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第四話『ヒロインの出来損ない』

 けたたましいアラーム音が鳴り響いたかと思うと、頭の中に光の文字が次々と浮かび上がった。まるで空中に魔法陣が展開しているようで、俺は思わずまぶしさに目を細める。大地の草原に立っているはずなのに、頭の中だけが別の空間に引き込まれたような奇妙な感覚に包まれた。


──チュートリアルを開始します。これより感想、評価、☆評価、ブクマ、お気に入りについて説明します。


「な、なんだ……なんか大事な事のようだな」


 周囲の風景は静かな草原。遠くで鳥が鳴き、風が草を揺らす音が聞こえる。そののどかさと、頭の中で鳴り響く機械的な声とのギャップに、俺の背筋はぞくりとした。人間になった喜びの余韻なんて吹き飛び、緊張と不安が再び胸を締めつける。


──これらは投稿サイトによって呼び名が異なりますが、基本的に読者からの直接的な反応です。これらの扱いは、PV消費による妄想具現化とは別のシステムになります。


「……おお? つまり別枠ってことか?」


 半信半疑で呟いた声は、広い草原に吸い込まれていく。自分の声がやけに心細く響いた。


──はい。PVとは主に自身の妄想を具現化することに使用されます。武器、防具、魔法、変身などはPVで管理されています。一方で、感想・評価・☆評価・ブクマ・お気に入りは、主に仲間の獲得や仲間の強化に使用することができます。


「仲間……?」


 その単語を聞いた瞬間、胸の奥がちくりと痛んだ。俺の頭には、過去に書いてきた物語の断片が次々と浮かんでくる。設定が甘くて背景の薄い仲間キャラ、主人公より目立ってしまい物語を食ってしまった脇役……どれもこれも、失敗ばかりだった。


「……ああ、確かにな。仲間の扱いが下手だったせいで、ブクマも感想も伸びなかったんだよな」


 小さく笑いながら呟く。草原を渡る風が頬を撫でたが、それは優しさというより、冷ややかな現実を突きつける感触に思えた。


──今後の冒険を進めるには、仲間を集めることをお勧めします。


「……結局、仲間集めゲーの要素も大事なわけか」


 皮肉を口にしながら、俺は背中の銅の剣を握りしめる。指に伝わる感触は心許なく、頼りなさすら感じた。だが、同時に覚悟も芽生える。

 仲間を得ることは、つまり物語を作り直すこと。過去の失敗を繰り返さないために──このチュートリアルを、無視することはできなかった。


 このチュートリアルと名乗る説明厨は、どうやら俺の心を読んでいるらしい。

 草原を渡る風がざわざわと草を揺らす中、頭の中だけが騒々しくざわめいていた。


──別に仲間集めゲーってわけではないですよ。ソロでPVを獲得する物語を紡ぎ、生き残れるのなら、無理に使わなくても良いかと……。


「……は?」


──ただ、一人だと単調な話になるでしょうし、それが原因でPVが伸び悩む方も沢山の事例が出ております。あくまで一般論の話です。


 俺は草原の真ん中で立ち尽くし、思わず空を仰いだ。雲ひとつない青空が広がっているのに、胸の内は妙に重たい。

 こんな説明を受けるために変身したわけじゃないのに、なぜか現実を突きつけられている気がする。


──ただ、この説明を聞いているということは、あなたに何らかの評価があるからなのです。


「……評価? 俺に?」


──はい。あなたがこれまで積み上げてきた投稿から得られた、感想・評価・ブクマなどの記録です。


 言葉が落ちると同時に、頭の中に光のパネルが展開した。

 まるで夜空に花火が広がるように、数字がひとつひとつ明るく浮かび上がっていく。

 草原の静けさの中で、その光だけがやけに鮮烈だった。


──評価:40 ブクマ:103 感想:23 ☆:30 お気に入り:14


「……う、うわっ、意外と持ってる!?」


 思わず口をついた声は、風に流されていった。だがすぐに現実が押し寄せる。数字の裏にあるもの──それはほとんどが低評価、罵倒、皮肉。俺を貶すために残された痕跡ばかりだ。


 それでも、不思議と胸の奥に小さな熱が広がった。悔しさに押し潰されそうになりながら、それでも書き続けた日々が、この数字として刻まれている。


「……伊達に投稿し続けてきたわけじゃなかった、ってことか」


 草原を吹き抜ける風が再び頬を撫でた。さっきよりも、その感触は少しだけ暖かく、ほんのわずかに俺の背を押してくれるように思えた。


 評価ポイントの使用方法について、俺は迷うことなく結論を出した。どうせ使うなら──今しかない。

 戦闘を支えてくれる戦士や魔法使い、あるいはテンプレ勇者パーティの補助役を作るのが定石なのかもしれない。だが、俺自身勇者を望んでもPVが足りなかったからな。そんな無思慮と打算的な発想を押しのけるように、俺の胸に浮かんだのはひとつの願望だった。


「……いや、ここはやっぱりヒロインだろ」


 声に出すと、遠くでは鳥が鳴き、青空の下で雲が悠々と流れていく。世界は穏やかに広がっているのに、俺の胸の内は期待と欲望でざわついていた。

 読者だってきっと同じだろう。

 ここで華やかさが加われば物語は盛り上がる。 いや、そんな理屈を抜きにしても──俺自身が欲しかった。

 かわいいヒロインを。この異世界での新しい人生に、花を添えてくれる存在を。


 本当なら戦士や魔法使いを仲間に加え、戦力を固めるべきなのかもしれない。

 だが、一人仲間を作成するだけで評価ポイントがごっそり消える予感がする。

 だったら、もう迷う必要はない。どうせ一度きりの選択だ。俺は己の願望に従うと決めた。


「……若くて、美人で、ちょっとHなヒロイン。将来的には聖女として、回復魔法やサポート魔法が堪能な……そんな彼女がいい」


 心の中で強く念じる。瞬間、視界に白い光が満ち、体の奥が熱を帯びていく。妄想が現実を形作る音が、耳鳴りのように響いた。胸は高鳴り、呼吸は浅くなり、俺はついに願望が叶う瞬間を待った。


──お望みの者は、評価ポイントが足りません。


「……は?」


 頭の中に冷たい声が響き、同時に光はスッと掻き消えた。代わりに無情な数字が突きつけられる。


──必要評価ポイント:200 あなたの残評価ポイント:わずか。


 俺はその場でがっくりと膝をついた。草原の柔らかな土の感触が、やけに冷たく感じられる。空はあんなに鮮やかに広がっているのに、今の俺には残酷な青にしか見えなかった。


「あぁ……無情……」


 自由に妄想はできる。だが現実は冷酷だ。

 夢に描いた美人ヒロインは幻に過ぎず、俺の願望はあっさりと打ち砕かれた。

 心臓の奥でじりじりと焦げ付くような悔しさだけが残り、俺は情けなくうなだれた。


 りと焦げ付くような悔しさだけが残り、俺は情けなくうなだれた。


 理想のヒロインを思い描いたはずが、冷酷な「評価ポイント不足」という現実に突き返され、俺は草原の真ん中で膝をついていた。

 青空は鮮やかで、風は爽やかに吹き抜ける。それなのに、胸の奥は鉛のように重たい。


──評価ポイントを加味して、こちらで出来るだけ希望に近い者を用意できます。ちなみに人間ではありませんが……フェアリー、妖精ですが、よろしいでしょうか?


「……妖精?」


 頭の中に響いた声に、俺は顔を上げた。妖精──それはファンタジー世界での美の象徴。小さな体に整った顔立ち、透き通る羽を背にして舞い踊る存在。そう思った瞬間、胸の奥にかすかな期待が蘇った。


「……ああ、妖精ならいいかもな。可愛くて、美しくて……それこそヒロインにふさわしい」


 後先も考えず、俺は即答してしまった。理想像に釣られたのだ。そう、妖精という言葉だけで。


「よし! 作ってくれ!」


 光が迸り、草原の空気が震える。風が巻き込み、視界が真っ白に染まった。そして光が収まった時、そこに浮かんでいたのは──小さな影だった。


 羽を持ち、空中をふわりと飛んでいる。だが、俺が想像した妖精とは何かが違った。可憐さはなく、むしろ口をへの字に曲げ、じろりと睨んでくる。


「……なにジロジロ見てんだよ、変な顔の男だな」


 第一声からこれだ。俺は固まった。声は高いが鋭く、態度は堂々としている。妖精というより、近所の口の悪いおばちゃんを凝縮したような存在だった。


「……え、えっと……君が……俺の仲間?」


「そうだけど? 文句あんのか?」


 鋭い視線に射抜かれ、俺は返す言葉を失った。胸の奥に浮かんでいた淡い期待は、霧散するように消え去っていく。理想のヒロイン像とは程遠い。これじゃあ、美の象徴どころか──俺の心労の象徴じゃないか。


「……あぁ、無情……」


 俺は空を仰ぎ、深々とため息をついた。

ここまで読んでくださりありがとうございます!

 本作の世界では PV=命 ですが、作者である私の命をつなぐのは──そう、あなたの ブックマーク・評価・感想 なのです。


 感想は“仲間召喚ポイント”、ブクマは“物語継続エネルギー”、評価は“主人公のスキル強化”みたいなもの。

 そして──あなたのワンクリックは、 口の悪い妖精ヒロインを強化する唯一の手段 でもあります!

 そう、ブクマが一つ増えればミリィの羽が輝き、評価が一票入れば口の悪さがさらにマイルドになり……感想が一つ届けば、ヒロイン補正が強化されて美少女ルートが開ける……かもしれません。


 なので、どうか読者さま──

 ブクマ・評価・感想をポチッと!

 それがヒロイン強化の最大イベントです!


 「作者もPVゼロ即死なんです」なんてオチにならないよう、ぜひお力添えください!

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