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王子の婚約者である私ですが、ヒロインを全力で支援します  作者: 幸イテ(旧名:kouta)
抗いし者達

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第十四話 始まりの時


 アルベルトが覚悟を決めたその日、私達は今後の計画について話し合った。変な話であるがここまで本気でぶつかり合ったのは初めてかもしれない。これまでがふざけていたという事はないが、国の幸せではなく自分の幸せを考えるではやはり違ってくる。

 今の私達は水を得た魚のように生き生きしていた。

「ソフィアをクアラルン家としてお披露目するのはどのタイミングが良いだろうか?」

「政治的な意味だけじゃなく、ソフィア個人としても晴れ舞台よ。やるからには最高を目指したいわ」

「それはもちろんだ。ファーストダンスを彩る最高のドレスを用意しよう」

「その前にソフィアには踊りも覚えてもらわないといけないわね」

 現段階ではソフィアが断る可能性があるのにも関わらず、私達の話し合いは止まる事がなかった。これは私がと言うよりかはアルベルトの方が止まらなかった事が大きい。アルベルトは後の王である事から、私以上に無理やりソフィアへの想いを封じ込めていた。それが一気に解放されたともあればこうもなろう。


 私が解放されたのは日も暮れそうな時間になってからであった。帰りの馬車内で、熱が冷めてきた私はエルに問いかける。

「エル、私は間違っていると思う?」

「私には分かりかねます。ただ私はついていくだけです」

 忖度なしの直球な答えであったが、むしろそれが心地良かった。



 両親にはすでに自分の覚悟は話してあった。私が進む道は安定とは程遠いイバラの道、最悪死ぬ可能性だってある。だから私はアルベルトに会いに行く前に両親に告げたのだ。もしも私が失敗したら、切り捨ててくださいと。

 両親は沈痛な面持ちで頷いてくれた。しかし

「……分かった。だが約束してくれ」

「約束?」

「ああ、私からの約束はただ一つ。絶対失敗するな」

「お父様……分かりました」

 私は両親からの愛に思わず泣きそうになった。失敗は許さない、本来はプレッシャーになるはずの言葉は温かくて、そんな優しさがある事を私は初めて知った。私が涙を堪えていると母が優しく背中を撫でてくれる。

「ふふ、血は争えないわね。貴方のお父様もね。かなり無茶したのよ?」

「そうなのですか?」

「ええ、そりゃもう。私と結婚出来なきゃ領主辞めてやるぅってね」

「お父様?」

「それは……まあ……そうだな」

 父が赤面している姿を私は初めて見た。

「周りの反対を押し切ってだったから大変だった事は確かよ。でも今の私達を見て。私達はやり切ったわ。そして幸せになった。だから大丈夫、死ぬ気でやれば道は開けるわ」

 母の言葉は私に勇気を与えてくれる。二人とも私の失敗なんて微塵も考えてなかった。

「幸い兄達二人の婚約は決まっている。セイファート家の跡継ぎは心配いらない。だから好きにやると良い」

「恋愛結婚した私達が言う事じゃないのかもしれないけど、結婚がすべてじゃないわ。あなたの大切な人を守るために全力を尽くしなさい。ソフィアちゃんがここに来るの楽しみにしているわ」

 この家に生まれてよかった。私は心からそう思った。

「はい!」

 


 あの時の事を思い返すと私の心の内が温かくなる。両親の信頼は私に勇気をくれた。だから私は自信を持ってアルベルトと対峙する事が出来た。

 ソフィアを迎え入れるための鍵は揃った。後はソフィアに覚悟を問うだけだ。さあ、約束通り私を本気にさせた責任を取ってもらう事にしよう。



 翌日、早速私はソフィアを我が屋敷へと誘った。考える時間はすでに十分だった。これ以上無駄に引き延ばす事はしない。私は誘うだけで屋敷で何をするかは言わなかったが、ソフィアは真剣な表情で頷いてくれた。きっと私の緊張が伝わったのかもしれない。

 普段の私からすれば緊張なんて柄でもないと思うが、今ここが私にとって人生の分かれ目なのだ。この緊張こそが私が如何に本気なのかの証明に思え、その事を思うと少し気が楽になった。

「…………」

「…………」

 馬車で揺られる私とソフィアは終始無言であった。セイファート家が見えてくると私は御者にあえて門の前で止まらせる。馬車から降りる私にソフィアは何も言わずに続いた。



 私はソフィアと対峙するならこの場所でと決めていた。こここそが始まりにふさわしい。



 私は一度生まれてからずっと過ごしてきたセイファート家を見上げ、大きく息を吐く。そして心の中に檄を飛ばした。


 さあ、ナタリア・セイファート。アルベルトは賛同してくれた。両親だって味方してくれる。ここから最後の大勝負よ。


 最初の言葉はすでに決めてある。


「ソフィア、あなたアルベルトの事どう思っている?」

 私は回りくどい事をせず、直球に投げかけた。


「愛しています」


 ソフィアの回答は明確であった。婚約者である私の前で堂々と言ってのけるのは実にあっぱれだ。

「アルベルトのどこが良かったの? お金持ちだから楽が出来ると思った?」

 そんなソフィアを試すため、私はあえて辛辣な質問をぶつける。

「まさかですよ。確かにお金は生きるために必要です。だからいらないとは言いませんが、お金持ちは殿下の場合、その重責を考えればむしろ呪いとすら思います」

 呪いとは言い得て妙であった。資産がある者は妬まれる。当人がどれだけ聖人であっても。国王などその最たる例であろう。国王が国一のお金持ちなのは間違いないが、国を維持するのに常に神経をとがらせているため、自由に使うお金はあまりない。にもかかわらず王族は楽でいいねぇと言われるわけだ。

 満点の回答に心の中で頷くと私は再度問いかけた。

「ではソフィア。あなたはアルベルトの何を見たのかしら? 何を見て愛していると?」

「深い慈愛の心と奥底の空虚さ、でしょうか」

 私は唸った。ソフィアは私達を良く見ている。

「最初は恋と言うよりは驚きだったと思います。こんな人がいたのかと言う。でも後になってみればそれこそが一目ぼれというものなのですよね。私はそんな空虚な心を抱えつつ、正しくあろうとするアルベルト殿下に憧れました。そして知るにつれてこうも思いました。あの人の空虚さを埋めてあげたいとも」

 こうして直接ソフィアから私達の評を聞くのは初めての事だったが、人として欠けていた部分を見抜かれていたとは驚きである。私の場合、ウェンディの件でやらかして以降はばればれだっただろうが。でもそのせいで私の方が早くソフィアと仲良くなれたのだから、世の中不思議なものである。

 圧倒的な光の強さを見せつけるソフィアであったが、それまでとは一転して物憂げ表情を浮かべる。ここが彼女の光の限界であった。

「ただ私は平民です。私はアルベルト殿下の負担にはなりたくはない。それにナタリア様とも離れたくない」

 ソフィアは愚か者ではない。私との付き合いに関しては吹っ切れてくれたが、異性であるアルベルトとの仲を深める事は、最終的に婚約に行きついてしまう。それはアルベルトにとって弱点になるし、その婚約者である私の立場も台無しにしてしまう。

 私達の幸せを願ってくれるソフィアにとってはそれだけはあってはならない事であった。ソフィアにはどうしようもない壁、それ故に彼女は絶望する。でもそれでいい。


 何故なら


 その壁を破るのは私達の役目なのだから!


「ソフィア、私が、我がセイファート家が貴方を助けるわ」


 ここまではソフィアも予想通りだったのだろう。彼女に驚きの様子はない。でも甘いわよ。あなたはきっと侍女、良くてもアルベルトの側妃を想定していたはず。でも私の答えは違う。それではソフィアを守り切れる保証がない。中途半端は駄目だ。やるからにはより大きく、より鮮烈に。

 さあ、ソフィア覚悟なさい。これが私とアルベルトの、貴方に向ける愛よ。



「ソフィア、あなた王妃になりなさい」



「えっ……」



 ソフィアの目が大きく見開かれた。


 

 長い沈黙があった。覚悟を決めていたはずのソフィアにとっても、これは流石に予想外だったのだろう。そうでなくては困る。これは散々ソフィアから驚かされた私からの意趣返しでもあるのだ。

 ソフィアは一つ大きな誤解をしていた。人を見る目に優れるソフィアであるが、アルベルトと私は元から王子とその婚約者であったため、そのフィルターのせいで持ち前の直感を曇らせたのだろう。

 ソフィアは私とアルベルトの間にあるのは恋愛感情ではなく親愛である事は理解していたけれど、それでも婚約は揺るぎないものだと思っていた。


 それってよくよく考えればおかしいはずなのに。


 親愛とは家族に向ける愛だ。家族との結婚なんて普通は考えない。婚約者という前提があったからこそ、親愛でも成り立つと当てはめるしかなかったわけだ。さらに言えば私達の場合は親愛ではなく自己愛、中身はもっと酷いと言う。

 私はしてやったり顔をして今だ当惑しているソフィアを見た。これが愉悦というものなのね。


 最初こそ固まってしまったソフィアだったが、ふと我に返ると私の狂気じみた提案を咀嚼し、理解を深めていく。そしてソフィアは核心を突いた。


「それが私達に与えられた唯一の道なのですね」


 ぞくっとした。この理解力、理解してなお向かってくる意志の強い瞳、なんと美しい。


 私はそんな彼女に現実を告げる。この道を選んだ後にある地獄を。


「決して楽な道じゃないわ。あなたがアルベルトと平穏を享受出来るようになるには多くの試練がある。あなたが私の代わりに王妃となり、己自身の格を見せつけて周囲に認めさせる。これはあくまでスタートラインに過ぎない」

 最初だけでも実に困難だ。平民のソフィアにこれから短期間で王妃としての振る舞いを叩き込むのだから正気の沙汰じゃない。でも私はこんな事造作もないでしょうとソフィアに叩きつける。

「その後は世継ぎを生み、アルベルトと一緒に子らが自立するまで善政を続けなければならない。その間様々な苦難が襲い掛かるでしょう。幸福なんて感じている時間がないほどに。そのすべてを跳ねのけて、無事あなたの子に王位を引き渡す事が出来たら初めてあなたは平穏を得る事が出来る。国を守る王と王妃ではなく、ただのアルベルトとソフィアになれる」

 そう、私達はここまでやりきって初めて本当に欲しいモノを得る事が出来るのだ。

「それでもアルベルトと一緒になる事を望むのであれば一週間後のこの時間、我がセイファート家の門をくぐりなさい」

 とうとう私は全て言い切った。後はソフィアからの返事を待つのみであった。


 どれ程の沈黙が流れただろうか?


 永遠とも思える中、ソフィアは顔を上げて私を見据える。

「一つ質問があります」

 静かな、でもしっかりと聞き取れる声であった。私は予感がしつつも、平静を装った。

「何かしら?」

「私が王妃になった場合、ナタリア様はどうするのです? ナタリア様の幸せは?」

「それこそ愚問ね。自己犠牲をやめたからこそ私はここにいるわ」

 ソフィアの視線は私の奥底を射抜く。嘘がないかを確かめているのだろう。隠すところがない私は堂々と胸を張る。

「ナタリア様、途中で降りるのは許されませんよ? 私は欲張りですから二人とも必要なんです」

「大丈夫よ。離れたいと言っても離れてあげないから」

 私の発言を受けて、今度こそソフィアは納得したように頷いた。


 お互いの意思の確認は終了し、緊張から解き放たれた私達に穏やかな空気が流れる。ソフィアは苦笑しながら私に言った。

「正直一週間もいらないですけど……」

「ふふ、気持ちは嬉しいけどこちらにも準備があるから、約束通りに来て頂戴。それに人生に関わる一生に一度の選択よ。答えが決まっているのは嬉しいけれど、しっかり悩んでちょうだい。後悔しないために」

「はい、分かりました。しっかりマリアンヌ院長と話をしてきますね」

「それでいいわ」



「この一週間はあなたにとって最後の休暇よ。精々羽を休めなさい」


 そして一週間後、ソフィアは堂々とセイファート家の門をくぐった。



この作品を書く上で真っ先に思いついたのがここの二人の会話シーンでした。ここから設定を膨らませて行ったのですが、ようやくここまで来れた……

まだ出張先のため、更新ペースは遅くなりますが、今後ともナタリアとソフィアにお付き合いくだされば幸いです。

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