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No.19の遺影  作者: 藤谷とう
――呪われた娘――
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 スラーの後ろを歩くエルダーが合流すると、全員の視線が集まるのを感じた。レカがそっと寄り添うように隣に立つ。

 一瞬、合うはずのない視線がNo.6と合ったように思えて、エルダーは軽く頭を下げた。


「……No.10」

「はい?」


 エルダーの会釈は無視された。代わりにNo.6の矛先がイノンに向かう。


「あなた、殿下がいらっしゃることを知っていたのですか?」

「はい」


 イノンがあっさりと肯定する。


「? なにか問題ありますか?」

「……いいえ。行きましょう。我らも新たな国王陛下にご挨拶をしなければ」

「ぼくは行きません」


 No.6が「……は?」と間抜けな声を出す。

 エルダーは、ふとこのNo.6が気の毒に思えた。イノンを軽く受け流す事には慣れているらしいが、実際には諦めているだけのような気もする。

 No.6はイノンではなく、ゼラに尋ねた。


「今のはどういう意味ですか?」

「そのままの意味だ。私とともに来てくれるのでね」

「……殿下は、どちらに?」

「オーディルーに」


 No.6が身を引く。他の三人も顔を見合わせるように白いフードが動いた。


「ついでに、もう一人連れて行きたい。向こうへ行くためには、一人でも治癒士は多い方がいいのだが――お前が行くか?」

「なんてことを」


 察したらしいNo.6は、わななくように口元に手をやった。


「反乱を起こしたのですか」

「いいや? 私ではない。兄上だよ。あとは……そうだな、直接手を下したのはお前が尊敬するNo.1らしい」

「!」

「さて。誰が私と向こうへ行ってくれるのかな?」


 穏やかな物腰のゼラの問いかけに、No.6の背後にいた白いローブが一つ動く。


「殿下――あちらで何を」

「黙りなさい!」 


 No.6の怒号とともに、白いローブが倒された。勢いのいい平手打ちを食らったのはNo.8らしく、地面の上で声を殺して身を縮ませる。


 エルダーの前にいるロムが「うわ、痛そー」と呟き、後ろでは、フェーネのため息が聞こえてきた。エルダーがイノンを見ると、肩をすくめて返される。

 特別珍しいことではないらしい。

 他の二人はNo.8を気遣う素振りをしているが、手を貸すことはなかった。

 ゼラが小さく笑う。


「いけないよ、No.6。仲間に手を上げるのは感心しないね」


 エルダーは笑みをかみ殺すように俯いた。

 ゼラの後ろにいる治癒士は、仲間を殺そうとした者ばかりだ。居心地が悪そうにアキレアが身じろぐ気配がする。



「オーディルーになど……正気ですか?!」

「正気だとも。少なくともお前よりは」

「どういう意味です!」

「そのままの意味だが?」


 ゼラは不思議そうに首を傾げた。


「そうだね……じゃあ、お前は戻ればいい。一人。もう一人は必ず連れて行く」

「! 許しませんよ、末の王子。行動まで正しくないとは、嘆かわしい」


 ぴくりと動いたのはロムだ。背中が強ばっている。

 エルダーの心配をよそに、空気を読まないNo.6が吠えた。


「あなたを尊敬していましたが、それはあなたが管理者だからこそ。正しい行いをしていたからです。国を裏切る逆賊になぞつくわけがありません。この者達は連れて行かせない。No.10、あなたもです!」

「いや、ぼくは行くけど」

「だ、そうだ。お前の話は終わったかい?」


 イノンもゼラも軽く流して、イノンはしゃがんで倒れたNo.8を見た。


「だいじょうぶ? 治癒してあげようか」

「い、いえ、結構で――」


 ゴホッと大量の血を吐いたNo.8は、口を押さえて身体を丸める。イノンはその背を撫でながら、No.6を見上げた。


「――やめなよ」

「黙りなさい。黙らないのなら()もやりますよ」


 身体を引く残りの二人のうちの一人が、手を震わせる。No.9なのだろう。ロムの隣に立つスラーが「趣味わりぃ」とこぼしたので、エルダーも同意させてもらう。


「ごめん、No.8。素顔になって。ぼくが治癒する」

「無理ですよ。私がずっとかけ続けますから」

「ふうん。じゃあ、No.9に手を出せないよね。脅しはむだだ」

「……あなたは本当に扱いづらい。いつまでも私に素顔を見せませんでしたね。もっと強引にしておくべきだった」

「見せる訳ないでしょうよ」


 イノンがNo.8に「少し我慢ね」と声を掛けて背をとんとんと叩く。



「――No.6」



 ゼラが静かに、そして親しげに声をかける。


「その治癒士はお前のものではないよ。国のもの。ひいては新国王に即位なされた兄上のもの。勝手に手を出してはいけない。お前も逆賊になる気なのかな」

「まさか。これは正しい行いです」

「ほう、どこがだろう」

「あんな国に、治癒士は渡さない」


 No.6の顔は見えない。けれど、敵意ははっきりと手に取るようにわかる。


「オーディルーに治癒士を渡すくらいならば、私が殺します」


 No.6の発言に、エルダーは思わず笑った。

 その声は思ったよりも大きかったらしく、場が突然静まり返る。エルダーはそっと俯むいて、口元に手をやる。


「――ああ、失礼しました。続けてどうぞ、No.6」

「何がおかしいのです」

「いえ、私のことなど気になさらなくて結構ですので、どうぞ、殿下に喧嘩を売ってくださいませ」


 エルダーが穏やかに言った言葉に、ロムの背中が揺れ、スラーがげんなりしたように肩を落とした。

 ゼラが小さく振り返る。

 呼ばれたエルダーは、ロムとスラーの間から出てゼラの隣に並ぶ。それどころか、一歩前へ出た。



「喧嘩を売るのなら――私が買わせていただきますね」



 その声は微笑んでいる。


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