第5話「知られざる声」
機内は再び静けさに包まれた。
だが、その沈黙の奥には、微細な不協和音が潜んでいた。
悠翔は座席に深く腰を下ろし、再び計器を確認する。
わずかな誤差が、彼の神経を鋭く刺激する。
「何か聞こえる……か?」
耳を澄ますが、ただ微かなエアコンの音と、遠くで子供が息をつく音しかない。
天音がそっと肩に手を置く。
「悠翔さん、落ち着いて……でも、私も何か感じます」
その声に、悠翔の心は微かに緊張と安心が交錯する。
二人の心拍は、目に見えないリズムで共鳴しているかのようだった。
幼い兄弟は、窓の外に光の揺れを見つけて小さく声をあげる。
「ママ……あの光、動いた……」
母親がぎゅっと抱きしめる。
微かな声が、機内全体に小さな波紋を広げる。
悠翔は一瞬耳を澄ませ、わずかに異質な音に気づく。
それは、普通の機械音とは違う、人の気配を感じさせる微かな声——。
誰かが遠くで囁くような、しかし確認できない音。
天音も顔を上げ、周囲を見渡す。
「聞こえました……?」
悠翔は頷く。
「うん……間違いじゃない」
乗客には聞こえない、しかし確かに存在する“声”。
それは、これからの空の旅が、ただのフライトではないことを告げていた。
心の奥で、緊張の波が静かに広がる。
悠翔は決意を固める。
「誰も恐怖に押し潰されないように……俺がしっかりしなければ」
天音は静かに微笑み返す。
小さな勇気の共有が、心理的な安定を生む瞬間だった。
しかし、まだ誰も知らない。
その“声”が、これから起こる出来事のほんの小さな前触れに過ぎないことを——。




