表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
No.19の遺影  作者: 藤谷とう
――在るべき場所――
112/136

112



 休息の洋館に馬車が到着したのは、それからすぐのことだった。


 二つの馬車が止まり、その一つ流れるように押し込まれたエルダーは、そこにいた顔を見てようやく漠然と状況を把握した。



「――それで、詳しい状況は?」



 エルダーの前に座った青年が気怠げにゼラに尋ねる。

 馬車がかたんと小さく揺れた。もう一つの馬車には、フェーネとイノンが乗り、アキレアやレカ、スラーとロムやジードは馬で馬車を警護しながらついてきている。


 エルダーの隣に座るゼラは、彼に向かって穏やかに頭を下げた。


「兄上――まずは来てくださり、感謝します」

「約束だから」

「……合図に気づいてくださって助かりました」

「手紙をもらってからずっとそっち側を監視していてよかったよ」

「ありがとうございます」


 ゼラが無邪気を装って笑う。

 ゼラの笑みを上辺で受け取った青年――グレフィリアの第四王子のジオは、ゼラに報告を促すような視線を送った。ゼラが頷く。


「――オーディルーの女王は死亡。並びに、その呪与士も死亡しました」

「あの恐ろしいばあさんね。よく葬れた」

「エルダーが」


 ゼラが言うと、ジオはどこか悲しげな目でエルダーをちらりと見た。が、言葉をかけることはない。

 ゼラが続ける。


「フツリ王女殿下が即位のために動いています。今回のことは箝口令を敷いても城の中には知れ渡るでしょうが、民衆に知られることはないかと」

「……招いた敵国の治癒士が自国の王を殺すだなんて、恥ずかしくて恥ずかしくて口に出せないだろうよ。それで、どうやってあの国を出てきた? こんな短時間で」

「暗殺後の現場に居合わせたので、その場で丸め込みました」

「混乱に乗じて?」

「ええ」

「兄であるリュゼ()を殺してくるから黙って繰り出せ、と?」

「そうです。あなたとの約束通り」


 ゼラが笑うと、ジオは遠くを見るような目で足元を見た。

 エルダーもその視線を辿る。

 


 ゼラは()()()()()から、一歩も離れていなかったのだ。



「うまくやったでしょう。褒めてください、兄さん」


 無邪気な弟のふりをして、ゼラは言い放った。

 馬車には沈黙が降りている。





     ○





 今思えば、エルダーが知っていることは少なかった。

 あのおぞましい父親から椅子を奪い、リュゼに座らせる。そのためにオーディルーに降伏しようと考えていることくらいだ。


 休息の洋館にゼラが追い払われてからは、ゼラの真意はエルダーの耳には中々入ってこなかった。


 フェーネも何も知らないと言う。


 ゼラから命令されることのないエルダーができることは、いつか起きる「何か」の時に備えるため、ゼラを裏切る者はいないか仲間のNo.をしつこく探ることくらいだった。おかげでとても嫌われたが、動きやすかったように思う。



 カーラから「王の愛人はNo.18である」と情報を貰えたことがきっかけで、エルダーは彼女を刺激して排除する動きに入るつもりだった。それが思いもよらない方向へ転がりだし、予測しようのない状態へ流れ、結果、最初の目的通りの場所に着地することとなった。が、都合がいいことが起きたわけではない。


 ただ単に、全員が我慢の限界だったのだ。


 誰かは王である父親の暴走に疲れていたし、誰かは愛する人をその手にしたかったし、簡単に言うと、誰もが状況を変えて幸せになりたかった。


 ゼラはそれぞれの心の隙間に入り込み、それぞれを手のひらの上に乗せた。


 カーラには、リュゼの愛を。

 リュゼには、父親からの解放を。

 ジオには、マツリカとの平穏を。

 マツリカには、ジオの自由を。


 そして両国に平和を。


 それぞれが欲しがっているものを渡すことを明示して、内乱を仕掛けることをカーラを使って王太子であるリュゼに飲ませたのだ。

 ただ、リュゼもカーラも知らない。

 その裏側で、ゼラが第四王子のジオとの間にも「約束」をしていたことを。


 ゼラは約束というものを不用意にはしない。

 けれど、ジオはそれに値する人間だった。


 ジードを介して手紙を出せば、すぐにプライベートが確保されている場所へと招き、隠しておくこともできた()()と共に、ゼラとエルダーを迎え入れたのだ。素顔でいた彼女は、穏やかに笑って「マツリカと申します」と丁寧に名乗った。

 ゼラが、ジオという兄を信頼した瞬間だった。



 ――王を廃したとして、次に座る方を、信頼できますか?



 ゼラは単刀直入にジオにそう問いかけた。

 気怠げに頬杖をついていた彼は驚くこともなく「無理」と即答した、

父に虐げられ、それを真似て治癒士に入れあげている兄には、国をまとめることはできない、と。



 ――では()ならどうです?



 ゼラの二つ目の問いに、ジオはまた即答した。一瞬も考えなかった。それが当然のように「俺もそれがいい思う」と言い、それまでマツリカの表情を見ていたジオは、ゼラとエルダーを初めて真っ直ぐに見た。


 協力してくれる。

 その目を見て、ジオ達は裏切らないとエルダーは確信したのだ。



 ――()から椅子を奪い、王太子(リュゼ)を国王にした後、オーディルーへ降伏し、その上でグレフィリアに戻って新王(リュゼ)から椅子を奪う――



 その場で語られた父親と長兄の殺害計画について、エルダーもジオも詳しく聞くことはなかった。


 ゼラが可能というのなら、たとえ敵国のオーディルーに行ったとしても可能にする手段を持っているのだろうとエルダーは思い、ジオはジオで「そこには関知しないが、助けが必要なときは必ず助ける」とだけをゼラに伝えたからだ。

 ゼラの目的はシンプルだった。



 グレフィリアは、第二王子であるラスの手にあるべきだ、と。



 そのために動くという真意だけを知っていれば、他のことを聞かずとも不安はなかった。


 オーディルーに渡り、イトセを知るまでは。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ