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No.19の遺影  作者: 藤谷とう
――殺されたNo.19――
29/136

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 エルダーはじっと休息の洋館を見上げた。

 灰色の庭に全員が出てきているが、あの中には死体が転がっているままだ。


 ふと思い出して、エルダーはジードに尋ねた。


「No.20の死体はどこに置いてあるの?」

「レカの心像(イメージ)で朽ちさせた。骨は砕いて水路から流してある」

「大変そう」

「いや、しつこいくらい細かく切断されてたから運びやすかったぞ」

「ふ、そうなの?」


 フェーネに聞くと、穏やかに微笑まれた。


「じゃあ、この中にいるのは一人だけね」



 洋館を見上げるエルダーの隣で、レカも同じようにじっと談話室の方向の窓を見る。


 その頭を撫でると、すぐに照れたようにはにかんだ。可愛くてたまらない。エルダーが無心で撫でていると、レカがはっとしたようにゼラを見た。


「もうこちらを発たれますよね? ちょっと処理しなければならないものが残ってるので、取ってきます」

「どうした」


 ジードが聞くと「ローブですよ」とレカが言う。


「No.18のローブ。あれだけを残しておくのはマズいかと」

「ああ……ロム、どこに置いた?」

「あっ、えーと」


 ジードに聞かれたロムがあたふたするので、エルダーはその腕を取った。


「行きましょう、ロム様。案内してください」

「え」

「ゼラ様。三人で行って参ります。少々お待ちを」

「――ああ、気をつけて行っておいで」


 にこやかに手を振られ、エルダーは灰色の庭から出て、死のにおいのする「休息の洋館」へと軽やかに戻る。




    ○



「もしかして、殺される感じ?」


 入って早々、ロムがふざけて言う。

 その割には帯剣している腰の近くに腕があるので、あながち冗談ではないのだろう。


「ロム様。私たちそんなこと致しません。信用していただけるように、これから頑張りますけど……悲しいものですね」

「ちょっと、ごめん、エルダーちゃん、そのしゃべり方怖い」

「ふふっ。面白いですよねえ」


 レカがからからと笑う。

 エルダーとレカに挟まれて、ロムは皮肉めいた笑みを浮かべた。


「いやあ……生きた心地しないな」

「あら、どうしてよ」

「どう考えてもそうでしょ?」


 ロムがため息を吐き、剣から手を離す。


「エルダーちゃんが完璧に擬態していたのもそうだし、君、たぶんさっき殿下が言っていた予備の一人だよね?」

「あら、詳しく知りたいのなら教えるわよ」


 ロムはすぐに両手をあげて「そういうつもりじゃないよ」と首を横に降る。そして、レカをちらりと見た。


「え、と。何か?」

「んー、いやあ、君があの黒いローブを着ていたんだなあと思って。フェーネくんも言っていたけど、本当に殿下のフリがうまいね。背格好は……もしかして寄せてるの?」

心像(イメージ)で、ですか? 寄せてはいませんよ。ただ、僕が七歳の頃からお世話になっているので、自然と身体がそうなってるのかもしれませんね」


 素顔のままで話すことがどこかくすぐったいのか、レカは嬉しそうに話している。エルダーはそれを見守りながら、ロムの剛胆さを薄気味悪く感じた。

 治癒士二人に挟まれているのに、一切警戒していない。

 殺されるの、と聞いてきた割には、怯えなど一切ないのだ。

 エルダーは和気藹々と話す二人の会話に耳を傾ける。


「ふうん、じゃあ本当に小さい頃から入れ替わってたんだ。全然わからなかった。殿下のふりなんてドキドキしそうだよね」

「してますよ」

「えー、本当? かなり本物っぽかったよ?」

「僕、ゼラ様のことが大好きなんです。不名誉になることはできなくて……立場のない僕が失礼なことをしている自覚はあるんですけどね……手が抜けなくて」

「それが殿下を守ってきたんだろうねえ」


 ロムがにこにことレカを肯定する。


「興味本位だけど、聞いていい? 今回はどことどこで入れ替わってたの?」

「今回というか、ここへ来て一年ですが殿下が黒いローブを着たのは一度きりですよ」

「それって」

「はい。あの朝です。姉さんたちが到着して二日目の朝。あの日だけは、さすがに僕に代打はできませんので。その前も後も、ずっと護衛として過ごしておられましたよ。自由に動けるから、と」


 ロムが「うわあ」と頭を掻く。


「やっちゃったかも。ほら、世話役の子って、城にいるときは名前も教えてくれないし、喋ってもくれないし、ここに配置されてからようやく名前で呼べるようになったから、かなり構っちゃったんだけど……あれ、殿下かあ……」

「あれ、殿下です。喜んでいらっしゃったみたいですよ。みんな愉快だと仰られていましたし」

「レカくん、信じるからね」

「ふふ。大丈夫です」


 レカが穏やかに会話を続ける。

 エルダーは黙ってロムについて行く。どうやら地下へ向かっているらしい。モナルダのローブをそこで脱がしたのだろう。


「あのさ……殿下は、レカくんに優しい?」


 ロムが好奇心を抑えられない様子でこっそりと聞いてきた。


「優しいですよ。とても愛情深い方です」

「ああ、わかる。非情になれるところが、愛情に溢れている気がする。あと、なんだろう……少しでも話すと、ふらーっと寄って行ってしまうような引力を持ってる人だよね。救世主、みたいな」


 ロムがうっとりと口にする。

 決して否定してはならない。

 エルダーの本能がそう警告していた。彼の忠誠心を踏みにじるような言動は許されない。それに触れようものなら、その上品で気ままな友好的な仮面が内側から食い破られていく。そんな気がした。

  

 レカは何度も頷く。


「わかります。僕にとってもそうですよ」

「へえ、そうなの?」

「はい。ゼラ様は、僕を助けてくださいましたから」


 レカはロムと同じように、大切な思い出に触れるように顔を綻ばせる。



「姉さんだけではなく、僕のこともそばに。最初は隠していたんですけどね、それでも、治癒士の能力を見抜いてくれた。あのときは、凄く、救われた気がしました。感動したなあ」


 幼い笑みだった。

 思い出を懐かしむ表情は純真そのものだ。ロムが「そうだったんだね」と寄り添うと、レカは嬉しそうに、ロムが知りたがっている情報を与えた。


 無垢な笑みでロムと打ち解けた弟をそっと見守る。



 エルダーはよく知っている。

 レカを育てたのは、他でもないゼラだということを。


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