう繋がりなのかはまだ分からない。でも仮にその謎の者が辺境伯の者だった場合……」

「十中八九ホープ子爵家から情報を得ているな」

「商人の姿をしていたそうなんだけど、実際に商品のやり取りもしていたようね」

「ふむ、本当に辺境伯だとしたら、毛皮などを卸して、食料品に替えたと考えるのが無難か。そこまでなら普通の取引だが……」

「油断せずに最後まで見ていたおかげね。商人達がホープ子爵家を離れた後、ガラの悪い男達が馬車の道を塞ぎ、いざこざの間に別の男達が馬車の中に入って物を盗もうとしたの。そうしたらいきなり鋭い剣閃が走り、先頭だった男の前髪を切り裂いたのですって」

「躊躇なく行ったのか。ギリギリの間合い管理といい、相当の手練れだな。それだけの実力者、ただの商人のわけがない」

「その後我に返ったのか、剣をしまって素手で対処していたけれど、後の祭りね。セイファート家の密偵はその一瞬を見逃さなかった」

「不運だったな。無謀な襲撃さえなければ完璧に仕事を終えられたのに」

「でも私達にとっては幸運だった」

 一方ソフィアは私からの情報を精査し、別の角度で謎の密偵の実力を推測した。

「商人は上手い方法だとは思います。ただ商人に擬態するってそう簡単ではないですよ。商人の方が持つ独特の空気は演技でやるのは困難なはずです。セイファート家の密偵の方々が人じゃなくて、こうして事件が起きなければ見抜けなかったともなれば、相当な擬態力ですね」

 この場においては市井を良く知らない私達よりも、生の市場の持つ空気を良く知るソフィアの方が信頼出来る。私とアルベルトは頷いた。

「よく辺境伯を知らない者は彼らを情報に疎い田舎者などと言うが……」

 真相は全く逆だったというわけだ。あくまで辺境伯の密偵という推測が合っていればの話であるが。残念ながら今持っている情報がすべてで、証拠らしい証拠はない。しかしながら私達の直観は告げていた。


 辺境伯が秘密裏に動いていると。


「辺境伯の事は気がかりだが、ホープ家も気になるな。ホープ家の長男は昨年卒業し、現在は長女が私達と同学年にいるはずだが……」

 アルベルトからの視線を受けた私だったが、私もホープ家に対する有用な情報は持っていなかった。

「私の方もこれと言ったものはないわ。学校内における彼女の印象は薄いに尽きる」

 つまりだ。

「これは一杯食わされたか」

「その可能性は大いにありね」

 基本的に貴族と言うものは私達に良い顔を見せようとするものだ。それもそのはず、後の王からの覚えが良ければ後々優遇されるかもしれないし、困難に瀕した時も優先的に助けてもらえる。基本的に顔を売って困る事はない。だが何事にも例外は存在する。

「わざと実力を隠していたって事でしょうか?」

 ソフィアの疑問に私達は頷いた。何故と疑問の表情を浮かべるソフィアに私は説明する。

「当たり前の事だけど国は国を回していけるだけの有能な者を欲しがるわ。それは評価された者からすれば普通に考えれば栄誉な事、だけれども一緒に責任も生じる。ソフィア、あなたがそうであるように。まあ、あなたは抱える事を即決したわけだけどね」

 本当に大したものである。ソフィアは私達と一緒にありたいと強い想いを持ってくれていたからこそ、王妃という重すぎる責任を受け入れてくれた。

「要するにホープ家は責任が重くなるのが嫌だから、有能扱いされたくなかったって事ですか?」

「言い換えればその責任を享受出来るほど、私達国を信用していないとも言えるな」

 ホープ家からは命を懸けるに値しない。そう思われているわけだ。

「……欲しいわね」

 私は率直に言った。

「ああ」

 アルベルトも頷く。

「信用されてないのに、ですか?」

「信用されてないからこそ、だ」

 ソフィアの疑問にアルベルトは迷いなき声で答えた。それでも今一ピンと来ていない様子のソフィアに私はヒントを与える。

「ソフィア、国王夫妻を思い出しなさい。もしも二回目でなく、王妃様に最初会った時に認められてたらあなたどう感じたかしら?」

「最初は喜んだかもしれません。でも……」

 ソフィアははっとした様子で口元を抑えた。

「ああ、そういう事なのですね」

「ふふ、理解したようね」

 一回目のソフィアと二回目のソフィアの力量の差はまるで違う。何せ二回目のソフィアは挫折を経験し、悔しさをバネに必死に努力したソフィアだ。ソフィアの審査がここまで厳しかったのは王と王妃が本気だったからこそ。どうでも良かったのなら一回目の時にさっさと許しを出していただろう。

「そうだソフィア。ベルナール辺境伯とホープ子爵家は私達が王族だからと言って、無条件で受け入れる程安い相手ではない。王という肩書関係なく、私達自身を試している。本気でな」

「だからこそ彼らに私達を認めさせる事が出来れば……」

 彼らは私達を敬う存在ではなく、対等として見ている。私達の熱を受けてソフィアは頷いた。

「私達にとって唯一無二の味方になってくれる、そういうわけですね」

 それは満点の回答だった。そう、彼らは私達にただ付き従うだけじゃない同士になれる存在だ。私達の未来にはきっと彼らが必要になる。



「辺境伯と子爵家、二つの繋がりに辿り着いたのはただの偶然だったが、ここは運も実力のうちと考えよう」

「ぎりぎり間に合ったと思いたいわね。危うく無能をさらすところだったわ」

 粘り強く待ち続け、商人の裏の姿を暴いて見せた密偵には褒美をあげないとね。今回のはまさに値千金の情報だったわ。

「でもどうするのです? こちらから何かするのですか? ホープ家の長女の方は学校にいらっしゃるのとの事ですが……」

 ソフィアの疑問はもっともだが、それに対する私の答えは決まっていた。

「別に何もしなくていいわ。あっちは勝手に私達の情報を集めてくれるのだから、私達はただ見せつけてやればいいのよ。何時か私達に何か感じたらあっちから動いてくるでしょう。良い感情であれ、悪い感情であれ」

 今焦って会っても、私達も、相手も、誰も欲しい答えを得られないだろう。私達はお互いに情報が不足している。今はまだいずれ来る時に備えて蓄える段階でしかない。

「ただこちらも気づいているとだけは見せておいた方が良いわね」

 舐められるわけには行かないからと締めるとソフィアの目がキラキラしていた。

「ナタリア様は動じませんね。流石です」

「変な話だけど、陰謀論やら魔王論者よりも楽だわ」

 私は得意げに彼女の視線に応える。厄介ではあるけれど意味不明ではない。強敵であっても相手が同じ土俵にいてくれる安心感と言ったらなかった。

「ナタリア、頼むから思い出させないでくれ。今日だけは彼らの話は十分だ」

 しかしながら私の発言はアルベルトのトラウマをえぐってしまったらしい。彼に触発されて私は私で無敵子息を思い出してしまう。

「本当にごめんなさい」

 思い出すや否や、一気に疲労感が噴き出して、私は自分の軽はずみな発言を心底後悔したのであった。



今週は三話分いけました! しかしながら、ストック自体はまだあるものの、ちょっと現在の出張先が忙しくて、執筆が思うようにままならないため、来週の更新ペースは抑えて二話分にします。月曜日、木曜日、どちらの午後七時前後予定ですのでよろしくお願いします。

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