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ひきこもりからの、はじめての就職

 

 1

「今度だけはゆるしてやる」

 きびしそうな人だと思っていた店長に、はやくも叱責された。

 生れて初めてのアルバイトの初日。

 入荷した商品を、納品書で確認することなく、僕は店頭陳列してしまったのだった。

 ひきこもり少年だった僕は、意を決して働き始めたのだ。父が死に、母が倒れたから。8年ぶりに部屋から出た。高校を卒業して6年が経とうとしていた。


 市内のショッピングモールのおもちゃ屋で、僕は働き始めた。玩具店、優しい職場だと思った。

 ところが幻想は初日で吹っ飛んだ。

 店長は市場と子供の好みの動向を知るために、『楽しい幼稚園』、『項コース』、『アニメージュ』まで自腹で買って研究している人だったし、他の従業員も、反面協調、反面ライバルで、副店長目指してしのぎを削っていた。


 (これが、社会なのか? おもちゃ屋でも、こんなにきびしいのか?)

 店でパニックを起こした。

 店長が来て、

「もう帰っていい」

 と言った。


 2

 当然、社内の人間関係は悪くなっていった。

「Ǹさん。もうレジに入らないでくださいよ」

 弟や妹ほども違う正社員にきつく当たられるようになって、僕はだんだん萎縮していった。

(僕は、社会で通用しないのかもしれない……)

 すると、自分の表情が気になりだした。

(こんな僕は、きっと嫌な目つきをしているに違いない。僕は、まわりを不快にしているに違いない)

 正社員たちが巨大に見えて来た。社会人と言うものjは、巨大な動物で、僕は非力なハエ。到底太刀打ちできない。みんなと恐ろしくて会話不能になった。


 3

 そんなある日、店長が飲みにつれていってくれた。

 そして、ものすごく優しい笑顔で、

「君、働くの向いていないんじゃない?」

 と言った。


 ……次の日、辞表を出した。


 4

 それ以来、人間と社会に対する恐怖が刷り込まれたようで、限られた人間としか会話不能に、僕はなってしまった。

 そして、20年が過ぎた。

 引きこもりが過去のことになり、家庭を持った今でも、こころのどこかで人がこわい自分がいる。


(終)



最期まで読んでくださってありがとうございます。

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