第4話「視線の交錯」
揺れが収まった後、機内には再び静寂が戻った。だが、その静けさは誰の心も落ち着かせるものではなかった。
悠翔は座席に座ったまま、目の前の計器を凝視する。
わずかに表示が揺れている。過去の経験が警鐘を鳴らす。
「何かがおかしい……」
小さく呟いたその言葉に、天音はすぐに反応した。
「悠翔さん……やっぱり何か感じていますね」
彼女の声は穏やかだが、内側に緊張が滲む。目が合った瞬間、二人の視線が重なる。
互いの心拍の高まりまで感じ取れるような、ほんの一瞬の交錯。
一方で、幼い兄弟は母親にしがみつきながら、窓の外の景色を恐る恐る見ていた。老人カップルは手を取り合い、互いを安心させるように小声で話している。
その隣で乗務員が小声で互いに指示を確認する。全員の視線が交錯する瞬間、空気の緊張がさらに増す。
悠翔は無意識に周囲の状況を瞬時に分析する。
誰が動揺しているのか、誰が冷静で、どの乗客が恐怖に押しつぶされそうか——すべて把握しようとする。
機内のモニターが再びちらついた。
「……これはただの点滅か?」
天音が問いかけるが、悠翔の目にはその光が警告のように映る。
揺れが収まった静寂の中で、一瞬の視線の交錯が、全員の心理を微妙に変化させる。
小さな勇気、恐怖、信頼、猜疑——互いの心が、わずかに影響し合う瞬間。
誰も声には出さないが、この空の旅がただのフライトではないことを、感覚的に悟る。
悠翔は天音に微笑み、手をそっと握る。
「大丈夫、俺たちがいる」
その一言が、機内の誰かの心をほんの少し落ち着かせる。
だが、まだ何かが潜んでいる——揺れの後の静寂は、次なる予兆の前触れに過ぎなかった。




