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No.19の遺影  作者: 藤谷とう
――殺されたNo.19――
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 灰色の庭には、残った五人が微妙な距離を開けて立っていた。

 レカがその間に溶け込むように入っていく。背中のNo.18の刺繍を見守りながら、ロムが口を開いた。


「言わないよね?」

「あなたがあの人を愛してるってこと?」

「性格悪いなあ」

「あなたほどじゃないと思うけど」


 エルダーが笑うと、ロムもにこっと笑う。そして「じゃあ、お先に」とレカに続いて庭へ入って行った。


「殿下。お待たせしました」


 いつも通りのロムが、いつも通りの顔で、声で、戻っていく。その背中を見ながら、エルダーは足を止めた。


 レカが加わり、ロムが入っていくと、隙間だらけだった輪が和やかなものになる。先ほどまではどこかギスギスしているように見えたが、大方ゼラがあの中の誰かをからかっていたのだろう。

 エルダーはロムの横顔を見る。言うつもりは一切ないけれど、きっとゼラは知っている。知っているというより、きっとそう仕向けたはずだ。唯一普通そうなスラーは、きっとジードの推薦に違いない。


 わかっている。自分がどういう立場か。


 エルダーは苦笑する。

 それでもいい。自分の中に鬱屈する衝動を、彼の元でなら晴らせる。あの国が嫌いだ。グレフィリアが嫌い。


 エルダーは穏やかな表情で俯いた。


 今までどれだけ我慢をしてきたことか。地下の子供も、王太子も、王も。衝動に任せて殺してしまいたかった。

 けれど、エルダーにはそれができない。

 治癒士にとっては致命的なほどに、自制心が強かった。心像(イメージ)を使うまでに相当な手順を要するのだ。

 頭では殺したいと思っていても、それを心像(イメージ)として使うには、エルダーの中の様々な回路を通る必要があった。

 衝動がそれまでに冷め切っていることがほとんどだ。

 殺意だけが燃え殻のように蓄積している。モナルダのようになれたら、どれだけ楽だったろう。


 エルダーは、洋館の中で朽ちた少女を思う。

 直情的にイメージを使い、そしてこの庭で敷石に頭をすり付けながら「ごめんなさい」と叫んだ少女。頭の映像そのままの心像(イメージ)を使う少女。


 羨ましい。

 私ももっと、自由に使ってみたい。

 ジードはそれを「忍耐強いと思え」と励ましてくれたけれど、シンプルに力を振るえる剣術をジードに教え込まれたレカが羨ましかった。


 それでも、ゼラのそばにいれば、その焦げ臭い感情も晴れた。

 小さな頃からそうだ。

 夜はいつも手をつないで眠った。それは許しを与えられたようで、いつも寝入る少し前に泣くエルダーの涙を、ゼラは何も言わずに拭ってくれた。

 感情はゼラによって溶かされる。


 どんな扱いをされたっていい。


 幼いエルダーは誓った。ゼラを決して一人にしないと。

 エルダーが正式にNo.19のローブをもらってからは、城で勤めはじめた上に、入れ替わるように護衛が二人増えたせいで会える時間が極端に減ったが、気持ちは一つも変わらなかった。ただ、ここ一年、焦げ臭い感情だけは処理できず、積もりに積もって、そろそろ限界だった。


 ぼんやりしているエルダーを、フェーネがちらりと見る。

 目が合う。

 涼しげな目が呼んでいる。

 エルダーは、少しだけ微笑んだ。


 黙っていよう。

 嘘を吐いたことは。

 

 

「エルダー」


 ジードに呼ばれ、庭へ入る。幼い思い出が出てきそうになるのをそっと閉じて、エルダーは輪の中へ向かった。


「なに?」

「殿下が全員に伝えておきたいことがある、と」


 ゼラがエルダーを見る。


「おかえり、私のエルダー」

「ただいま戻りました。遅くなって申し訳ありません」

「いいや。レカは本気でこれを着て行く気らしいな?」


 くすくすと笑うゼラは「強烈な皮肉だ」と笑った。

 レカが着るものは、黒い「王の子」のローブに続いて、今度は白い「愛人のNo.」のローブなのだ。満足そうなレカが、その場でくるりと回る。

 スラーが若干引いていた。


「そのようで。好きにさせてやってください」

「そうする」


 ゼラは回り終わったレカの頭をぽんぽんと撫でる。

 そして、全員に向かってゆっくりと笑んだ。


「お前たちに伝えておかなければならないことがある」


 ゼラは全員の視線を順に受け止めて、アキレアで止めた。


「アキレアはグレフィリアの治癒士であるが、オーディルーの呪与士(じゅよし)でもある――そうだね?」

「はい」


 アキレアが頷く。

 驚いていないのはジードとフェーネだけだった。

 エルダーはアキレアを見上げる。知らない。そんなことは、聞いたこともない。

 治癒士は人を癒す力を持ち、呪与士は人を呪う力を持つ。

 グレフィリアがそう言っている。


「そうなの?」

「ああ――俺はここに来る前は呪与士だった。()()()ここへ運ばれてきたんだ。絶対に治癒士となって、中枢に入り込めるから」


 アキレアの言葉を継ぐように、ゼラが頷いた。


「そういうことだ。呪与士は治癒士と全く同じ力を使う――いいや、正しくは、呪与士こそが治癒士なんだ」


 ゼラの言葉が、夕暮れに溶けていく。

 エルダーは思った。

 あの地下の床に流れる血の色だ、と。



「その昔、グレフィリアがオーディルーにいた呪与士を奪ってきたのが治癒士の始まりだそうだ。知っておいてほしい。我々は決して歓迎されない。向こうの()()()()()を奪った国から来た者だからね。君らが、初代様、と呼ぶ彼女のことだ」



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