プロローグ
汗臭いブラックのコスチュームが、俺たちの制服だ。
通気性ゼロ、洗濯は月イチ、夏場は軽く拷問。
冬は冬で静電気がすごくて、毎朝着るたびに命の危険を感じる。
しかもこのコスチューム、なぜかフルフェイス。視界は狭いし、耳も遠くなる。
ヒーローの奇襲に気づいた時には、だいたいもう吹っ飛ばされてる。所属は「世界征服秘密結社・ダークネス団」。
名前だけは壮大だが、拠点は世田谷区の住宅地。
アメリカ?中国?そんな大国は眼中にない。
まずは駒沢公園の制圧を目指しているが、
いまだに犬の散歩ルートすら支配できていない。拠点は築40年の木造アパートを改造した「秘密基地」。
隠し扉は押入れの奥にあるが、湿気で開かなくなって久しい。
トイレは共用、風呂は銭湯。
それでも「世界征服の第一歩だ」と上司は言う。人員不足で年中無休。
給料は時給換算でコンビニ以下。
福利厚生?ヒーローに殴られても労災は出ない。
交通費は自腹、制服代も天引き。
「やりがい搾取」の見本市みたいな職場だ。最近、ヒーロー側に転職しようかと本気で悩んでいる。
あっちはあっちでブラックらしいが、少なくとも顔は出せる。
俺は5年働いてるが、母ちゃんにすら正体を明かせていない。それでも、なぜか辞められない。
世界征服という言葉の響きに、ちょっとだけロマンを感じてしまうから。
たまに、ヒーローと戦ってる最中に思うんだ。
「俺たち、案外似てるのかもな」って。俺の名前はタケシ。
戦闘員番号D-1023。
世界征服の夢と、現実のしがらみの狭間で、今日も出勤する。目的地は、駒沢公園。
今日こそ、ベンチのひとつくらいは支配してみせる。




