第10話「予兆の影」
空は依然として穏やかに蒼く広がっていた。
だが、機内の空気は次第に張り詰めていく。
悠翔は座席で微かに体を揺らしながら、計器と周囲を注意深く観察する。
「この空気……何かが近づいている気がする」
小さく呟き、彼は周囲の心理の微細な変化を感じ取る。
幼い兄弟の呼吸が荒くなり、母親はそっと肩を抱き寄せる。
老人カップルも互いを支えるように手を握り直す。
天音は悠翔の横で小さく頷き、視線を前方に向ける。
「何か……起きるかもしれませんね」
その声に、悠翔の心はさらに引き締まる。
「警戒は怠れない……でも、パニックは絶対に起こさせない」
突然、機内の照明が微かに揺れる。
乗務員が慌てずに確認するが、乗客にはほとんど気づかれない。
その一瞬の光の揺れは、悠翔の直感を鋭く刺激する。
「これは……偶然じゃない」
佐伯は通路を静かに移動し、乗務員に何か小声で伝える。
その様子を見た悠翔は、微妙な心理の変化を読み取る。
小さな行動一つが、心理の波を生むことを知っているからだ。
天音は悠翔の手に軽く触れ、励ますように微笑む。
「怖くても、私たちがいる」
その手の温もりが、微かな不安を和らげる。
心理の揺れは、互いの小さな勇気でわずかに鎮まる。
だが、窓の外の空に、小さな異変の影がちらつく。
光の揺れは自然ではない、計器の微かな誤差も無視できない。
そして、この予兆は、まだ誰も認識していない大きな出来事の前触れに過ぎなかった。
悠翔は息を整え、覚悟を固める。
「この空で、誰も傷つけさせない——すべてを見極める」
空の上に静かに忍び寄る影。
緊迫の連鎖は、秒単位で加速していく——。




