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『悪の秘密結社』戦闘員タケシの憂鬱  作者: 双鶴


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8/10

7話

午後5時、駒沢公園。

今日の戦闘は、あっけなく終わった。

俺は吹っ飛ばされ、ベンチに倒れ込んだ。夕焼けが、やけに綺麗だった。

空がオレンジから群青に変わるそのグラデーションを、

フルフェイスのヘルメット越しにぼんやり眺めていた。隣に、サンシャインレッドが座った。

変身を解いて、ジャージ姿。

俺もヘルメットを外す。

今日は健診じゃないが、頭皮が蒸れて限界だった。「お疲れ」とレッドが言う。

「お疲れさまです」と俺は返す。しばらく、沈黙。

鳩がベンチの下を歩いている。

遠くで子どもが縄跳びをしている音が、リズムのように響く。レッドが言う。

「最近さ、子どもたち、ヒーローに憧れなくなってきてるんだよ」「え?」「YouTuberになりたいって。

 変身より再生数。正義よりバズり。

 俺たち、時代遅れなのかもな」俺は思う。

「世界征服より、よっぽど現実的だな…」レッドは続ける。

「この前、保育園のイベントに呼ばれたんだけどさ、

 子どもたち、俺のことより、

 “スライム作ってるお兄さん”の方に群がってたよ」「スライム…」「ああ。登録者数120万人のDIY系YouTuber。

 俺、変身してもスルーされた」俺は、笑っていいのか迷った。レッドが言う。

「君、転職考えてるんでしょ?」「……」「ピンクも言ってたよ。『あの戦闘員、目が優しい』って」俺は、戦闘員番号D-1023。

世界征服の夢と、正義の現実と、恋心の狭間で、今日もベンチに座る。「なあ、レッド」

「ん?」

「悪役もさ、たまには勝ちたいんだよ」レッドは笑った。

「俺もさ、たまには負けたいよ。

 負けて、誰かに助けられる側になってみたい」「それ、どういう意味です?」「ヒーローってさ、ずっと“勝たなきゃいけない”んだよ。

 負けると、スポンサーが怒る。

 子どもたちが泣く。

 でも本当は、俺だって誰かに『大丈夫だよ』って言われたい」俺は黙った。

その気持ち、少しわかる気がした。夕暮れの光が、俺たちの影を長く伸ばしていた。世界征服も、正義も、

このベンチの上では、ただの会話だった。俺たちは、敵同士である前に、

ただの、働く人間だった。


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