第7話「小さな勇気」
微妙な沈黙の中、機内の空気はさらに張り詰めていた。
悠翔は座席に深く腰を下ろし、周囲を観察する。
幼い兄弟が母親にしがみつき、目を大きく見開く。
母親は静かに声をかける。
「大丈夫、怖くないよ」
その言葉に小さな勇気が芽生え、兄弟は少しだけ姿勢を正す。
一方、乗務員の佐伯は冷静さを保ちながらも、内心は緊張していた。
「揺れもなくなった、でも何か違う……」
彼は声をかけず、ただ静かに客席を見渡す。小さな行動一つが、乗客の心理に影響することを知っているからだ。
天音は悠翔に微笑みながら言う。
「悠翔さん、小さなことでもいいです。今、できることをやりましょう」
その言葉に、悠翔は深く頷く。
「そうだ……誰かを守るためには、まず小さな勇気を出すことから」
悠翔はゆっくり立ち上がり、隣の乗客に声をかける。
「大丈夫です、落ち着いてください」
微かな声だが、周囲に伝わる緊張の波を少し和らげる。
誰かの不安を取り除くことで、また別の人の心も落ち着く——心理の連鎖が、静かに広がる。
窓の外、蒼い空は穏やかに広がるが、悠翔の直感は鋭く光る。
微かに光が揺れる、計器がわずかにぶれる——小さな異変は続いている。
その異変を前に、悠翔と天音、そして乗客たちの心は小さな勇気を紡ぎながら揺れる。
しかし、空の上の旅は、まだ始まったばかりだ。
この小さな勇気が、これから巻き起こる緊迫の連鎖の最初の礎となることを、誰もまだ知らない。




