7話
午後5時、駒沢公園。
今日の戦闘は、あっけなく終わった。
俺は吹っ飛ばされ、ベンチに倒れ込んだ。夕焼けが、やけに綺麗だった。
空がオレンジから群青に変わるそのグラデーションを、
フルフェイスのヘルメット越しにぼんやり眺めていた。隣に、サンシャインレッドが座った。
変身を解いて、ジャージ姿。
俺もヘルメットを外す。
今日は健診じゃないが、頭皮が蒸れて限界だった。「お疲れ」とレッドが言う。
「お疲れさまです」と俺は返す。しばらく、沈黙。
鳩がベンチの下を歩いている。
遠くで子どもが縄跳びをしている音が、リズムのように響く。レッドが言う。
「最近さ、子どもたち、ヒーローに憧れなくなってきてるんだよ」「え?」「YouTuberになりたいって。
変身より再生数。正義よりバズり。
俺たち、時代遅れなのかもな」俺は思う。
「世界征服より、よっぽど現実的だな…」レッドは続ける。
「この前、保育園のイベントに呼ばれたんだけどさ、
子どもたち、俺のことより、
“スライム作ってるお兄さん”の方に群がってたよ」「スライム…」「ああ。登録者数120万人のDIY系YouTuber。
俺、変身してもスルーされた」俺は、笑っていいのか迷った。レッドが言う。
「君、転職考えてるんでしょ?」「……」「ピンクも言ってたよ。『あの戦闘員、目が優しい』って」俺は、戦闘員番号D-1023。
世界征服の夢と、正義の現実と、恋心の狭間で、今日もベンチに座る。「なあ、レッド」
「ん?」
「悪役もさ、たまには勝ちたいんだよ」レッドは笑った。
「俺もさ、たまには負けたいよ。
負けて、誰かに助けられる側になってみたい」「それ、どういう意味です?」「ヒーローってさ、ずっと“勝たなきゃいけない”んだよ。
負けると、スポンサーが怒る。
子どもたちが泣く。
でも本当は、俺だって誰かに『大丈夫だよ』って言われたい」俺は黙った。
その気持ち、少しわかる気がした。夕暮れの光が、俺たちの影を長く伸ばしていた。世界征服も、正義も、
このベンチの上では、ただの会話だった。俺たちは、敵同士である前に、
ただの、働く人間だった。




