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No.19の遺影  作者: 藤谷とう
――殺されたNo.19――
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 あの夜、何が起こったのかエルダーは把握していなかった。

 部屋にフェーネがまだ残っていたのかもわからなかったし、そこにアキレア訪ねてくることも、モナルダが想像以上に苛烈な行動に出ることも、知る由もない。


 ただ、予想外の逢瀬に浮かれていた。

 ゼラを見送って、さてどういう風に殺しましょうか、と考えていたが、まさかマリーが素顔のままでいて、うっかり「No.19」に殺意を持つ者に素顔を晒していたなんて馬鹿らしいことが起こるなんて、予測しようがなかった。


 おかげで大したことはできなかったし、一体どうなっているのかよくわからないままに、流れに身を任せていた。


 王が死ねば、No.2が来る。


 彼女が来るまで、No.20のローブを取っておいて、どこかでNo.18を処分しておこう。タイミングが大事なアドリブの中をエルダーは自由に泳いでいた。

 思いの外、マリーの真似は愉快だった。








「――では、No.2に賛同して、オーディルーに降伏なさるのですか?」


 スラーの言葉に非難の色はない。

 ただ、戸惑ったように状況を整理しようとしている。


 ロムはもうあっさりと覚悟を決めたようで、フェーネの後ろについていた。ゼラに対する危ういほどの忠誠心は本物らしい。

 ロムのそれはどこか狂気じみているとことが気になっていたが、エルダーが信頼するジードが選抜した護衛であることを考えると、口を出すことはないだろう。何よりゼラが何も言わないのなら、エルダーは気を抜かないことしかできない。



「グレフィリアを平和に導くために、オーディルーへ向かわれる、と?」


 エルダーはスラーの顔を見る。

 眼鏡の奥の目は温度が低く、何を考えているのかわからないが、それでもこれが馬鹿ではないことはわかった。


 No.2との会話から、ゼラが内乱を仕掛けたことは察しているだろうに、王の崩御については触れようとしない。第五王子の護衛につく許可があれらから出たというのなら、彼らも訳ありなのだろう。少なくともあの王に思うところはあったということらしい。

 ゼラは小さく笑んだ。


「お前は、私にどう言って欲しいのかな?」


 スラーが息を飲む。


「どう言って欲しい?」

「失礼、しました」

 

 ゼラの言葉に、スラーは口ごもった。

 お前の欲しい言い訳なら与えてやるよ、という優しさを、スラーは受け取れなかったらしい。第一王子は嬉々として「第五王子に焚きつけられて仕方なく」と言い訳を受け取り、父親を殺す算段を始めていたと言うのに。


 ゼラはスラーを許すような目で見つめる。


「残念なことに、グレフィリアは腐っている」


 アキレアがびくりと身体を硬直させた。


「ひっそりと生まれた予備の治癒士は、国は育てると言って受け取る。そして、どれほどまで耐えられるのか()()し、合格した者は代わりが必要になるまで閉じこめられる。大体がその場所でお互いに心像(イメージ)を使い合い、淘汰していくのだが――生き延びる者もいる」



 あの暗い、湿っぽい不衛生な石造りの地下で、時折怯えた子供が放り込まれた。

 何とか実験を耐え抜いて身体を治癒できているだけで、心は保てていない彼らは、自然と生き残る為に必死で優秀であることを示そうし始める。目に見えてわかる首をへし折るのが簡単で、皆静かに死んでいく。けれど、鼻が曲がるような残酷なにおいは染み着いて取れなかった。

 きゅっと、繋いでいるレカの手に力がこもるのを感じた。


 平気よ、と伝わるように手を握り返す。



「No.18は……確かに予備だが、見目が美しい子で最初から丁重に扱われたらしい。私の父(前国王)の愛人だそうだ」


 ゼラのさらりとした言葉に、ロムは面白がり、スラーは不快そうに口元を歪ませ、フェーネは眉を顰めた。

 アキレアはショックを受けているように蒼白になっている。けれどそれは、モナルダが愛人だったことを聞いたからではなく、予備の治癒士の扱いを聞き始めてからだった。

 今にも手で口元を塞ぎそうなアキレアに、ゼラが穏やかに話しかける。


「君たちは正しい生まれだから、そんな扱いは受けなかっただろう。城に招かれて教育を受け、上位のNo.から治癒士のあるべき姿を聞き、国を守る要として尊敬されてきた。初代の治癒士が現れて百年――ようやく二十人まで増えた、希有なる存在。ところが、別の場所には同じ治癒士が地下に閉じこめられて殺し合っている。なぜだと思う?」


 アキレアの額に粒のような汗が浮かぶ。

 答えがわかっているのだ。

 ゼラは引かない。


「彼らが()()()()()からだ。では、なぜ正しくないのか」


 エルダーはそっとゼラを見た。

 柔らかく微笑む目は、奥で憎悪が燃えて揺れている。


「生まれ落ちた場所だよ――王城の近くで生まれた者は、正しい治癒士。王城よりもオーディルーの近くで生まれた者は、正しくない治癒士。簡単だろう?」


 突然心像(イメージ)が使えなくなった治癒士の穴埋めに、生き残って育った治癒士が使われる。

 その時にはすでに抵抗する気はなく、地獄から抜け出せた感謝の気持ちで精一杯仕えるが、正しい治癒士が生まれれば、彼らが育つ年齢を待って再び入れ替えられる。つまり、死ぬ。


 エルダーは目を伏せる。


 いつか死ぬための命だ。


 でも、だからこそゼラと出会うことができた。

 初めて会った八歳の頃、互いが酷く寂しいことを感じ取って、ただ静かに泣いた。

 二人でジードに抱きしめられた。



 あのときから、お互いが一番の理解者だ。

 あのときから、ゼラとともにあたたかな底に沈んでいる。



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