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「おはよう」


 リビングで忙しなく食事を取っている両親に向けて言った。普段この挨拶は両親から言われるもので俺は「ん」か「ああ」を気分で使い分けるだけ。それを打ち破った一言に両親はやっぱり少し驚いていたがすぐに、俺よりはっきりとした声で返事が返ってきた。


 次に通学路で出会うサラリーマン、小学生、老人、同級生、全ての人に挨拶をする。返事はまちまち。驚いたり訝しむやつもいれば、元気に帰ってきたり挨拶だけではなく少し会話をしようとする人もいた。その中には同級生もいて「今日はシャツ裏じゃないんだな」といじられたりする。それに対して俺は「うるせー」と返す。油断したら溺れそうになる日常に度々心の中で頬を叩く。思い通りになるなよ。それでも自分の口から出す挨拶につられて自然と俺の心は外向的に傾いていく。今日もまた、いつの間にか雄一含め色んな人間に話しかけられて、それに応えていたら学校が終わっていた。吉田に聞きたいことは、まだ決められていない。


 雄一を陸上部の部室まで送って教室に戻る廊下、答えの出ないまま歩いていた。思考の停滞に伴って足も重くなる。いっそ立ち止まって考えてから戻ろうかと思っていた矢先、廊下の奥から声が聞こえた。それが俺の名前の気がして顔を上げる。いつからだ、それを自意識過剰だと切り捨てなくなったのは。

 俺と目が合うとそいつはポニテを揺らしながら小走りで近寄ってきた。全面から感じ取れる敵対意識、もう隠す気はないらしい。


「猪狩じゃん、部活はどうしたの」

「窓の外から小山くんが歩いてるの見えて、抜け出してきた。今から結菜ちゃんのとこ行くんだよね?」

 なんでそれを猪狩が知っているのか分からないがとりあえず頷いた。それが確信に繋がったのか、猪狩は前口上すっ飛ばして聞いてくる。


「付き合ってるの? 二人」

「なんでそうなるんだよ。偶然。ちょっとお互い話したいことがあって話してるだけ」

「いや、無理あるよそれ」


 流石に前使った方法は冷静に受け流された。疑惑から近づいてきた以前とは違う、戦う意志が固まっていて容易に逃がしてくれそうにない。だからって本当のことを言う訳には行かないし、ましてや付き合ってるなんて嘘をつきたくもない。

 誤魔化し方を考えていた沈黙が、さらに猪狩の確信を後押しする。


「やっぱり、おかしいと思ってたんだ。二人が一緒に展望台行ってから結菜ちゃん笑う事多くなったし、小山くんは変なことして周りの注目集めてるし、何も無かったわけない」


 猪狩の言うことは最もだった。吉田は知らないが俺は確かに変わった。自分からではない部分が今は目につくけど、それらを複合的に見た時、付き合っているという答えに行き着くのはごく自然だと思う。真実だけが違う。


「正直に言って」

「偶然だよ、まじで」

 

 問い詰められて、言い訳も出てこない、だけど真実を言うわけにもいかない。俺ができたのは初めの姿勢を貫くことだけだった。

 何回かそのやり取りを繰り返して、猪狩も時間が気になるのか、呆れたのか、ため息を一つ吐いた。


「じゃあもういいよそれで。これさえ聞いてくれたらあとはどうでも」

「なに」

「結菜ちゃんに近づかないで」

 早く言いたくて仕方なかったと伝わる早口だった。そういや前も同じこと言ってたな。


「なんでだよ」

「大切な、友達だからだよ」

「前に聞いた。こっちも違和感あるんだよそれ。理由になってないだろ」

「そっちだって、理由になってないくせに」


 互いに何か隠している。それが丸わかりのこの状況はこれ以上進みそうに見えなかった。下手に踏み入ればこっちが詰め寄られる。互いに矛を収めて丸く収めようとしたら案外上手くいったのかもしれない。


「話してみなよ。そしたら俺の気が変わるかもしれないし」

 気づいたらそう言っていた。前はくだらないと背を向けた猪狩の内情、吉田と比べたらそれは当然だった。なのに今は俺から知りに行こうとしている。

 流石にまだ猪狩が隠していることが平行世界より面白いわけがないとは思う。だけど聞かずにいるのは勿体ないと思ってしまうほど、興味は湧いていた。


 猪狩は俺の提案に「そっちこそ」とは言わず、押し黙った。恐らく「話して」より「気が変わるかも」の方を重要視しているんだろう。

 しばらく唇を固く結んで考え込んでいたがどこかで覚悟が決まったらしい。


「絶対、誰にも、特に結菜ちゃんには言わないで。それが約束できるなら、話す」

 迷いなく頷くと猪狩は近くの階段下、掃除用具などが置いてある人気の無い場所に移動して、壁に寄りかかり膝を抱えた。俺も少し離れて腰を下ろす。


「昔から結菜ちゃんは私のお手本だったの。何をするにも不器用で周りの空気が読めなかった私に結菜ちゃんは色々教えてくれた。今の私がたくさん友達がいて明るく振る舞えるのも全部、結菜ちゃんのおかげ。結菜ちゃんがいないと私は何も出来ない。今日だって私がやったこと話したこと全部答え合わせをしてもらわないと怖くて眠れないんだから、お願い」

 私から結菜ちゃんを奪わないで。


 立ち上がり俺を見下ろしてそう言った猪狩はさっきまでの命令口調ではなく、頼み込んでいるような覇気のない声だった。それになにか言う暇もなく走り去ってしまった猪狩の背中を目で追って、俺はしばらく放心していた。


 人間関係が乏しい俺にとって、ここまで誰かに感情をぶつけられるのが久しぶりだったし、誰かの心根に触れたことは初めてだったから、とにかく驚いた。内容と言うよりかは俺以外の人が俺の知らないところでも考えて生きているんだというごく当たり前なことを改めて実感して驚いた。今まで他人をゲームのNPCとでも思ってたのかもしれない。

 俺が思うより、他人は俺の想像の及ばない世界で生きている。猪狩の話を聞く限り、そう思えた。


 こんなに他人に依存している人間がいること。自分の知らないところで進んでいる物語に聞く前よりさらに興味が湧いた。面白そうだと。それは俺が思うより尾を引いて、教室に戻り、吉田の隣に座るまでついてきていた。


「遅かったね。どうだった? 今日は」

 何も知らない様子で本を膝に置き、笑いかける。

「疲れたよ。たくさんの人と話したし、変なやつにも目を付けられた」

「へぇー。それが誰かは聞いてもいいの?」

「その前に質問使ってもいい?」

「うん? いいけど」

「吉田と猪狩の関係について、教えて欲しい」

 吉田は俺の質問に目を丸くして、笑った。

「まさか、小山くんが平行世界以外の質問をするなんてね」


 それは俺だって言いたい。血迷っている実感はある。平行世界がどんどん遠のいていく現状で俺をつなぎとめているのはこの質問だけ。ひとつも無駄にはできない。ただ、その力みのせいで何も分からなくなってしまった俺もいた。この流れも吉田の思うつぼなのかもしれない。だけど言い訳をするなら、猪狩の話を聞いて自分の知らないところで進んでいる物語があるってことを改めて実感した。自分のことだけを考えていては駄目なのかもしれない。俺がつまらないと吐き捨ててきた吉田の人間性にこそ、俺の求めているものがあるのかもしれない。もう一度言う。血迷っている実感はある。


「この感じだと、変なやつっていうのも小雪ちゃんの事だったりするのかな」

「ノーコメントで」

 この質問をした時点で約束を守るつもりはないけど、明言は避けた。

「まぁ、大体の想像はつくけどね。私に関わらないでとか言われたんじゃない?」

「……なんであそこまで依存されてんの? どっちかに問題があるとしか思えないんだけど」

「それを言ったら問題があるのは私だよ。生まれた時からぼんやり前世の記憶があって、それがしっかり前世の事だと認識できるようになってからの私は当然だけど周りより大人びてた。その時、色々頼ってきたのが小雪ちゃんだった。少しドジで心配性だった小雪ちゃんに私は何も考えず、手を差し伸べた。差し伸べ続けた。子供を育てたことないから知らなかったんだ。助けることが必ずその子の為になる訳じゃないって。私が答えばかり教えたせいで小雪ちゃんの成長する機会を奪ってしまった。あの子を責めないであげて」


 ああ、そうか。猪狩も俺と同じだったのか。子供の皮を被った大人に自分を曲げられた被害者仲間だった。それならあれだけ必死になってるのも仕方ないように思える。


「別に責めはしないよ。邪魔されるなら話は別だけど」

「それは分からないね。結構頼られちゃってるから」

「頼るっていうより利用されてるだけだろ」

「それも私の方だよ。何も成せずに死んで汚れた前世を洗い流すために、徳を積ませてもらった。今の人生が誰かのためになってると思わないと、やってられなかったから」


 吉田は悲しそうに笑っていた。どの立場で笑えるんだよと、知る前よりさらに吉田の人間性に失望した。とことん猪狩に同情する。判断力の無い子供の頃に頼った奴がこんな自分勝手な大人だったなんて、子供には避けられようがない。


 吉田は責任を感じているようなのにそれを償おうとは思わないんだろうか。自分の正体も話していないみたいだし、結局は自己保身か。別に俺が迷惑を被らなければどうだっていいけど。


 また廊下に部活終わりの生徒が増えてきてこの時間の終わりが来る。一つ質問を使い切ったつもりで明日は何をすればいいと俺が聞くと吉田は、今日は私の一人語りだからタダでいいよと言った。吉田のイメージがさらに悪くなっただけの今回においてこれはありがたい。明日はやっと普通の一日を送れると思って迎えた翌朝、世界はそんな単純じゃなかった。


 たった二日でも、普段とかけ離れた行動を取ったことによって俺の環境は変わっていた。何もしなくていいはずの俺は朝、会う人会う人に挨拶をしていた。相手から挨拶をされることもあれば、先に知り合いを見つけて無視するのも気まずいから挨拶したり。全員八十点以上と決まっていた昨日よりかマシだけど大変なことは変わらない。


 何とかしなきゃと考える。ぼんやりとした必要性だけ頭に浮かべて教室に入ると、俺の席に猪狩が座っているのが見えた。どうやら隣の吉田と談笑しているらしい。珍しいこともあるもんだとおもいながら近付いて猪狩に退いてくれと言うと、猪狩はすんなり「ごめんごめん」と席を立つ。そして今度は立ったまま吉田と話を続けた。


 ぼんやりとしていた俺でも流石に違和感を持った。普段この二人は登下校の時しか一緒にいない。昨日の話からそれもおかしかった気がするけど、猪狩からしてみたら周りにあまり吉田に頼っている姿を見られたくないとか考えてたんだろう。だったらなぜ急に? 偶然かと思って数日様子を見ようとした俺を嘲笑うかのように、その日はどんな隙間時間でも猪狩は吉田と一緒にいようとした。なんと部活すら休んで。


 ぼんやりとしていた必要性が形を成す。猪狩が何を考えているのか大体わかった。先手必勝。俺から吉田を取られる前に自分が独占してしまおうって訳か。

 それにしても、まさかここまでするとは思ってもなかった。自分から小心者だと言ってたしどうせ警告止まりだと。それだけ猪狩にとって吉田がいるかいないかは死活問題なんだろう。同じ身として気持ちはよく分かる。だから猪狩も分かるだろ。俺もそれに抵抗しなければ死活問題だということも。

 ただこれは猪狩と吉田の拗れた関係値に原因がある。俺個人がどうこうできるものじゃない。いや、一番どうこうしなきゃいけない人物がいる。猪狩は被害者なんだ。吉田に全ての責任があってこの問題を解決する力と義務がある。


 翌日も猪狩は同じ姿勢を突き通していた。今となっては唯一俺が吉田と水入らずでコミュニケーションを取れるのは授業中のみ。色々言ってやりたいことは多いがその為にノートの切れ端を増やすのは勿体ない。三角形の紙に必要最低限の言葉を書いて隣の吉田に渡した。


「猪狩のこと、どうにかしろよ」

 吉田は視線だけ紙に落とすと、すぐにその裏に返事を書いて俺に渡した。あまりの即答に嫌な予感がする。帰ってきた紙には丸文字で。


「むり」


 前聞いた時から何となく分かっていた。できるできないではなく、こいつには猪狩を救ってやろうという気持ちはない。だとしても、この返事はないだろ。友達じゃねぇのかよ。

 頬杖をついて隣の人でなしを睨んだ。紙を渡した時から今まで、吉田は横目ですら、こちらを見ようとしなかった。


 もうこいつには期待しない。魔法しか能のない人間には到底無理な話だったんだ。俺だって自信がある訳じゃないが、こんなやつよりかは上手く纏められる自信がある。俺がやればいい。責任も義務もないけど、俺の為に。


 また紙切れを作った。今度は「この前話した階段下に昼休み来てくれ」と書いて猪狩の机の上に置く。ここまで敵視されていたら無視されるかなと少し待っていると案外すんなり猪狩は現れた。


「なんの用?」

 顔が険しいのは想像通り。でもどうにかなる気はする。吉田ほどじゃないが俺だって精一杯生きてきたんだ。処世術の一つや二つ教えられる。


「いつまでそうしてんのかなって」

「……なにがいいたいの?」

「いつまで吉田に頼って生きるつもりなの? 中学まで? 高校まで? 猪狩も流石に分かってるだろ。いつかは限界が来るって。変わるべきだって、思ってるだろ」

「そんなの、分かってる。何度も考えた。でも、分かんなかった。焦っても焦っても苦しくなるだけで、どこで何をどうやって変えればいいかも分からないし、思いついてもやる勇気は無いし、私一人じゃ行ける所まで行ったよ。でも無理だったの。なにかきっかけがないと、もう変われない」


 きっかけなんて、と思った。大抵の問題は一人でこなしてきたし頼りたくもなかった俺には悩む必要がない事のように思えて、きっかけを求める猪狩が馬鹿らしく見えた。見えてしまった後で、後悔する。

 どの口が言ってんだ。俺もきっかけを求めて生きてきた、そしてそれを吉田に求めた。けれど吉田は俺に「魔法なんてあっても世界は変わらない」と突き放した。これはそういうことだ。自分にとってはなんてことないことだから、それを求める他人を馬鹿馬鹿しく思う。そんなことも出来ないのかよと。


 今までの言動で馬鹿にされているのは知っていた。でもこうして自分自身、出来ない奴を馬鹿にする気持ちを理解した後だと、俺もそのレベルなんだと突きつけられて更に、悔しさが込み上げてくる。

 風穴を開けてやりたい、吉田の運命に。どうにか介入して目に物見せてやりたい。

 そのために目の前の猪狩はちょうどいいように思えた。猪狩の人に頼る性格をどうにかしてやれば、少なくとも吉田の目に映る風景は変えてやれる。きっかけ一つで人は変われるんだと分からせることも出来る。


「きっかけなんて、今作ればいい」

 訝しむ猪狩をとりあえず座るように促した。階段下の壁を背にした四畳半の空間。長話には丁度いい。

「作るって……どうやって」

「俺の話を聞いてくれるだけでいい。猪狩は知らないだけなんだ。一人で生きていく方法を」

「小山くんには分かるの? 結菜ちゃんも分からないって言ってたのに」

「俺だって確信はないよ。ただ脳死で分からないって答えるやつよりはマシだと思う」


 吉田のことを馬鹿にするなと言いたげな視線を送ってきた猪狩だが、それを口に出すことは無かった。自分でも否定できないんだろう。馬鹿みたいと背を向けられないくらいに。長く続いた沈黙はどこかのタイミングで肯定に変わる。今回は猪狩の視線が俺から離れた瞬間だった。


「猪狩の生き方は間違ってないと思うよ。誰だって失敗したくない。普通のことだ。でも猪狩の場合、そこに吉田がいたのが悪かった」

「なんでそんな結菜ちゃんを悪くいうの。私は結菜ちゃんにずっと助けて貰ってたのに」

「それが悪いんだよ。吉田はなんていうか、考え方も価値観も大人で、正しい行動を選びやすい。吉田に頼ればまあ間違いないと思ってしまう。でも人生そんなことはないんだよ。正解、不正解の二択で物事が決まるわけじゃない。三択四択それ以上、全部正解かもしれないし全部不正解かもしれない。だから理不尽な択を迫られて泣く泣く身を削ることもある。そんな時、何より大切なのはそこからいかに早く立ち直るか。これは人に選択を任せていたら一生できない。自分で間違えて、後悔して、少しずつ気持ちの切り替えが上手くなる。誰かに頼る性格を直したいならまず自分で選択して失敗しなきゃ駄目だ」

「なるほどね」


 しばらく黙って俺の話を聞いていたと思ったら、今度はやけに素直に頷いた。俺の話に納得した、わけじゃないらしい。落ちた視線がまた熱を持って、こちらに向けられている。


「小山くんが言いたいことはわかった。でも私がその言葉を信じて失敗した時、小山くんはどう責任を取ってくれるの?」

「いや、だからそういう考え方が」

「分かってるよ。必ず失敗する時が来るから自分で考えて失敗から立ち直る強さをつけろって言いたいんでしょ」

「だったら」

「でも今回は小山くんに自分で選べと言われて選ぶわけだから、自分の意思じゃないよね? もし失敗したら私きっと自分じゃなくて小山くんを恨むよ」


 俺の言葉に被せて捲し立てる。なぜ猪狩が一旦頷いたか分かった。俺の話した事の一切が響かなかったから、安心したんだ。


「そんなの、無茶苦茶だ。だったら猪狩はいつ自分で選ぶんだよ」

「そんなの私が決めるに決まってるでしょ。いつか、きっかけがあれば、私でなにかの選択をする。もともと小山くんに何かしてもらう必要なかったんだよ」

 まぁどうせ本当の目的は結菜ちゃんだろうし、そんな人のアドバイスなんて、初めから聞くつもり無かったけどね。


 そう言い残すと、なんの未練もない軽い足取りで教室に戻っていった。しばらく一人になって考える。熱が冷めた冷静な思考なら、と思った。でも猪狩に言い返せるような言葉は何一つも思い付かなかった。


 自分の今までの人生で組み上げた持論があった。それは何度見返しても正しくて、その正しさは他人にも当てはめることができると思っていた。でも猪狩はそれを俺の想像していなかった理論ではね飛ばしてしまった。


 どうすれば良かったんだろう。なにが間違っていたんだろう。考えれば考えるほどやっぱり俺の持論が正しいように思えてしまう。


 一人で繰り返す自問自答じゃ先が見えない。それなら、と思いつく人物。俺の言葉が猪狩に響かなかった理由がそこにあった。結構俺も同じじゃねぇかよ。


 また紙を破いた。それは悔しさから来る八つ当たりではなく、興ざめなほど冷静な行動だ。頼るしか道はないと思った。たとえそれがどれだけ惨めでも、あいつにだって無理の一言で拭えない責任があるんだから。


 なんて、結局お前が失敗しただけだろ(笑)


 三回破いたルーズリーフの一ページが痛々しい傷跡を目立たせてそう言った。それを根元から破いて捨てたのは、紛れもない八つ当たりだった。

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