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No.19の遺影  作者: 藤谷とう
――殺されたNo.19――
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「――前国王の側近達を幽閉する際、第三王子が抵抗をした為その場で粛正を。No.4が治癒をしなかったため、絶命しました。第二王子殿下、第四王子殿下は、新国王に忠誠を誓い、他の治癒士達も追随しております」

「そうか」


 王子が頬杖をついたまま、跪くNo.2を見下ろす。


()()()は苦しまれたか?」

「ええ……No.1がきちんとお送りして差し上げましたわ。苦痛に歪みながら、我々に助けろと仰っていましたが、誰も」

「だろうなあ。No.1の様子は?」

「良心の呵責からか、一緒に棺に入ると言っていましたが、しばらくは国内の安定のために新国王陛下に仕えると申しております。城内の治癒士全員が新国王についたので、今のところ混乱もありませんわ。それどころか新しい風に希望を見出している者がほとんどです。前国王は眠ったまま息を引き取ったと、明朝には発表になるかと」

「あと半日か」

「そうですわね。進めましょう」


 No.2がゆっくりと立ち上がる。

 エルダー達に向かって微笑んだ。


「城内の我々は新国王陛下へ忠誠を誓う。お前たちはどうしますか?」

「……よろしいですか、No.2」

「フェーネでしたね。なにかしら」

「王はお亡くなりに?」

「ええ」

 

 悲しげな声で頷く。


「争いを始めた愚かな王は、No.1の手によってこの地を旅立ちましたわ。情けない王の影は城にはもう一つもありません。自らが一番信頼した者に葬られた。あの怯えた王には相応しい最後だと思いませんこと?」


 No.2の囁きが談話室に染み渡る前に、ガタ、と物音が響いた。

 全員が()()を思い出す。


 モナルダがその場に立っていた。


 乱れた髪の隙間から、蒼白な顔がかろうじて見える。カチカチと音がしていた。

 震えているのだ。


「……お、おおお、王が、お亡くなりに……?」


 No.2がとことこと近づいていく。


「まあまあ! お喋りができるのね。お利口さんだこと。どれ、私にお顔を見せてちょうだい」

「……申し訳ありませんが、離れておいてください」

「あら、ジードに言われては仕方ないわ」


 興味津々で顔をのぞき込もうとしたNo.2を、ジードが腕を取って遠ざける。

 その時だった。


「え」


 ロムが間の抜けた声が聞こえた。

 モナルダが大きな一歩を踏み出し、足枷のついた椅子を倒し、引きずりながら王子に向かって行ったのだ。早かった。薬を打たれていると思えないほど、今まで空っぽであったことが嘘であったように、むしろ今までの彼女からは考えられないスピードで、一気に王子に近づく。

 スラーが剣を抜ききる前に、突進するように黒いフードに手を伸ばした。


 心像(イメージ)を使う気だ。

 咄嗟に、エルダーは隣のアキレアの動きを止めた。フェーネも同時にアキレアの腕を取る。

 スローモーションのように、モナルダがひどく顔を歪ませているのが目に入った。黒いフードが、はらりと後ろへ落ちていく。


「!」


 その顔を見た瞬間、モナルダがビクリと止まった。


「ふ」

 

 王子が笑う。

 人形のような顔は白く、感情が見えないほど隙がなく、そしてよく知っている顔――


「――治癒士?」


 アキレアが茫然と呟く。

 驚いているのはアキレアだけではなく、ロムとスラーもだった。剣を抜いたはずのスラーは、硬直するように剣を動かせないでいる。

 短い髪に、伏せると長いまつげ。

 仮面のような顔。

 数日前までいつも鏡で見ていた「初代様」と呼ばれる顔が、王族の黒いローブの中から現れた。

 誰も何も言えない中で、モナルダがわなわなと口を開く。


「王、を、殺した、の?」


 全身が震えているのだろう、その言葉は不自然な音程で紡がれた。

 

「私の、あの人を。私のあの人を!!」


 怒号に次いで、顔を見せている者たちの頬が、スパッと切りつけられたように血を流す。無事なのは、王子とNo.2だけだ。

 ゼラが頬に触れて、手のひらの血を見る。


 

「――レカ」



 ゼラがその名前を口にすると、()()()()()()()()()()()()


「斬れ」


 剣が閃光のように下から上へ瞬いたかと思うと、次いで血飛沫がパッと天井を走る。

 エルダーは弾かれたように席を立ち、モナルダの元へ駆けつけた。倒れた身体を抱き寄せる。


「モナルダ様」

「……あ、あ」

「駄目よ、喋らないで」


 小さな身体をぎゅうっと抱きしめ、心像(イメージ)を使う。干渉できる。ということは、今彼女は使えていない。この状態でよく立ち上がり、動けたものだ。エルダーは目を閉じて、モナルダの身体のなかに潜っていく。小さな細胞一つ一つに語りかける。その傷が、深くまで達するように――彼女自身が治癒を使えぬように、丁寧に。

 ゴフッと、血を吐き出すモナルダの濁った瞳を、エルダーは穏やかに見つめた。

 頭を掻き抱くようにして、耳元で囁く。



「さあ、あなたの好きな国王の元へお行きなさい。永遠におやすみ、可愛いモナルダ」



 モナルダの目が、見開かれる。


 と、そのまま事切れた。


 だらりと全身の力を抜いたモナルダから、エルダーはゆっくりと離れる。フェーネが、きつくアキレアの腕を掴んでいるのが見えた。

 顔が血塗れたエルダーは、二人に向かって治癒を施す。頬が切れたままだった。

 

 誰も動かない談話室の中で、ジードにもロムにもスラーにも、順に頬を治癒し、最後にモナルダの身体をゆっくりと床へ置くと、エルダーは黒いローブの後ろに立つゼラの元へ行き、跪いた。


「……ゼラ様。お顔を」

「ああ。おかえり。私のエルダー」


 夜色の髪を揺らして、ゼラがそうっと屈む。

 エルダーの白い手が、ゼラの頬から額へ。重く長い前髪を中央で掻き上げると、愛おしい顔が微笑んだ。エルダーは祈るように治癒を施す。ローブは、赤い血に染まっている。



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