三
朝の会が始まるまで同志を募ろうとでかい声がそこらで飛び交っていたが当然初めの二人から数が動くことはなく。「こうなったらどちらかが死んでも構わず高橋を討つぞ」と意気込んで挑んだ朝の会、教卓から見る俺たちはさぞ目立ったのだろう。教室に入ってすぐ担任は俺たちを名指しで立たせ、速攻トイレで着替えてくるように命令した。
「ありえねぇ。駄目なら最初に校則に書いとけよな。シャツは表向きでしか着るなって。でも今回は高橋怒ってなかったな。小山いたからかも」
「あれで怒ってないって、普段もっと叫んでだっけ」
「いや、テンションは変わんないけど。後で職員室来いってセリフがなかったから。今日は俺らの勝ち!」
男子トイレの洗面台前、俺の背中のボタンを外しながらそいつは誇らしげにそう言った。次に俺がそいつのボタンを外す。
「よくやるよな、こんなこと。勝っても何にもなんないだろ」
「それ小山がいうのかよ!? 今日家からその格好で学校に来たんだろ? メンタルやばすぎ。親になんて言われた?」
「イジメ疑われた」
「そりゃそうだろ!てか小山ってこんなこと自分からするんだな。勝手に馬鹿にしてると思ってたわ、すまん」
「いや、大丈夫」
こんな感覚、最近味わったばかりだ。自分の中のイメージと目の前の景色が乖離して平行世界と現実を行き来しているかのような気持ち悪さ。
こいつも今、そんな感覚なんだろうか。実際の俺はこいつのイメージから何も変わらないのに。
勘違いしていたのは俺の方だ。こいつみたいな人間はただ目立ちたいだけの自己中心的な人間だと勝手にそう思っていた。ただ実際は俺みたいな人間の名前を覚えていて、屈託なく話してくれる。
「じゃあ今度からこういう事やる時は俺も誘えよ。何も言わずに一人でやるのもシュールでおもろかったけど」
余計な事だと思う。俺の人生において使う機会は二度と来ないかもしれない。ただ、馬鹿にしていた人間に大人の対応をされて背を向けるんじゃ、子供の駄々だ。
対等になりたいと思った。相手の目を後ろめたさなく見られるくらいに。
「なあ、めっちゃ今更なんだけどさ。名前、教えてくんない?」
俺の究極に失礼な質問にも、そいつは笑って答えた。
「佐藤雄一!ゆーいちって呼んでくれていいから!」