第9話「揺れる心理」
機体は高度を安定させているはずだった。
だが悠翔の感覚は、何かが微妙にずれていることを告げていた。
窓の外の蒼い空は穏やかだ。だが、計器の針がわずかに揺れる。
耳に入る空調音や遠くで囁くかすかな声が、心理に微妙な波紋を広げる。
天音は席の上で静かに体を整え、悠翔に視線を送る。
「気づいてますか……?」
「うん……感じる」
その短いやり取りだけで、二人の心拍が微妙に重なる。
心理の揺れは、互いの存在によって少しだけ抑えられる。
しかし、他の乗客たちの心理は揺れていた。
幼い兄弟は窓の外の光に怯え、母親に寄り添う。
老人カップルは小声で会話を交わすが、目には不安の色がある。
乗務員の佐伯は微妙に手を震わせながらも、冷静を装う。
その全てが、空間全体の心理の波として悠翔の感覚に伝わる。
悠翔は息を整え、わずかに動く座席や手すりの感触に集中する。
「この揺れはただの乱気流じゃない……誰かが、何かを仕掛けている」
心理の揺れは、目に見えない軌跡として機内に広がっている。
天音はそっと悠翔の手に触れ、微笑む。
「怖くても、大丈夫。私たちがいる」
その手の温もりが、心理の揺れをわずかに鎮める。
小さな勇気と信頼の連鎖が、機内の空気に影響を与える瞬間だった。
窓の外に、再びかすかな光の揺れが映る。
それは偶然かもしれない。だが、悠翔の直感は告げる。
「これは、まだ始まりに過ぎない……」
心理の揺れ、信頼の連鎖、そして微細な異変。
すべてが秒単位で交錯し、空の旅はまだ誰も知らない緊迫の連鎖へと向かっていた。




