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オール・ライト 〜冒険者たちときっかけの女神〜  作者: 加藤貴敏


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9/18

「幸せになる魔法」

カフェのテラス席。オリヴィアはスマホに夢中なので、つむぎはちょっと退屈だった。ふと改めて考えた。故郷の港町は長閑で、静かで、人が優しかった。でも都会の人達はみんな何だか忙しそう。何だか眠たくなってきた。

「・・・つむぎ・・・つむぎ」

ウトウトしていたつむぎはハッとした。

「見てみて、これなんか気にならない?」

そうオリヴィアがスマホを見せてきた。

「幸せになる魔法だって」

「そんなのあるんだ」

「分かんないけど、あったらいいよね」

「さっきの人達にも教えてあげたら良かったかな」

「さっきの冒険者の人達?でも5大万能薬の話の方が必要だったんじゃないかな」

ふとつむぎとオリヴィアは顔を向けた。1人の男が近付いてきたから。男は見るからに憔悴していて、金目のものを見るような目でつむぎを見ていた。

「め・・・女神、ですよね」

「そうだよ?何か困りごと?」

猫がそう聞けば、男はいきなり膝を落とした。女神になってからというもの、こういう人が何人も近付いてきた。だから今更驚かない。話を聞いてあげると、人生に詰んだという。転生する金もない、冒険に行くにも武器も仲間もないという。

「本当は、そんなことないはずですよ?」

「え?」

「必ず道はあるはずです。問題なのは、目の前が見えなくなっているということです」

「いや、でも・・・」

「あ、ねえ幸せになる魔法は?」

「あ、あれね」

猫と女性がそんなことを言うものだから、男は目を見開いた。

「そんなものがあるんですか!」

「分かんない」

「え?」

「これです」

オリヴィアはスマホを男に見せてあげた。男は固まった。冷静なパニックというものだ。女性が見せてきたのは、ただのブログ。そのタイトルが「幸せになる魔法」。これはボケなのか、試練なのか。男は固まっていた。



第9話「幸せになる魔法」



「これは、ブログ、ですけど」

「ブログってなんですか?」

「・・・え?あの・・・」

どう答えるかによって、幸せになる魔法が授けられるのか。試練なのか。

「これは、日記です」

すると女神の使いなのだろう女性はスマホを見て、感心するように頷いた。

「へぇ~。日記もかけるんだ、ネットってすごいなぁ」

合格なのか。男は、カフェのテラス席の地べたに正座しながら生唾を飲む。

「日記に書いてあるのかなぁ。幸せになる魔法」

「あっそうかも」

男は思った。多分違うと。でも口答えしたら、きっと不合格だ。

「あの、ブログを書いてる人に、聞いてみたらいいんじゃないですか?ブログの最後に普通、アカウントがあるし」

「・・・あ、ほんとだ、このマーク、いつもウツセミさんがやってるやつ。これで話せるんだっけ」

オリヴィアがスマホで何かをやってる最中、つむぎは何となく男を見る。

「あなたはどうしてそんなに不安そうなの?」

椅子にお座りしている猫からの唐突な質問に、男はまた固まった。つまり合格なのか。

「・・・オレ、借金があって。勝てるはずだったのに、ギャンブルで負けて。それでついこの前、バーで初めて会った優しいおっさんに、借金肩代わりしてもらって、だからちゃんと金作らないとって思って。ギャンブルに勝てば返せるから。でも何故か負けちゃって。それでもう本当に金も無くなって、死ぬしかないって思って」

「ふーん」

ギャンブルが何かは知らないが、つむぎはふと思い出した。それは港町に居る時のこと、とある女の子は学校の部活で、ずっと試合に負けてると言っていた。でも落ち込んでいる訳じゃなく、会う度に、また負けちゃった、でもまだ終わってないと言っていた。

「あなたも、ずっと戦ってるんだね」

「え?」

「負けても終わってない。それってまだずっと戦ってるってことでしょ?」

男は下を向いた。まだ終わってない。まだ戦ってるだけ。そしてハッとした。

「そ、そうですよね、まだ、負けてない・・・あいやでも、実際、もう金が無くて、どうしようもないんです」

「冒険すればいいじゃん」

「それは、そうですけど、その、正直儲からないっていうか、オレ、コツコツ稼ぐのは無理だし。1人じゃ危ないし」

「誰かと一緒に行けばいいじゃん」

「でも、知らない人と冒険とか、気まずいし」

「猫だってすぐ友達出来るんだから、人間だって出来るよ」

「いやあ・・・んー」

「こんにちは!女神様!」

「ん?こんにちは」

「すごい。本物の女神様。私めっちゃツイてる」

ズカズカとやって来たのは、1人の女性。でも全然元気で、困っているようには見えない。でもそういう人も沢山近付いてくるし、つむぎにとっては慣れたもの。

「まさか女神様から話しかけてくれるなんて、私絶対前世でいいことしたじゃん」

話しかけた覚えはないつむぎはオリヴィアの顔色を伺う。

「この人だよ。幸せになる魔法を書いてる人、SNSで話しかけたら、すぐ来てくれた」

「私はペロ、冒険しながらフリーライターやってるの。それで何が聞きたいの?」

「ちょうど良かった。この人に、幸せになる魔法教えてあげてよ。お金が無くて死ぬしかないって」

「え?・・・はい?」

人生に詰んだ男の話をしたら、ペロは戸惑うように呆れて笑った。

「いや、ただのアホじゃん。え、てか、それって冒険詐欺だよね?」

「えっ・・・と、その」

「バカじゃないの?人騙して借金押し付けて、おまけにギャンブル依存とか」

「ギャンブルって?」

「女神様はそんなこと覚えなくていいの。とにかくこいつはクズよ。助ける価値なんかないわ」

どうやら自覚はしているようですっかりと肩を落とす男。でもそんな様子がつむぎには可哀想に思えた。

「でも、放っておけない。死んじゃったらお金返せないし、それにまだ戦ってる途中だし。だから幸せになる魔法教えてあげたらいいなと思って」

つむぎのつぶらな瞳は、思わず抱きしめたくなるものだった。

「・・・女神様、健気で可愛すぎる。あ、あの・・・でも、幸せになる魔法なんて、ないし」

「え、ないの?」

「そりゃそうでしょ。そんなものがあったらみんなやってる」

「そうですよね」

「私は、そういうのは気持ちの問題だと思う。幸せなんて人それぞれ。だから幸せになるのに魔法なんて要らない。それがブログのタイトルの意味なの。ちょっとしたきっかけで幸せなんて簡単に感じられる。私はそういうことを沢山書いていきたい」

「ふーん、そっか。じゃあやっぱり冒険しかないんじゃない?」

「冒険かぁ・・・」

「女神様が言うんだから、そうした方がいいんじゃない?死ぬよりマシよ」

「でも仲間居ないし」

「コミュカフェ行きなさいよ」

「人見知りで」

「はあ?・・・まったくだらしない、女も男も関係なく冒険に出るっていうのに・・・あっ!女神様、私、すごくいい事思いついた」

「どんな?」

それから1時間後。門前大広場にて。そこに30人の男女が集まった。年齢も性別も関係ない。冒険者チームのメンバー募集に集まった人達。でもそれだけじゃない。とある企業の人間も居るし、取材陣も居た。つむぎ達がやって来ると、拍手が起きた。

「まさか女神様が冒険者チームをプロデュースされるなんて、新しい時代の突入です。この可愛らしい猫の女神様は、困っている人達を助ける為、生活困窮者の為の冒険者チームを作られました。その理念と共に、SNSで募集がかけられると、なんとこれほどの人数が集まりました。これは冒険者チームの規模としても社会貢献に期待が出来ますね。では女神様、チーム名を教えて下さい」

つむぎがふと思い出したのは、港町で話したことのある野球少年。

「えっと・・・つむぎストライカーズ」

拍手が起きた。カメラの前でリポーターも野球チームみたいだと褒めちぎるもんだから、つむぎも気分が良くなった。ハイネティスの女神が冒険者チームを作るとなれば、企業も放っておかない。3社のスポンサーがついて、チームは30人。これはチームとしては中規模。

「つむぎー」

「ん?あ、この前の、えっと、レナ」

「そう!覚えててくれたんだ。まさかつむぎがチーム作るなんて。だからすっ飛んできた」

「そうなんだ。無理しないでね」

「うん、大丈夫。ファンから貰ったよく分かんない武器あるし」

人生の再起をかける。そんな時に、冒険がある。そんな一言から始まる、つむぎストライカーズの紹介ムービー。再生数は好調だ。それから5時間で帰還したチームは、ボロ負けだった。成果はレベル2相当のマテリアルと、その辺の草とか石とか。でも誰も死んでない。つむぎにとってはそれで良かった。公園で過ごしていたつむぎとオリヴィアの下に戻って来たのは、ペロ。彼女は記事のネタ探しとして参加していた。

「いやあ参ったよ。腰抜けばっかり。3分の2以上が使い物にならなくて。レベル3にみんなびびって逃げちゃうし。まぁでも仕方ないよ。みんな初心者だし、寄せ集めだし、結局は借金持ちだのニートだのが集まっただけだったし」

「あの男の人は?」

「知らない。早い段階で居なくなってた」

「そっか」

「でも安心して?チームは継続だよ?まぁオーディションみたいなもんだったんだよ。残ったのは私入れて8人。実質、これから本格始動って感じ。それでさ、その内の1人がアイドルのレナでさ。ちょっとファンだったから超嬉しくて」

その日の夜。ペット可のホテルに泊まっているつむぎ達は、ウツセミとビデオ通話。

「そうですか。8人に。でも期待は出来ますね。冒険者の方々と親密になれば未知の病気についての情報が集まりやすくなる。つむぎストライカーズの皆さんが強くなれば、それはそのままダークエリア探索の足となりますから。とても良いアイデアですね」

「でも心配だな。居なくなった人達」

「そうですね。いきなり冒険というのは少々強引でしたかも知れません。世の中には、冒険を勉強する為の場所が沢山ありますから」

「冒険かぁ。ねえ、猫も冒険していいのかな」

「それは勿論、冒険は誰にだって出来ることです。冒険に興味があるんですか?」

「んー。まだ分かんない」

翌朝。つむぎ達がホテルを出るとすぐ1人の男性が待っていた。30代くらいの、何だか落ち着いた雰囲気の人。

「つむぎ様、おはようございます。ご挨拶が遅れてすみません。この度、つむぎストライカーズのリーダーを務めることになりました。カグラです」

「そうなんだ、よろしくね」

「先ず最初に伝えたいことがありまして、チーム一同、つむぎ様には感謝しています。自分も、将来やりたいことも特になくて、このままでいいんかって何となく悩んどって、それでたまたまSNSで募集を見て、頑張ってみようって。チームはそういう人ばっかりで逆に馬が合うっていうか。でもって、やっぱりみんなつむぎ様に会いたいって言ってるので、ぜひお食事会をやりたいってことになりました」

「いいね。行きたい」

ではまたお昼に。そんな約束をしてからのんびり公園にでも行こうと歩き出した時、また1人の男性がやってきた。でもその人は、見覚えのある人だった。

「女神様・・・」

つむぎに会った途端、ガクッと膝を落として、泣き出した。

「オレ・・・オレ・・・ほんと、クズで」

その男性は昨日の詰み男だった。

「怪我無くて良かったよ。大丈夫だった?」

「せっかくチーム作って貰ったのに、オレほんとダメだ。マテリアル見た途端、怖くなって」

「そっか。怖い思いさせちゃったんだ、ごめん」

「いやいや!悪いのはオレだ。女神様は悪くない。本当は嬉しかったんだ。冒険に行けるって。でも死にたくないし、怪我も怖いし、武器を持ったら急に不安になって。そんなんじゃダメだって分かってるけど、気が付いたら、逃げてた。本当に、自分で自分が悔しい」

「大丈夫」

ボロ泣きしている詰み男の膝に、つむぎは前足をちょんっと乗せる。

「まだ終わってないよ」

つむぎストライカーズのお食事会の会場はとあるオシャレなカフェの屋上。つむぎ達がやって来ると、みんなにこやかに挨拶してくれた。ペロが言うには、レナはスケジュールが合わなかったらしい。そしてカグラは、小動物みたいに縮こまっている詰み男も優しく受け入れた。

「実はさ、さっきも、つむぎストライカーズのアカウントに、もう一度チャンスが欲しいっていう連絡が何人かから来ててさ。これからまたちょくちょく誰かしら戻ってくるかも知れないんだよ。それにここは、強制参加じゃない。冒険によって人数もバラバラでいいし、このクエストに行きたい人集まれみたいなスタンスでやっていこうって思ってる。まぁ報酬は冒険に出た人で分けるけど、在籍だけでもいい。だから、あんたはあんたのペースでいいんだ」

それから乾杯の時間になる頃にはまた何人かやって来ていた。一度は逃げてしまった人が、落ち込んだようにやって来る度、カグラが落ち着いて話を聞いていた。

「別にマテリアルを狩るだけが冒険じゃない。企業が必要としている素材を採集してくるだけでも立派な冒険だと思う。最初はそういうのから始めればいい」

カグラがそんなチーム理念を話している一方で、つむぎの周りでは撮影会が始まっていた。きっとつむぎの待ち受け画面にはパワーがある。女子たちがそんな話をし始めたから。

「ペロさん、良い記事書けそう?」

「うん。ここに来てよかった。さすがきっかけの女神だね。で、オリヴィアは冒険行かないの?」

「私は、ただのお手伝いだし。つむぎのそばに居ないとだから」

「そっか」

お腹も満たされたとなれば、早速冒険だ。そうカグラがマテリアル討伐クエストを選べば何人か集まり、大学で植物学を専攻している女子大生キョウカが採集クエストに行きたいと言えばまた何人かが集まった。

「みんな、怪我しないでね」

皆を見送った後、つむぎ達はとある”場所探し”に出かけた。それはカグラに頼まれたこと。大きなチームには必ずついてくるもの、それはチーム専用の集合場所。ウツセミにも手伝ってもらって、スポンサー企業に相談したところ、すぐに大型レンタルルームを手配してくれた。まるで大型シェアハウスみたいなリラックス空間。次からはそこがつむぎストライカーズの集合場所だ。つむぎは何だか心が躍った。何故ならキャットタワーとかいうものがあるらしいから。

その日の夜。ヘイゼルは行きつけのバーに向かった。妻のハリヤはまだ許してくれないので家には入れないが、バーには行ける。

「いらっしゃい。おうヘイゼル。ちょうどいい所に。あんたに荷物が届いてる」

「え?いつから郵便局になったんだ?」

「いやそれが、前にここで一緒に酒飲んだおっさんにどうしても渡してほしいって。ほらあいつ、借金してるから冒険に行くとか言ってた」

ヘイゼルは目を見開いた。俺に借金押し付けて消えやがった若造。そいつから荷物?・・・。

とりあえずいつものカウンター席に座り、宛名も送り人の名前もないただの紙袋を開く。そこに入っていた2万と3000ティアだった。何の金額だと思いながら、紙切れを取ってみる。

「おっさん、まじで悪かった。オレは本当にクズで、借金を押し付けた。でもちゃんと冒険には行ってる。少しだけど返すよ」

ヘイゼルは笑い出した。まだ飲んでないのにと、マスターは気味悪がる。

「ほらな?やっぱり良い奴じゃねえか」

読んで頂きありがとうございました。

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