3話
午前8時、田園都市線。
満員電車の中、俺は痣を隠しながら吊り革にしがみつく。
スーツ姿の戦闘員。
正体を隠すための仮の姿。今日も駒沢公園へ向かう。
任務は「ベンチの支配」。
だが、俺の心は、別の場所に向かっていた。彼女がいる。
保育士らしい。
子どもたちと一緒に落ち葉を拾っている。
その笑顔が、やけに眩しい。俺は任務開始と同時にコスチュームに着替える。
フルフェイスのヘルメット、通気性ゼロ。
だが今日は、健診明けで頭皮が蒸れている。
ハゲが進行している気がする。ベンチに座る俺を、彼女が見つけた。
「こんにちは」と声をかけられる。俺は咄嗟に敬礼してしまった。
「あ…すみません、職業病で」彼女は笑った。
「面白い人ですね」その瞬間、胸がざわついた。彼女の顔——どこかで見たことがある。
いや、見たことがある気がする。サンシャインピンク。
戦隊ヒーローの女性隊員。
変身前の姿に、似ている。まさか。
いや、そんな偶然あるか?でも、もしそうだったら——
俺は、敵に恋していることになる。その日から、俺は毎朝、駒沢公園に出勤する。
任務は「世界征服」だが、心は「彼女の正体の観察」。ある日、子どもが俺の痣に気づいた。
「おじさん、顔どうしたの?」俺は答える。
「ちょっと、ヒーローに…いや、転んだだけだよ」彼女が言う。
「無理しないでくださいね」その言葉が、妙に沁みた。俺は、戦闘員番号D-1023。
世界征服の夢と、恋心と、疑念の狭間で、今日もベンチに座る。彼女の笑顔は、俺の世界の一部になりつつある。
だが、もし彼女がヒーローだったら——俺の任務は、どこへ向かうのだろう。




