5話
午前6時、田園都市線。
満員電車の中、俺は痣を隠しながら吊り革にしがみつく。
スーツ姿の戦闘員。
だが、最近はそのスーツが、少しだけ違って見える。彼女のことを考えている。
駒沢公園で出会った保育士。
子どもたちと落ち葉を拾う姿が、やけに眩しい。俺は任務中、コスチュームを着ている。
フルフェイスのヘルメット、通気性ゼロ。
でも、彼女の前では、スーツ姿の「普通の男」。最近、転職がチラつく。
彼女の隣に立つには、戦闘員ではいられない気がする。サンシャインレッドが言った。
「君、そろそろこっちに来たら?」カズオも言った。
「ヒーロー側、待遇いいらしいぞ。顔出しOK、週休二日、ボーナスあり」俺は笑って誤魔化した。
でも、心の中では揺れていた。そして、ピンク。
サンシャインピンク。
戦闘中、彼女は俺にだけ、妙に優しい。キックの直前にウインク。
パンチの後に「ごめんね」と囁く。俺は思う。
「天使かもしれない」でも、彼女の顔——どこかで見たことがある。
駒沢公園の彼女に、似ている。まさか。
いや、そんな偶然あるか?でも、もしそうだったら——
俺は、敵に恋していることになる。その日、戦闘後。
ピンクが俺に言った。
「あなた、優しいのね」俺は、戦闘員番号D-1023。
世界征服の夢と、恋心と、転職の誘惑の狭間で、今日もベンチに座る。彼女がヒーローでも、保育士でも、天使でも——
俺の心は、もう彼女に支配されている。




