「一流への道」
「いやぁ今回も大躍進ですね、ストームズの皆さん。レベル9相当マテリアル、ビフォーコストス亜種の狩猟を成し遂げたなんて。どんな風に攻略をしたんですか?」
「通常は、海辺に生息するマテリアルなんですけど、その海辺から近くの森林に適応した個体で、甲羅も全体的に小さくなる代わりに俊敏で獰猛でしたが、今回は生物的弱点を攻めました」
「と言いますと」
「例えば脳がある生物は、それが破壊されたら死にます。ビフォーコストスは、人によっては武器である甲羅を破壊したり、爪を破壊したり、その生物の特徴的なところを攻めて倒したりしますけど、オレ達は基本的にはどんな時も、原始的な弱点を狙って素早く仕留めるっていうやり方なので」
「さすが期待の新星ですね」
ニュークス達はとあるカフェの3階にいた。そこは10人くらいが入れる個室になってる、冒険者たちには重宝される、注文の出来る作戦会議室。ちなみにカラオケはない。ケインはスマホを見ていた。受けた取材の出来栄えを確認していた。「週刊冒険オンライン」のネット記事。
そんな時だった、同じくスマホを見ていたリリアは飛び上がる勢いで驚いた。
「す、スポンサーになってくれるって、企業からメール来た」
「まじか!」
「しかも2社」
「うおおっすげえ!」
テンション爆上がりのケインと、控えめだけど嬉しがるリリアとニュークス。そんな若者たちを優しく見守る大人なジャックスとベルナ。
「どんな企業だ」
いつも冷静だけど、嬉しいに決まってるジャックスが聞けば、リリアはメールを確認する。貼り付けてあるURLもクリックしてみる。
「フラッターズと、ネオン・ハインって会社。フラッターズは依頼に応えてよく素材の納品してるし、認めてくれたんだ。ネオン・ハインは初めて聞くけど。釣り具の専門企業なんだ」
冒険者チームの認知度向上のルートとして一番確実なのは、スポンサーがつくということ。企業というのはよくネットで素材の納品募集をしている。企業にとっては、誰であっても確実に素材を納品してくれるならそれでいい。でもそうやって実績を積んでいけば、常連となって顔見知りになる。つまりはフリーのお得意先みたいなもの。そして企業は、実績があるチームには継続的に素材納品をしてほしいと思うもの。そこでスポンサー契約をすることで、専属だったり優先での素材納品の契約が生まれる。もちろんスポンサーになったからには、企業は冒険者の為に、武器や装備の調達費用を手助けする。
第16話「一流への道」
「フラッターズは決まりとして、もう1つはどうする?」
「オレ、釣りとかやらないしな。待つの無理だし」
ケインはそうだろうと、みんなが頷く。ふとニュークスは考えた。釣り具、貰えるのかな?ちょっとやってみたいかもと。
「釣り具ってことは、大体海のマテリアルの素材を中心に扱うんだろう。海系の素材の依頼が増えるだろうな」
「でも、遊び道具だろ?武器の企業じゃない。そんなに強い奴と戦うような依頼はしてこなさそうだ」
「まぁな。確かに、チームの成長を考えると、レベルの低い依頼しかしてこないのはミスマッチだな。レベルの高い依頼が出来る企業はつまり、レベルの高いマテリアルの知識やその素材の知識があるんだ。強い武器や装備を作れるコネもあるだろうな」
大人達の熟考に、ニュークス達はなるほどと冷静になる。
「じゃあ、フラッターズだけにする?」
「スポンサーじゃなくたって依頼は受けれるんだ。フリーでもいいだろうな」
とりあえずお昼ご飯も頼むことにしたニュークス達。この前のレベル9相当のマテリアルを狩猟したことで、武器と装備も新調した。だから今日の会議のお題はもちろん次の標的はどうするか。
「んーっ」
カフェで一番女性に人気のメニュー「ふわふわチキンとお肌すべすべサラダ」を食べながら、リリアはスマホ片手に声を上げた。
「やっぱりオレは、レベル10はいきたい」
「ねえニュー。このバッグ可愛い」
ケインの話を簡単に蹴飛ばしながら、リリアはスマホをニュークスに押し付ける。
「アリーチェの新作バッグ。深海をイメージした感じすごくない?」
ニュークスがリーダーになってから、ニュークスとリリアは付き合っていた。でも問題はそのことじゃなく、何となくケインが邪険にされる頻度が高くなったことだ。
「おーいー、バッグなんか後にしろよ」
「スポンサーが出来たんだし、お祝い。ケインもそうすればいいじゃん」
「お祝いかぁ。確かにな」
結局ニュークスとケインとリリアは幼馴染で仲良し。大人の2人にとっては3人のやり取りが面白い。ニュークスはまじまじとアリーチェの新作バッグを見つめる。青と赤の2色使い。決して交じり合うことのない青と赤。深海と火山。
「なぁ、深海チャレンジ、してみない?」
深海チャレンジ。それは冒険者の中でもよっぽど自信のある者しかやらない、超高難度の冒険。人間にとって、海中というだけで呼吸も出来なければ力も出ないし、色んな武器が制限される。しかも深海ともなれば、視界の良いキレイな海を素潜りして貝でも捕るような話ではない。
ニュークスの発言に、場は凍りついた。一瞬だけ。
「いいじゃん。やろうぜ」
快諾するケイン。反対する者はいなかった。となれば目的は決まったようなもんだ。そう独りでにベルナは微笑んだ。
潜水艦に乗ってガラス越しに深海を眺めるようなただの旅行ではない。これはチャレンジだ。深海といえば、冒険者はすぐにあることを思いつく。
「嬉しいね。ここまで上り詰めたんだな」
そうベルナはローストチキンレッグを豪快にガブッといく。そうなれば生死を分けるのは準備に他ならない。ニュークスはスマホで深海チャレンジと検索した。
「酸素管理は絶対だな。あと体温管理。そして筋肉と抵抗の管理」
初めての深海チャレンジを決めたストームズはそれから”深海装備専門店”を訪れた。店に入って早々、絶対強そうな冒険者が何人もうろついていて、装備を吟味していた。ふとリリアが見たのは、Sランク魔法使いの証であるペンダントをぶら下げた女性。まるでふらっと買い物に来たようにこんな店をうろついている。何故か緊張してしまった。
海中で必要な酸素。それをいかに絶やさないか、その為の装備として代表的なものが”海水を取り込んで、水と酸素に分解する”という「エアメーカー」。カートリッジ式になっていて、最新式の重量は約800グラムほど。戦っていても重さはほぼ感じない。
とはいえ体が冷えると、酸素があっても身体能力は激減する。そんな時に必要なウェットスーツがある。ただ着ているだけで、体温が36度をキープする。その名も「テンパーチャーキーパー」。たとえ水温3度の冷たい海中でも、体温がずっとキープされる。
酸素も体温も筋肉も維持出来る技術が揃っている現代で、未だ人類が克服出来ていないものがある。それは水圧と抵抗。水圧で潰れないためには、結局のところ鋼鉄を身に纏うしかない。鋼鉄レベルのウェットスーツはある。しかし潰れなくなったとして、周囲は海水に満ちている。そもそもボクシング選手ですら、パンチで小魚一匹倒せない。それが水中での人間の力。
でも人間には魔法がある。科学で到達できない領域には、魔法でいけばいい。自分自身を魔法の防壁で囲めば、まるで風船の中に入りながら水中にいるようになる。
店内をぶらぶらしているとニュークスが男性に声をかけられた。
「まさか、ストームズだよな?」
「はい」
「おー、ついに深海に行くのか」
もっさもさのあご髭の、いかにもサーファーのような日焼けしたおじさん、エシデ。ダークエリアの時は大変だったなとか、この前はすごいマテリアル狩ったんだなとか、つまりストームズのファンだった。おすすめの装備も教えてくれた。
「ところで、嬢ちゃん、ランクは?」
「この前、やっとAになりました」
「そうか。それで深海チャレンジするってこたぁ、なかなか度胸がある。けど、深海チャレンジの肝は魔法にある。深海で動けるようになる魔法を知ってなけりゃ、無理だぞ」
「こんなに良い装備があるのに?」
「まぁ、エアメーカーやテンパーチャーキーパーなんざ、結局のところ最低限死なない為のもんだ。戦うことを考えたら、魔法は必須だ」
「えー、私、全然知らないんですけど、どうしよう」
エシデは自慢のあご髭をさすりながらゆっくりと頷く。まるですべてを見通す仙人みたいだ。
「お前達には期待してる。特別に良い奴を紹介してやろう」
活躍を期待してくれてるファンのおじさんからの紹介で、ニュークス達はとある海岸にやってきた。ワープポートがあるスメベリー海岸。そこから更に、海を渡った先にある、観光ブックには載っていない、静かでキレイな小島の海岸だった。でもサーファーがいた。大きな波を華麗に乗りこなす、美しい女性だった。そして砂浜には、1匹のマテリアルがいた。
「何しに来たんだ?」
砂浜で声をかけてきたのはそのマテリアル。種族名はマリン・エクスリーバー。つまり、犬だ。海の活動に特化した大型犬種。尻尾は尾びれとなっていて、潜水能力はイルカと同等。
「エシデさんに紹介してもらったんだ。ここに来れば、マーメイドクイーンに会えるって」
「もしかしてあの人?」
「あぁ。呼んでくる」
スタスタと歩いていく犬。そして波打ち際でワンと吠えた。すぐにサーファーの女性が海から上がってきた。とてもスタイルの良い、美しい女性。それもそのはず、マーメイドクイーンと呼ばれる、現在42位のSランク魔法使い、リバナは超人気のファッションモデルで、サーファーの大会でもいくつも金メダルを取っている。ボードを小脇に抱え、金髪をかき上げるだけで、そこら辺の男はみな釘付け。
「師匠の紹介って珍しいね、冒険者?」
「師匠!?あのおっさんが」
「そうです。ストームズっていいます。これから、初めて深海チャレンジしようと思ってて」
ニュークスが丁寧に挨拶すればリバナは頷き、リリアのペンダントを目に留める。
「え、魔法使い、1人だけ?」
「はい。基本的に、俺らはリリにエンチャントして貰って戦うんで」
「ふーん」
「あ、り、リリアです」
めちゃくちゃ緊張してるリリアに、ケインはちょっと驚く。有名なSランク魔法使いは、ほぼみな芸能活動をしている。強くてこんなにも美人なら、そりゃあ世間は放っておく訳がない。
「ストームズかぁ、一回師匠から聞いたことあるよ。期待の新人なんだって?」
「いやあ、どうですかね」
「なぁ、さっきから師匠って、あのエシデのおっさん、そんなに強いのか?」
ケインのタメ口に、リリアはちょっとムッとする。
「いや、エシデさんは、サーファーの師匠なんだよ」
「ああそうなんだ」
「あたしは、小さい頃から海と冒険が好きでさ。サーフィンも、魔法も極めたいんだ」
「じゃあ深海チャレンジも何度も?」
「もちろん。それで、目標は?」
「そりゃあ、あいつしかいないよ。深海の守護神ディアンヴァルゼ」
「うん。んー、そうだな。師匠のお気に入りのチームだし、特別にあたしの魔法のレシピ教えてあげてもいいけど、その前に腕試しさせてよ。本当にディアンヴァルゼに挑めるチームなのか、テストしてあげる。スメベリーに、有名な海底洞窟があるの知ってる?」
「いえ」
「ここいらの冒険者の間では、腕試しに使う狩場として有名なんだけど、そこにはレベル9のヌシがいるの。そいつの全体納品が出来たら、テストはパスね」
「分かりました」
「じゃあクエスト出すね」
個人間の依頼で簡単なのがQRコードを使った依頼。相手にスマホでコードを読んでもらうだけで、依頼と受注の契約が結べる。そこから調べたりするのは自力で。そうしてまたリバナは海へと向かっていった。気さくな雰囲気と美しすぎる笑顔に、リリアはうっとりしていた。
「こいつか、洞窟の主、アンスケイラ。鋼の外皮を持った、巨大な爬虫類。確かに、体型はディアンヴァルゼそっくりだな」
「深海の前に、洞窟か、楽しみだ」
「最短ルートは?」
「洞窟の中に、広場とワープポートがある。そこから行こう」
世界は広い。標的を決めて、その標的だけに向かっていっても思わぬ敵に出くわすことなんて、当然にある。そういう不測の事態に対処出来なければ、冒険なんて出来っこない。このクエストだってそうだ。標的の為の越えるべき障害物。
ワープポートがニュークス達を吐き出した。その広場全体は電気も通っていて、ベンチもある。冒険者の為の休憩スペースだ。何組かのチームがいて、ストームズに注目が集まった。
「おう、有名人」
見知らぬ冒険者に明るく声をかけられて、ニュークスは軽く会釈。スメベリー海底洞窟のルートはいくつもある。初心者コースから上級者コースまで。早速ニュークス達は上級者コースへ。魔法で明かりを灯すリリア。それから慣れた手つきで”エンチャント”という魔法を全員に施す。
「よし。行こう」
総延長は25キロほどで、無数の分かれ道がある、迷宮洞窟。そんなスメベリー海底洞窟は何百年も冒険者に使われ、歩きやすいし戦いやすい環境になっている。洞窟らしいひんやりとした空気が、リラックスと緊張感を募らせる。
ニュークス達に、不安はなかった。それから歩いて30分くらいした頃だった、レベル7相当の甲殻類、ガナウスが向こうからやってきたのは。2メートルの巨大なヤドカリ。しかしそこに、戦いは起こらなかった。脇道に逸れて静かに逃げていくガナウスを見送ったニュークス達は、次にレベル8相当のメガラナと出くわした。このワニは凶暴で、運悪くお腹が空いていたらしい。ニュークス達に襲い掛かってきた。
「あたしがやる」
「やさしくな」
小さな光から取り出したベルナの武器、それは籠手だった。そう、ベルナは生粋のハードパンチャー。格闘専門の冒険者。巨大なヤドカリなんて簡単にかみ砕く、巨大なワニの突進。ベルナは身構えて、精神を研ぎ澄ませる。人間なんて丸呑みするほどの大きな口。一瞬の狙いを定めて、ベルナはメガラナの鼻先に拳を叩き込んだ。
「ウォーミングアップにもならない」
運が悪かったのはメガラナの方だった。素材の報酬は悪くないので、食料と、納品の為の素材確保として、ニュークス達は気絶したメガラナを仕留めた。
それからストームズはスメベリー海底洞窟の最下部へとやってきた。棚田のように段々と形成された水たまりが美しい、広大な鍾乳洞空間だった。
「わぁ、キレイ」
リリアはスマホでパシャリ。照明魔法に照らされて、きらきらと神秘的に輝くその美しい空間は冒険者でないと味わえない貴重なもの。以前の自分だったら、戦うことしか考えてなかった。でもニュークスは今、冒険を楽しむことをしっかりと実感していた。
「リリ、あとで写真送って」
「うん!」
別に写真に興味はないケインは、ふと大きな水たまりの中に生える水草、そしてのんびりと泳ぐ魚を見下ろした。
「キレイすぎないか?戦闘の形跡がまるでない」
「あぁ。ヌシはもっと奥だろう」
ニュークス達は一斉に振り返った。奥の方から、何かの呻き声のようなものが聞こえてきた。
読んで頂きありがとうございました。




