9話
翌朝、世田谷区役所。
「あの、秘密結社の解散届を出したいんですが」
窓口の職員が眉をひそめる。
「…秘密結社?」
「はい。ダークネス団です」
「法人格は…?」
「ないです」
「では、提出義務も、受理義務も、ございません」
「…」
D-1027が小声で言う。
「これが、真の敗北ってやつか…」
D-1031が言う。
「いや、これは“自由”だよ」
その日の夜。テレビで、握手会の様子が報道された。
『元・悪の秘密結社、駒沢で涙のファンミーティング』
SNSでは「#ダークネス団ごっこ」がトレンド入り。
子どもたちが、ベンチに集まり、
「世界征服〜!」「ベンチに逃げろ〜!」と叫んでいた。
D-1027は、Uber Eatsの配達中に子どもに囲まれ、
「サインください!」とヘルメットに落書きされた。
D-1031は、犬の散歩代行を始めたが、「犬に噛まれて欠勤」の再発が心配されている。
そして、ひと月後。
駒沢公園の昼下がり。
タクシーの運転席に座る俺。昼休み、ベンチに車を停めて弁当を開ける。
中には、卵焼きとウインナーと、ハート型のミニトマト。
小さな手紙が添えられていた。「今日も気をつけて。ピンクより」
俺は、戦闘員番号D-1023——だった男。今は、誰かを運ぶ人間になった。
世界征服はできなかったけど、
誰かの昼休みを、ちょっとだけ幸せにできる気がする。
子どもたちの笑い声が、公園に響いていた。俺は、少しだけ、微笑んだ。




