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スラーの後ろを歩くエルダーが合流すると、全員の視線が集まるのを感じた。レカがそっと寄り添うように隣に立つ。
一瞬、合うはずのない視線がNo.6と合ったように思えて、エルダーは軽く頭を下げた。
「……No.10」
「はい?」
エルダーの会釈は無視された。代わりにNo.6の矛先がイノンに向かう。
「あなた、殿下がいらっしゃることを知っていたのですか?」
「はい」
イノンがあっさりと肯定する。
「? なにか問題ありますか?」
「……いいえ。行きましょう。我らも新たな国王陛下にご挨拶をしなければ」
「ぼくは行きません」
No.6が「……は?」と間抜けな声を出す。
エルダーは、ふとこのNo.6が気の毒に思えた。イノンを軽く受け流す事には慣れているらしいが、実際には諦めているだけのような気もする。
No.6はイノンではなく、ゼラに尋ねた。
「今のはどういう意味ですか?」
「そのままの意味だ。私とともに来てくれるのでね」
「……殿下は、どちらに?」
「オーディルーに」
No.6が身を引く。他の三人も顔を見合わせるように白いフードが動いた。
「ついでに、もう一人連れて行きたい。向こうへ行くためには、一人でも治癒士は多い方がいいのだが――お前が行くか?」
「なんてことを」
察したらしいNo.6は、わななくように口元に手をやった。
「反乱を起こしたのですか」
「いいや? 私ではない。兄上だよ。あとは……そうだな、直接手を下したのはお前が尊敬するNo.1らしい」
「!」
「さて。誰が私と向こうへ行ってくれるのかな?」
穏やかな物腰のゼラの問いかけに、No.6の背後にいた白いローブが一つ動く。
「殿下――あちらで何を」
「黙りなさい!」
No.6の怒号とともに、白いローブが倒された。勢いのいい平手打ちを食らったのはNo.8らしく、地面の上で声を殺して身を縮ませる。
エルダーの前にいるロムが「うわ、痛そー」と呟き、後ろでは、フェーネのため息が聞こえてきた。エルダーがイノンを見ると、肩をすくめて返される。
特別珍しいことではないらしい。
他の二人はNo.8を気遣う素振りをしているが、手を貸すことはなかった。
ゼラが小さく笑う。
「いけないよ、No.6。仲間に手を上げるのは感心しないね」
エルダーは笑みをかみ殺すように俯いた。
ゼラの後ろにいる治癒士は、仲間を殺そうとした者ばかりだ。居心地が悪そうにアキレアが身じろぐ気配がする。
「オーディルーになど……正気ですか?!」
「正気だとも。少なくともお前よりは」
「どういう意味です!」
「そのままの意味だが?」
ゼラは不思議そうに首を傾げた。
「そうだね……じゃあ、お前は戻ればいい。一人。もう一人は必ず連れて行く」
「! 許しませんよ、末の王子。行動まで正しくないとは、嘆かわしい」
ぴくりと動いたのはロムだ。背中が強ばっている。
エルダーの心配をよそに、空気を読まないNo.6が吠えた。
「あなたを尊敬していましたが、それはあなたが管理者だからこそ。正しい行いをしていたからです。国を裏切る逆賊になぞつくわけがありません。この者達は連れて行かせない。No.10、あなたもです!」
「いや、ぼくは行くけど」
「だ、そうだ。お前の話は終わったかい?」
イノンもゼラも軽く流して、イノンはしゃがんで倒れたNo.8を見た。
「だいじょうぶ? 治癒してあげようか」
「い、いえ、結構で――」
ゴホッと大量の血を吐いたNo.8は、口を押さえて身体を丸める。イノンはその背を撫でながら、No.6を見上げた。
「――やめなよ」
「黙りなさい。黙らないのなら次もやりますよ」
身体を引く残りの二人のうちの一人が、手を震わせる。No.9なのだろう。ロムの隣に立つスラーが「趣味わりぃ」とこぼしたので、エルダーも同意させてもらう。
「ごめん、No.8。素顔になって。ぼくが治癒する」
「無理ですよ。私がずっとかけ続けますから」
「ふうん。じゃあ、No.9に手を出せないよね。脅しはむだだ」
「……あなたは本当に扱いづらい。いつまでも私に素顔を見せませんでしたね。もっと強引にしておくべきだった」
「見せる訳ないでしょうよ」
イノンがNo.8に「少し我慢ね」と声を掛けて背をとんとんと叩く。
「――No.6」
ゼラが静かに、そして親しげに声をかける。
「その治癒士はお前のものではないよ。国のもの。ひいては新国王に即位なされた兄上のもの。勝手に手を出してはいけない。お前も逆賊になる気なのかな」
「まさか。これは正しい行いです」
「ほう、どこがだろう」
「あんな国に、治癒士は渡さない」
No.6の顔は見えない。けれど、敵意ははっきりと手に取るようにわかる。
「オーディルーに治癒士を渡すくらいならば、私が殺します」
No.6の発言に、エルダーは思わず笑った。
その声は思ったよりも大きかったらしく、場が突然静まり返る。エルダーはそっと俯むいて、口元に手をやる。
「――ああ、失礼しました。続けてどうぞ、No.6」
「何がおかしいのです」
「いえ、私のことなど気になさらなくて結構ですので、どうぞ、殿下に喧嘩を売ってくださいませ」
エルダーが穏やかに言った言葉に、ロムの背中が揺れ、スラーがげんなりしたように肩を落とした。
ゼラが小さく振り返る。
呼ばれたエルダーは、ロムとスラーの間から出てゼラの隣に並ぶ。それどころか、一歩前へ出た。
「喧嘩を売るのなら――私が買わせていただきますね」
その声は微笑んでいる。




