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王子の婚約者である私ですが、ヒロインを全力で支援します  作者: 幸イテ(旧名:kouta)
抗いし者達

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第九話 自由な箱庭


 事件のあった日、学校を休んでいたアルベルトであったが、ソフィアが登校を再開した翌日に無事に復帰したらしい。きっとソフィアの件を知り、守るためには悩んでいられないと思ったのだろう。

 一方で私はと言うと登校の再開を考えあぐねていた。悩みの種はもちろんソフィアの事だ。私は優秀な平民に対する貴族の恨みの深さを過小評価していた。思い出すのはウェンディの狂った目だ。

 今回は学生の身分だからこそ何とかなった面がある。では大人が、領主クラスが本気で平民を排除しようとしたらどうなってしまうのか。想像したくもないが、仮に私がソフィアを排除しようと思ったのなら、バレずに排除する方法を考えるだろう。

 そしてその作戦は十中八九成功する。偶然を装って不幸な事故を演出さえすれば、表立って殺す事も可能だ。むしろこっちの方が推奨されるかもしれない。こんな経験の浅い私でもあの手この手と手段が浮かぶ。

 私でも思いついてしまうからこそ理解してしまった。一見平和に見えるソフィアの立ち位置は実に危ういと。

 私が恐れるのは何も後を考えない愚か者ではなく、実力者が知恵を持って本気でソフィアを殺しにかかる事である。とても守り切れるものではない。


 ウェンディ達に一つだけ感謝している事がある。ウェンディ達がやらかしてくれた事で私は現実を知った。手遅れになる前にソフィアの周りにある危機を知る事が出来た。


 きっと私はソフィアが失われたら生きていけない。傷つけられただけで私はああまでなってしまった。ソフィアを守る事が私を守る事に繋がる。それがはっきりと分かった。


 ではソフィアを守るために私は何をすべきか。


 それが分かるまで私は安心して学校に通う事が出来ない。幸いなことに今学校では復帰したアルベルトがソフィアを守ってくれる。だからこそ私はここで己の思考に没頭出来た。肝心な答えは一向に思い浮かばなかったが。

 焦りはきっとある。でも目標が明確になった事で私は余裕ではないが、何か己の中にある芯のようなものが見えてきた感覚があった。

「これが形になればあるいは……」

 もどかしさを覚える中、私は時計に目を向けた。時計の針は午後3時を示している。丁度学校の授業が終わっている頃だ。アルベルトはソフィアの様子を見に行っているのだろうか? 何気に私はアルベルトが学校を休んで以来一度も会っていない。

 婚約者であるはずなのに焦がれる想いが沸いてこないのには苦笑を禁じ得なかった。彼の事が心配ではあるがそれだけだ。

「ナタリアお嬢様」

 私が学校の様子に思いを馳せていると、メイドのナンシーが現れる。今の私はエル以外の人にも会えるくらいには回復していた。両親や兄達にも随分心配をかけただろう。詳細はエルから聞かされているであろうに、家族は私がした事を知っているはずなのに責める事はしなかった。

 きっとウェンディ達の事後処理をしたのはきっと父だ。そんな父は私に話せるようになったら話してくれとだけ言われた。それだけ当時の私の容態が良くなかった事の現れであった。信用してくれる家族のためにも私は近いうちに答えを出さなければならない。

「ナンシー、どうかしたかしら?」 

「実は……」

 ナンシーからもたらされた衝撃的な一言に私は耳を疑った。


「今、何て言ったの?」


 私の反応が強すぎたのか、ナンシーは戸惑いながらも同じ言葉をつづける。

「特待生のソフィアと言う方が屋敷に来ております。門のところで待ってもらっていますがいかがなされますか?」

 思わず何ですぐに招かないのかと言いそうになったが、普通であれば平民の訪問は門前払いもいいところであった。それにメイド達は事件の事を知らされていないわけで、私とソフィアの関係など知りようもない。だから返さななっただけで上出来と言ってもいいだろう。

「客間に招いてちょうだい。私の友人だから大切に扱ってね」

「お友達ですか! 承知しました。精一杯おもてなし致しますね」

 友人と言うとナンシーは嬉しそうに手をたたく。彼女もまたロイドと同じで、幼い頃から私の世話をしてくれた大切な人だ。そんな彼女を一時の気の高ぶりで怒鳴らずに済んだ事に今更ながら胸を撫でおろした。

「私も準備したらすぐに向かうわ」

 今の私はいわゆる部屋着、外向けの服装をしていない。慌てて着替えを用意させ、身だしなみを整える。一通り終わった後に最中チェックに入るが、姿見に映る私の顔はガラにもなく緊張していた。

「どう、かしら?」

 いつもなら聞きもしない事をメイドに聞いてしまう。メイドはにっこり笑って返した。

「大変可愛らしいですよ」

「本当に?」

「ええ、もちろんです」

 メイド達の顔に嘘は見えず、私はやっと安心出来た。

「しかしお嬢様がここまで張り切るなんて、とても大切なお友達なのですね」

「ええ、そうなの!」

 ここには学校の生徒達の目がない。政治なんて気にしなくてもいい。誰を気にする事もなく思いを口に出来るのは思いの他嬉しかった。準備を終えた私は早速客間へと足を運ぶ。

そしてドアの前で一呼吸。色々な事が頭の中をよぎった。

 私はあの事件からソフィアと会っていない。今の彼女が実際私の事をどう思っているかなんて知りようがない。それでもあの時ソフィアは言ってくれたのだ。『嫌いにならない』って。その一言に後押しされて私はドアの戸を押した。

「ようこそ我が屋敷へ、ソフィア」

「ナタリア様、お加減はいかがですか?」

 私の姿を見るや否や嬉しそうにソフィアは顔をほころばせる。その姿に私の心は救われる思いであった。彼女の頬はまだ赤く、腰まであった長い髪も、今は肩に届かないくらいまで短くなっている。


 それでも、


 この笑顔だけは守れた。


 ソフィアが元気な姿を見せてくれている。だから私は気後れせずにソフィアと話をする事が出来た。

「貴方の方が酷い目にあったんじゃないの。私の心配をしている場合?」

「私これでも孤児院育ちですよ? 理不尽には慣れてます」

 力強く笑うソフィアに嘘は見られない。どうにも先ほどのメイドと言い私は疑い癖がついているようだった。情けない自分に苦笑し、私はソフィアを称賛した。

「その強さ見習いたいわ」

「私にもナタリア様に教えられる事があるのであれば喜んで」

 不思議な気分であった。学校で何度も話をしているはずなのに今が一番ワクワクしている。だってここには私とソフィアしかいない。ここでは私とのソフィアは公爵令嬢と平民の特待生ではなく、ただのナタリアとソフィアだ。私が望んでいた空間が、今まさに目の前にある。

「それで今日は何か用事があったのかしら?」

「まずはお礼が言いたくて」

「それは当たり前の事よ。私は特待生制度がうまく行っているか確認する義務があるし、特待生を守るのもその一環。要するに仕事の延長線上って事。だから恩に感じる必要はないわ」

 ここで義務に逃げてしまう自分が恨めしい。それまでずっと演じてきたツケであった。今は周囲の目がないから演じる必要などないのに。だがソフィアにはそれがお見通しであった。

「それはきっと事実なのでしょう。でもナタリア様は怒ってくださいました」

「……」

 思いっきり痛いところを突かれた私は閉口してしまう。その沈黙は致命的でソフィアの猛攻が始まる。

「ナタリア様、聞かせてください。その怒りも仕事……義憤でしたか?」

「そ、そのとおりよ!」

「本当に?」

 彼女の丸い瞳が私の奥底を射貫く。

「……その聞き方はズルいわ」

 もはや観念せざるを得なかった。私はあの時確かに公ではなく私を優先した。

「ふふふ」

 茶目っ気たっぷりで笑うソフィア、素で接する事が出来る場での彼女はこんなにも可愛い。

 だが私の素と言えば……

 あの時、怒りに我を忘れてしまった自分を思い出す。

「幻滅したでしょ?」

 つい言葉に出してしまった私にソフィアは頭を振った。

「私は嬉しかったですよ」

「あんなに凶暴だったのに? 私下手すれば人を殺していたかもしれないわ」

 意外な告白に私は驚きを隠せず、あえて罪の重さを強調して見せる。だがソフィアはまるで動じなかった。

「でも、それだけ私の事を好きでいてくれたって事ですよね?」


「そ、それは!!?」


 かぁーっと頬が赤くなるのを感じた。


「本当は諫めるべきなのかもしれません。でも正しい事と嬉しい事は一致するとは限りません。私は私のために正しくない事をしてくれたナタリア様が好きです」

「ちょ、ちょちょ待ちなさい! 何を言っているの貴方!!?」

 思わず席を立ちあがり、指差して叫んでしまう。

「ふふふ、元気出ました?」

「んなっ!?」

 からかわれたと知り、私はふてくされてそっぽを向く。とてもソフィアを直視出来なかった。でも元気出たは確かにそうだ。あの時の私をソフィアに肯定してもらった。それだけで私はこんなにも満たされている。私はきっと神の許しよりも、ソフィアの許しを必要としていたのだろう。

「からかって申し訳ありません」

「本当にね。侯爵令嬢をからかう平民なんて聞いた事ないわ」

「それもナタリア様が許してくれるからこそですよ。からかう気持ちはありましたが、好きなのはちゃんと本音ですからね」

「あー、頭痒くなるからもうやめてちょうだい!」

 怒涛の攻勢に私はもうたじたじだ。きっとここに来ると決めた時から、ソフィアはもう身分の差を気にしない事にしたのだろう。その方が私が喜ぶと確信を持って。何たる豪胆さ。私はソフィアの意外な一面を垣間見た。


「……もっと早くこうしていればよかった」


「ソフィア、あなた……」

 ソフィアのその言葉は今までと打って変わって切実さを帯びており、私の心に突き刺さった。

「私ずっと我慢していたんです。私はもっとアルベルト殿下とナタリア様と仲良くなりたかった。お二人の傍は凄く居心地が良くて……でも私は平民だからって欲張らずに我慢していました」

 私は知っていた。ソフィアもまた私達と同じであった事を。

「そうやって頑張って我慢していたのに周りは目敏く私を監視していて、結局あいつらは私を排除しようと行動した。何もしなければ訪れなかった未来を勝手に恐れて」

 そしてこれはソフィアだけが感じていたプレッシャー。私達はソフィアの立場を悪くしないために適正な距離を保っていた、はずだった。

「心底頭に来たんです。私も、ナタリア様もずっと我慢してきました。それを続けていく覚悟もあった。でもよりにもよってあいつらが私達の覚悟をぶち壊しにした。だから思ったんです」


「もう我慢しないぞって」


「我慢を、しない?」


「ナタリア様、もう私達仲良くしちゃいましょう! 我慢しても非難されるんであればもう我慢しないで、いっそ見せつけちゃいましょう。私の事は心配しないでも大丈夫。前回は油断しましたが、次からは自分の身は自分で守って見せます! 事前に分かってさえいればやりようはいくらでもあるんですから!」

 何て考えなしなんて思わなかった。十分に悩んだ末の結論だと理解していたから。だって悩み過ぎた結果があの事件だったのだ。アルベルトが心労で倒れ、その隙にソフィアが狙われた。

 ソフィアの言う通り、私達がいくら我慢しても、私達の奥底にある願望は隠しきれない。それをあのウェンディ達は教えてくれた。ウェンディ達が持つソフィアに対しての危機感が、私達の歪みを丸裸にした。

 すでに我慢して守るという行為は現実的ではない。だったら攻勢に出ると言うのは別に無理筋ではない。むしろそちらの方が正しい。


 守りが駄目なら攻める。なるほど、それはそうだ。


「ふ、ふふ、あっははは」

 私は大声で笑ってしまった。ソフィアの案が何とも痛快で。穴だらけなのは分かっている。ただこっちの方が私達の心は遥かに楽だ。どちらも結局は穴だらけなのだから、だったら我慢しない方が断然良い。

「良いわね。それ。でも自分自身で対応するのはやめなさい。平民が貴族に手を出すと罪が重くなるからね。だから貴方がするべきは一目散に私かアルベルトの元へ逃げる事よ。ちゃんと怪我させられる前にね。あなたが無事なら私もちゃんと理性的に振る舞えるからしっかり約束を守りなさい」

 何ならソフィアに伝書ガラスを一羽あげてもいいかもしれない。これだけでも孤立する時間は減るし、情報伝達も早くなって守りやすくなる。

「分かりました!」

 私の賛同を受けられて嬉しいのか、ソフィアは満面の笑みを浮かべて頷く。


 この日、私とソフィアは本当の友となった。


吹っ切れた人は強い(確信)!!

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