表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
No.19の遺影  作者: 藤谷とう
――呪われた娘――
43/136

43


「背中を見せなさい」


 No.6が低い声で睨みつけるように言う。

 エルダーはわざとゆっくりと首を横に振って「嫌です」と穏やかに拒否した。イノンがくすりと笑い、No.6が手を握りしめる。

 

「管理者様、教育がなっていませんよ」

「あら、あなたもしかして」


 エルダーは首を傾げた。そして、再び首を横に振る。


「あ……いえ、なんでも」

「言いたいことがあるのなら言いなさい!」

「殿下。この方、いつもこうなんですか?」


 エルダーが少し振り返って聞くと、ゼラは「ふっ」と笑って黒いフードを揺らした。


「休息の洋館にいたときには大人しかったよ。暴力を振るっていたなど聞いたこともない」

「まあ。本性を隠していたのね。それはさぞ大変だったでしょう」


 エルダーが労るようにNo.6に言葉を向ける。イノンが笑みをかみ殺すように俯いた。


「馬鹿にしているのですか?!」

「もちろんです。殿下と我々がオーディルーに行く理由がわからないのなら、馬鹿ではなくてなにかしら」

「理由など関係ない!」


 金切り声を上げたNo.6の側で、No.8が吐血する。

 エルダーはあからさまなため息を吐いた。


「少しは落ち着いたらどうなの? 感情にまかせて心像(イメージ)を使うだなんて、一桁のNo.とは思えないわ」

「黙りなさい!」

「なぜ? なぜあなたの命令を聞かなくてはいけないの? 私が」

「言うことを聞きなさい!!」

「嫌よ。王の愛人だった哀れな人の言うことなど聞くわけがないでしょう」


 ピタリとNo.6が止まる。

 やっぱり。

 エルダーは「ふ!」と大きな声で笑った。


「No.6、あなた素直すぎるわね!」


 先ほどまで元気だったはずのNo.6の反応がない。場が不自然なほどに沈黙し、誰も彼もがNo.6を見ている。エルダーは「ああ、おかしい!」と笑った後、じっと前を見据えた。動かなくなったNo.6を。

 どうして、と言いたそうなその白い物体に向かって、エルダーは慈愛ある声で話しかける。



「私ね、殿下を()()()()と呼ぶ人をもう一人知っているの。王の愛人だった子よ。若くて、可愛くて、素直で、直情的な激しい子――ああ、あの情けない王の好みだったのかしら。ひどい趣味。若い子が好きだから、あなたは捨てられたのね。可哀想に」

「お前!!」


 手を振り上げたそのタイミングで、エルダーは両手を広げた。白いローブの袖が垂れる。

 

「なんて愚かなのかしら」

「――本当にね」


 後ろから囁くような声がした次の瞬間、エルダーの袖と右わき腹の間から、銀色の剣がスッと出てきた。静かにNo.6の左胸に刺さる。


「……!」


 手を上に振り上げたまま、No.6が止まる。

 エルダーはふわりと距離を詰めた。

 動けないNo.6の顔に優しく触れ、口の端から流れてきた血を横に拭う。血塗れたその手でフードを後ろへと倒せば、初代様と呼ばれる美しい無機質な顔が現れた。見開いた目が、ぎょろりと震えてエルダーを捉える。

 赤く染まった頬を、エルダーは指先でぺしぺしと叩いた。


「あらあら、誰もあなたの治癒をしてくれないみたいね」

「……治癒を、しな、さ」

 

 No.6の肩越しに後ろに控える二人は、誰も動かない。


「人望がないのね、No.6。命を握られるのはどんな気分?」


 つん、と鼻をつついてやると、怒りに満ちた目が一瞬横に動いた。

 倒れたままのNo.8見ている。

 根性がある。刺されてもNo.8に心像(イメージ)をかけ続けているのだ。


「早く自分を治癒したらどう?」

「……あの子を、殺す」

「あの子? No.8のこと? そうね。賛成するわ。殺してしまいなさい」


 エルダーは優しく頷く。


「早く殺して、心像(イメージ)を自分に使えばいいわ。できるのなら、だけど。今、これを横に動かしてもいいのよ?」


 剣をつうっと撫でる。

 No.6は睨むばかりで何も言わない。


「ふふ! やっぱり。やっぱりあなたっておかしい――オーディルーに治癒士を渡すくらいならば私が殺します、だったかしら。馬鹿ね、宣言する前に全員殺しなさいよ。甘い」

「……っ」


 ふと、花の香りがその場にうっすらと立ち上る。

 No.8を見ると、素顔になったらしく、イノンが素早く心像(イメージ)を使い始める。


「やっぱり、自分の命が大事よね」

「顔を、見せなさい」

「喋れるようになったの? 使うのがうまいのね。さすが、上位に食い込むまで後一歩の六番手」

「顔を見せなさい!」

「ちょっとうるさい」


 エルダーは剣を横にずらす。


「!」

「静かに話してくれる? 私、うるさいのはきらいなの。治癒していても剣が刺さっていることを忘れては駄目よ。この先は心臓だから」


 とんとん、と指先で剣を叩けば、ぽたぽたと血が滴った。


「いい子ね。大人しくして――ねえ、そっちはどう?」

「うん、だいじょうぶ。綺麗に治癒できそう」

「もう少し止めておく?」

「いや。もういいよ」

「あ、そう」


 イノンと会話を終えたエルダーは、そっと顔だけ振り返る。


「殿下。この者、必要ですか?」

「いいや、いらないね」


 黒いローブから聞こえてきた穏和な声を聞き、エルダーはすぐさま剣の刃を握った。手のひらがじわりと熱くなる。血で滑らぬように強く握りしめて、No.6に囁く。



「さあ、私と勝負しましょう。あなたの治癒は、間に合うかしら」



 意図することが伝わったらしいNo.6の顔が青ざめる。


「や、やめ」

「だあめ。喧嘩を買ってあげているのだから、感謝をして欲しいくらいよ。ほら、集中して。私を見て。生き残る事も出来るわ。呼吸を整えて――上手。私が剣を動かした瞬間に、治癒を始めるのよ。いい?」


 エルダーは左手で胸ぐらを掴み、じっとNo.6を見た。


 手で掴んだ剣を横に払う。

 命を絶つ感触は軽い。


 エルダーは後ろを見る。エルダーの背後に隠れていたレカは、エルダーの視線に気づいて口元を無邪気に綻ばせた。タイミングや力、スピードが合わなければ、切れていたのはNo.6の身体ではなく、エルダーの手だ。



 重くなった左手をパッと離すと、鈍い音がして何かが地面に倒れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ