第6話「微妙な沈黙」
機体は穏やかに飛行しているように見えた。だが、悠翔の意識は完全に張り詰めていた。
「……何かがおかしい」
耳に入るわずかな金属音、微かに揺れる座席、そして計器の針のわずかなぶれ。
日常のフライトでは起こりえない、微妙な沈黙の中の異変が、悠翔の神経を刺激する。
天音は書類を整理しながらも、視線は悠翔に向いていた。
「あなたがそう感じるなら、何かあるのかもしれませんね」
その言葉に、乗客の心理まで波紋のように揺れることを、悠翔は感じ取る。
幼い兄弟は、母親の腕にしがみつきながら、窓の外をじっと見つめる。
老人カップルは手を取り合い、互いの存在に安心を見出す。
乗務員は微かな音に反応し、互いに小声で確認を交わす。
誰も口には出さないが、全員が微妙な沈黙に潜む違和感を共有していた。
悠翔は周囲の心理を瞬時に把握する。
動揺している乗客、冷静な乗務員、恐怖を隠す天音——
それぞれの心理の揺れが、機内全体の空気に微細な波を生んでいる。
そのとき、機内スピーカーからかすかに声が響くような錯覚があった。
「……聞こえたか?」
だが、誰も声を発した形跡はない。
悠翔は目を細め、耳を澄ます。
「これが、ただの幻覚でないことは分かる……」
微妙な沈黙の中で、心理戦の幕が静かに開き始める。
小さな不安、恐怖、そして互いを思いやる感情が、秒単位で交錯する。
悠翔は深呼吸し、決意を固めた。
「誰も傷つけない……俺が、みんなを守る」
その瞬間、窓の外の空に、わずかに不自然な光の揺れが映る。
静かな空の旅の中で、次なる異変の予兆が、まだ誰にも気づかれずに忍び寄っていた。




