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薬師のお前を追い出したい!※できません  作者: 泉井 とざま


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第9話【間幕】薬師は期待に胸を膨らませて

第5話の少し前の話です。

第9話【間幕】薬師は期待に胸を膨らませて


(薬師のミーナ視点)


――ついに、この日が来た。


 取っ手にそっと添えた手が、かすかに震えている。

お店の扉はいつもと同じはずなのに、今日はやけに重々しく感じた。


「……よし。深呼吸、深呼吸……」


 吸って、吐いて。

そっと、取っ手に力を込める。

押し下げた瞬間、小さな鈴の音が店内に軽やかに響いた。


 中に入った途端、金属の匂いと油の香りがふわりと鼻をくすぐった。

棚に並ぶ剣や槍が、窓の光を受けて鈍く光を返している。

そして奥からは、研ぎ石が擦れるような甲高い音が響いていた。


「おーい! ちょいと待ってな! 今、手が離せねぇ!」


 しゃがれた無骨な声が、店の奥からどんと飛んでくる。

その声に、私は思わず背筋を伸ばした。


 胸の前で巾着袋を抱え直す。

その重みが、じんわりと腕にのしかかる。


 だって、今日。

今日こそ――


 ビッ君の誕生日プレゼントの剣を受け取る日なのだ。

そのことを思うだけで、頬がふわりとゆるむ。


 ここまで、長かったなぁ。

店内の喧騒とは裏腹に、私の思考は静かに過去へと沈んでいった。



――それは、今日から半年ほど前のことだった。


「ビックスの次の剣? それなら本人に聞いた方が早いだろ」

レオナードさんの正論に、私は早々に隠し事を諦めた。


「その……ビッ君の誕生日に、プレゼントしたいなって思って……」

「はは~ん。サプライズにしたいってわけか」


 にやりとした笑みを向けられると、自然と顔が赤くなった。 私は思わず視線をそらした。


「ち、違いますっ……! いや、違わないけど……その……」

言葉がしどろもどろになる私を見て、レオナードさんは愉快そうに笑う。


「なるほどなぁ~。……でも、剣は剣士の命だ。理由、聞いてもいいか?」


 レオナードさんの真面目な声に、胸がきゅっと縮こまった。

私は遊ばせた指先を見つめながら、ゆっくりと言葉を探した。


「……あのね。私の誕生日に、ビッ君が新しい調合台をくれたの。ずっと憧れてたやつで……私じゃとても手が出ないくらい高くて」

言いながら、胸の奥がじんわり温かくなる。

あの日の驚きと嬉しさが、今でも鮮明に思い出せた。


「でも、あとで知ったの。ビッ君、自分の剣を新しくするのを後回しにしてたって」

「へぇー、ビックスもやるじゃねぇか」

「だから……お返しがしたいの」


 腕を組んでうなずく彼をじっと見つめた。

視線を受けたレオナードさんは、口元をわずかに緩めた。


「よし、任せとけ! それなら、とっておきの作戦がある!」


――それから数日後。


 レオナードさんの“作戦”は、なんてことなかった。

ただ一緒に武具屋に行って、いつもの店主のおじさんと次の武器の話をしてくることだった。


「それで十分。親父にも定期的に尋ねるように頼んどいた」

彼は胸を張り、さらに続けた。


「これで、ビックスの要望の変更にも合わせられるだろ?」


 思っていた以上に、レオナードさんはちゃんと考えてくれていた。

やっぱり……本当に頼りになる人だ。


「ただな」

彼は頬をかきながら、気まずそうに視線を逸らした。


「ビックスの希望通りに作るとなると……そこそこの値段になる。多分、予想より高いぞ」

「えっ……」


 渡された見積りを見て、頭の中でこつこつ貯めてきた金額を思い浮かべる。

残り半年分の積み立てでは、とても届かない。


「た、足りない……! あと半年じゃ、間に合わないよっ!」

紙を握りしめる手が震え、声が跳ね上がった。


「話が盛り上がって、理想の武器になっちまったからなー……」

そんな私を見ても、レオナードさんはにやりとした笑みを崩さない。


「だからよ。そう思ってな、勝手だが協力者を募ってきたぜ」

「協力者……?」


 きょとんとした私の前に、ひょこっと二つの影が現れた。


「やっほー、ミーナちゃん!」


 先に声を上げたのはクララちゃんだった。

ひらひらと手を振りながらこちりへ寄る顔には、いつもの笑顔が浮かんでいる。


「……まったく。抱え込みすぎは良くない」

ぶっきらぼうなリリーさんの言い回しなのに、なぜか胸にすとんと落ちる優しさがあった。


「ミーナひとりじゃ負担が大きいと思ってな。二人にも話を通してある」

レオナードさんが腰に手を当て、私の前にどんと立つ。


「足りない分の金は、俺たちから出そうと思う」

「えっ……」


 思わず声が漏れた。


「私たちの個人報酬の一部を、積み立てに使ってくれ」

「ふふっ。みんなからのプレゼントになっちゃうけどねぇ」


 リリーさんは淡々と、クララちゃんはどこか楽しそうに言った。

三人の気持ちが胸に押し寄せてきて、私は思わず深くお辞儀をした。


「……みんな、本当に……ありがとう……」


 声が震えてしまう。

でも、どうしても伝えたかった。


「礼なんていいっての」

レオナードさんが、気恥ずかしそうに手を軽く払った。


「それとな。振り込みの手間もあるだろ。ギルドに口座を作っといた」

「えっ……口座……?」


 頭が追いつかず、聞き返してしまった。


「もちろんビックスには内緒だ。隠し口座ってやつだ」


 あまりに当然のように言われて、私は目を瞬いた。


「……レオ、張り切りすぎ」

リリーさんが呆れたように言いながらも、どこか誇らしげだ。


「ふふっ。楽しみだねー」

クララちゃんが楽しそうに笑う。


 心がまた、じんわりと熱くなった。

こんなにも支えてくれる仲間がいるなんて――



「おう、待たせたな!」


 大声とともに、奥から店主のおじさんが顔を出した。

現実へと一気に引き戻される。気づけば、研ぎ石の音も消えていた。


「ビックスの剣、仕上がってるぞ。取りに来たんだろ?」

「……はいっ!」


 思わず前のめりになる。

抱えた巾着袋を抱きしめる腕に、ぐっと力がこもる。


「ほれ、これだ」


 カウンターに置かれた剣は、窓から差し込む光を受けて静かに輝いていた。

鍔には、細やかなカスミ草の紋様が寄り添うように刻まれている。

柄は手に馴染むよう丁寧に巻かれていて、重さも長さも――きっと彼にぴったりだ。


「こいつは会心の出来だぜ」


 剣を両手で、ゆっくりと持ち上げた。

ひんやりとした重みが、胸の奥まで染み込んでくる。


「……ビッ君、喜んでくれるかな……」


 思わずこぼれた呟きに、店主のおじさんが鼻を鳴らした。


「最高の一振りだ。ビックスのやつも、泣いて喜ぶだろうよ」

「……うん。そうだといいな」


 胸がいっぱいで、それ以上言葉が出なかった。


 ……いけない、言い忘れるところだった。


「おじさん」

私は剣に布を巻きながら、顔を向ける。


「ビッ君には……剣のこと言わないでほしいの。サプライズにしたいから」

「おう! まかしとけ!」

「……ほんとに?」

「信用ねぇなぁ! 口は固ぇよ、俺はよ!」


 店主のおじさんが頭をかきながら笑うと、私もつられて笑ってしまった。

剣を胸に抱きしめ、そっと息を吸い込む。


――ビッ君。

あなたのために、みんなが力を貸してくれたよ。

あの日の調合台のお返し、驚いてくれるかな。喜んでくれるかな。


 抱きしめた剣が、ひやりとした温かさをそっと返してくれた気がした。

そして私は、弾むように店の扉へと歩き出した。

第5話へつながる一幕。

こんなに思われていたのにビックスの勘違いで……


☆や感想を頂けましたら、これ幸い。

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