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「お話でも何でもいいが、おとなしくしろよ」
スラーがテーブルから一つ椅子を引き抜き、テーブルの横に置く。参加はしないが監視はするということだろう。本当にこの状況が「面倒くさい」らしく、腕を組んで、足を組み、目を伏せる。
「おとなしくしていますよ」
フェーネが席に着き、エルダーを見た。
「ねえ? エルダー」
「……何故あんなことを。彼女は落ち着こうとしていました」
「あんなこと、とはどんなことでしょう。窓を割ってあなたとアキレアを助けたことですかね?」
「いいえ。心臓を狙うように仕向けたことです」
「ああ……心配させてしまいましたか」
「違います」
エルダーは目の前に座るフェーネをじっと見た。
「あなたのせいで彼女は連れて行かれました。挑発など、どうして」
「――エルダー。あなた、気づいていなかったんですか?」
フェーネが不思議そうに首を傾げる。自分が間違っているような気がしてくるその眼差しは、どこか深くまで見透かしているようだった。
「モナルダだけが、No.19の素顔を知っていた理由を言っていなかったでしょう」
エルダーがハッとすると、フェーネの目がゆっくりと細められた。
「見ていないのに、どうやって心像を使うんです? それに――彼女は動機は話したが、どこでそれを使ったかも一切言っていませんよ」
言っていない。
アキレアも、フェーネも、どこで心像を使ったのかを自ら口にしたが、モナルダは確かに言っていない。思えば先程もそうだった。秘密を知られることに対して敏感になって怯えていた彼女は、けれどもNo.19の話の核心には決して触れない細心の注意を払って話していたことになる。
「あの日のことを整理しましょうか。No.19が死んだあの夜を」
全員の無言を受けて、フェーネが優しく微笑んだ。
「全員の話が本当ならば、最初に彼女の素顔を見たのは、エルダー、あなたでしょう。彼女はあなたの部屋に行き、あなたの前で素顔をさらし、あなたにもそうなるように頼んだ。まあ、どうしてそうなったのかは知りませんが」
意味深に見つめてくる。
エルダーは何について脅されたかを口にするつもりはない。フェーネも聞きたいわけではないのだろう、すぐにその目はエルダーの隣に座るアキレアへ移った。
「次に、彼女が部屋に戻ってすぐに、アキレアが来た。私はすでに部屋にいました。二人は言い争っていた。彼女はずっと、何のことかわからない、いいから出て行って欲しい、と乱暴な対応をしていました。聞いているこちらが少し胸が痛むほど」
アキレアに向けて同情を示すフェーネは、誰も口を開かないままの静かすぎる談話室の中で続ける。
「最後に――ああ、そうでした、彼女が言ったんです。全てあなたの勘違いだ、私は何もしていない、と。そうしたら、扉の前で対応していた彼女が部屋の中に吹っ飛んできた。ベッドサイドのソファにいた私と彼女は目が合いました。ローブのフードが取れて、彼女は素顔だった。アキレアはその時に彼女の顔を見たのでしょう。彼は何も言わずにその場を後にした。それから三十分ほど、私は彼女と話をしていました。つまり生きていた。あの三十分、エルダーとアキレアは何もしていない」
にこっと笑って、二人を見る。
「そして、モナルダも何もしていない。ではいつ、モナルダは彼女の顔を見たのでしょうか。No.19の、顔を」
「……あなたが去った後だと?」
エルダーが問うと、フェーネは頷いた。
「そうでしょうね。それしかあり得ない」
いつもは無表情のアキレアが不快そうに眉を顰めた。エルダーにもよくわかる。あの状態のモナルダに、よく鎌を掛けられたものだ。
「では、モナルダ様に言った、知っている、ということも」
「もちろん嘘です」
「……あの子があんなにも苦しそうに抑えていたのに、追い打ちをかけるなんて」
「慈悲深いですね、エルダー。あれはあなたの思う子供ではないですよ。そうだ……あなた、モナルダから何を聞きました?」
「言うとでも?」
「いいえ。言わないでしょうねえ」
フェーネがゆっくりと頷く。
「まあ、つまり――あの夜の彼女は、エルダーを脅し、アキレアを苛立たせ、それから私に殺して欲しいと頼んできた後に、モナルダをNo.19の部屋へ通した。もしくは、モナルダが押し入った。それで? 目玉を潰しただけ? 廊下にじっと潜んで、私が部屋から出るのを見ていただろうあの者が、それだけで終えるとでも?」
「……フェーネ様、それは私たちが決められることではありません」
「そうですね。ええ、そうでしょう。決めるのは殿下だ。けれど、不思議なのは、あなた方はモナルダの矛盾にも気づいていたはずだというのに、何もする気がなかった。なぜです?」
フェーネが見たのは、腕を組んで目を伏せていたスラーだ。
眼鏡の奥の瞳が、じろりと動く。
「……」
「この件に関して、そちら側は何もする気がありませんよね?」
「……話すことはない」
「そうですか。折角、傷を負ってでも状況を動かしたというのに」
フェーネが肩を撫でる。
「でも、わかったことが一つ。我々は――ここにいる三人の治癒士は、彼女を殺してはいない。正確に言うと、殺せなかった。残念なことに」




