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No.19の遺影  作者: 藤谷とう
――殺されたNo.19――
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15


 ローブを脱がされ、白いワンピース一枚の姿に絶句したのはエルダーとアキレアだけで、フェーネは「ああ、これなら連れてきても安全ですね」と言い放った。


 モナルダはスラーが座っていた椅子に座らせられ、焦点のあわない目でじっと床を見つめている。足枷は片足だけ外され、椅子の脚と繋がれた。

 ロムとジードが両隣に立つ。


 なぜ。

 エルダーはテーブルを見つめる。

 何故連れてきたのだろう。この姿を見せるためだろうか。そうでないのなら――


「ジード、聴取の報告を」

「はい、殿下」


 ジードがモナルダの頭を無感情目で見下ろす。


「No.19を殺したのは自分であると告白しました――あの夜、No.19の部屋の廊下に身を潜め、アキレアの後にフェーネが部屋から出たのを見て、押し入ったそうです。すでにローブは脱いでいた。顔を見た瞬間に、()()目を潰した、と」


 椅子に座ったモナルダには何も届いていない。

 何をされたのか、まるでここにいないように空っぽの目で、乾いた唇を薄く開けたままだ。


「ベッドに倒れたNo.19の上に乗り、ベッドサイドのデスクの上にあったナイフで心臓を刺したそうです。すぐに我に返り、部屋に戻って夢だと思うことにした、と。ところが、翌朝、自分がした覚えもない状態で発見されたと聞き、咄嗟に逃げられると思ったようです」

「……何について脅されていたかは聞き出せたか?」

「いいえ。あれ以上の投与は致死量と判断したので、深追いはしませんでした」

「ならば仕方ない。ご苦労」

 

 王子は逡巡し、「ふ」とおかしそうに笑った。


「さて。フェーネ、お前の推測が当たりらしいな」


 呼ばれたフェーネが「おや」と穏やかに目を細める。


「殿下もご存じだったのでは?」

「お前は面白いことを言うね」


 向き合った二人の間に、少しばかりの沈黙が流れた。

 フェーネが意味深な目で見つめると、フードの隙間から微笑んだ口元がそれを跳ね返す。言葉にできない()は、フェーネによって破られた。


「では、我々の処分はお決まりに?」

「そうだな――エルダー、アキレア、フェーネ。お前たちへの処分は当分見送り、今後の行動で判断する。私は何もする気がないわけではないよ」


 にこりと口元が笑う。

 フェーネがそれを受けて頭を下げた。


「寛大な処分に感謝いたします」


 エルダーも続き、アキレアも続いて頭を下げた次の瞬間、ゼラがぴくりと顔を上げた。数秒して気づく。扉の音だ。どこかが開き、そして閉まった。


 談話室に全員がいる。

 ()()()()()()()()()()()のだ。


 怪訝な顔をしたアキレアと目が合う。

 敵襲ではない。一人だけ。静かに、けれどこちらに知らせているような足音で、じわじわと談話室へと近づいてくる。護衛たちが視線を一瞬だけ合わせているのが目に入った。

 エルダーは息を潜める。

 何かが来る。

 


「――殿下、失礼しますわね」



 鈴の音のような可憐な声が、開かれたままの扉からそっと入ってきた。

 談話室の扉は開いていた。

 ずっと、これを待っていたのだ。


 白い手が最初に見え、次に見えたのは白い袖。ゆっくりと姿を見せたのは、深くフードをかぶった出で立ちの治癒士だった。


「まあ、お揃いで」

 

 見慣れた姿に、聞き慣れた声。いつも自分たちがしていたはずの、しかしここ数日全く見ていなかった姿と声を前にして、アキレアが身じろいだ。

 いいや、そうじゃない。

 エルダーはアキレアの「異様なもの」を見たような反応に同情する。

 そうじゃない。この姿が奇異なのではない。確かに、二十人全員が治癒士の「初代様」を模しているのは安全の名の下の「異様」ではあったが、()()は違う。

 統率された人形の不気味さではない。

 これ自身が、異様なのだ。 

 顔も見えない。けれど、伝わってくる。これの持っている雰囲気が、普通ではないことが。


 王子が「ああ」とそれを見る。


「ようこそ。休息の館へ。遅かったね」

「ええ、手間取ってしまいましたわ」

「首尾は」

「上々、と申したいところですけれど――あら、皆可愛らしいお顔だこと」

「殺すなよ」

「うふふ。いやですわ。そんなこと致しません」


 ころころと笑う。

 そうして、それはエルダー達を前にしてくるりと背を向けて見せた。


「!」


 No.2。

 ローブに背負う刺繍ははっきりと「No.2」が刻まれている。


「……No.2?」


 アキレアが信じられないと言うようにぽつりとこぼし、フェーネも感心するように漏らす。


「これはこれは……」

「こんにちは、子供達。はじめましてね」


 No.2は再びくるりと回り、向き直と、フェーネが恭しく頭を下げた。


「初めてお目にかかります、No.2。王太子殿下の治癒士様。お会いできて光栄です。No.16を預かっております、フェーネと申します」

「ま、お行儀の良い子ね。私は名乗れないの、ごめんなさいね」


 そう言うと、No.2は王子の方に微笑みを向ける。


「殿下、手駒達はきちんと教育なさっているようで安心しましたわ。では、早急に事を進めましょう」

「……急ぐ必要が?」

「リュゼ様が疑っておいでですわ」

「兄上は繊細であらせられる」

「そうですの。可愛らしいでしょう?」


 うっとりと微笑む空気が甘い。

 No.2は、拘束されたモナルダに気づいたらしく「あらまあ」と首を傾げた。


「悪いことでもなさったのかしら」

「まあな。そちらの状況を」

「はい、我が主」



 そう言って、No.2はその場に(ひざまず)く。



「国王陛下は崩御され、王太子が新国王として即位されました事を報告致します」




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