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オール・ライト 〜冒険者たちときっかけの女神〜  作者: 加藤貴敏


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10/17

「進軍」

竜族と人間の間に生まれた人の事を、混血という。生まれつき体が強靭で、魔法のセンスがいい。でもタケミチは幼少期から浮いていた。周りに同じ人が居なかったこともあってか、少し気味悪がられたり、奇妙な目で見られたり。でもタケミチが浮いていた本当の理由は混血だからではない。自分を曲げられない性格だったからだ。

ダークエリアの研究は常に進められている。探索範囲も年々広がっていて、それはつまり毎年何らかの新種のマテリアルが発見されているという事。ダークエリア研究の歴史の上で、最も重要なことが1つある。それは進軍という事象について。大体50年に1度のペースでそれは起こる。研究者によって、それはマテリアルの大移動や、魔王の誕生などの見解があるが、分かっているのは進軍は災害だということ。ダークエリアのどこかで何かが起こったことで、ダークエリアのマテリアルがとても活発になり、人間の住む街に押し寄せてくる。とにかく沢山の死者が出る災害だ。

人間の歴史は、ダークエリアとの戦いの歴史と言ってもいい。生物としての生存本能で、とにかく戦い、自分達を守って来た。その為に作られた職業が、騎士である。

20歳の時、タケミチは騎士団に入団した。幼い頃、父親に褒められたことをきっかけに、騎士という夢を見てきた。体が強靭で魔法のセンスがいい。すぐに頭角を現し、そして浮き出した。何故なら、タケミチはよく副団長からの命令に背くからだ。

「何故勝手に行ったんだ!これで何度目だ!」

「でも行かなかったら、あの子は助かってなかった」

命令に背く理由の全てが、人助けだった。だから団長は大目に見てくれていたが、副団長は厳しかった。命令に背いたペナルティは連帯責任。野営パトロールの延長や、出るはずだった追加報酬のはく奪など。そのせいでタケミチは孤立していった。そして入団から2年後、辞表を出した。

「おいおい、辞めることはないだろ。お前は本当に優秀なんだ。異動して気分転換はどうだ?」

「いや。多分、同じことの繰り返しだと思います。その、もうやっていく自信が無いんです」

夢を諦めたタケミチは、ただ何となく街をぶらぶらしていた。何もやる気になれない。ただ歩いて、ただカフェに入った。テラス席。

「やあ、青年」

たまたま隣のテーブルに居たのは、女神のエマだった。



第10話「進軍」



「ひどい顔してるじゃないか、どうしたんだ」

「・・・つい昨日、騎士を辞めた。ずっと子供の頃からの夢だった。人を助けたり、護ったりしたくて。でも、俺は周りと違うから」

「違うって?」

「混血」

「あ~、確かに騎士にぴったりだ」

「俺は、ただ人を助けたい。でも、俺についてこれる奴が居ない。副団長は、俺を認めてくれない。命令に背く度にみんなに迷惑がかかるんだ。だから、辞めた」

「そうか。人間関係ってのは厄介だよな。なあ、騎士が夢なのか?それとも理想が夢なのか?」

「え?どういうこと?」

「人を助けたいってのが本音だろ?それは騎士じゃないと叶わないのか?」

確かに騎士は夢だった。でもやりたいようにやるだけなら、それを追いかけるなら騎士じゃなくてもいい。エマが去ったあと、タケミチは独りカフェラテを一口。少しだけ心が軽くなった。フリーランスの騎士、そんなものはないが、それでもいいのかも知れない。それからSNSでアカウントを作った。それは便利屋としてのものだ。


素材調達のフリーランス。Aランク魔法使いの実績あり。それだけの宣伝でも、案外依頼してくれる人はいる。今日も早速依頼をこなす為、やって来たのは待ち合わせの駅前ワープポート。待ち合わせの際、必ずお互いに自分の写真を送ることにしている。

「あんたが、ハイドウさん」

「あ、はい。こんにちは、よろしくお願いします。先ずは名刺、お渡ししますね」

「アルメックって、有名な防具ブランドの」

「はい、あ、ここでは何ですので、あそこで」

会社員のハイドウが指を差したのは、街の至る所に設置されているワーキングスペース。外見は透明の強化ガラスで作られたただの箱だが、半透明に切り替えるスイッチもあるし、防音機能もバッチリ。つまり、人に聞かれたくない重要な商談をするにはぴったり。

「実は、防具に使う新素材のサンプルが欲しくて」

「有名なチームには頼めないのか?」

「コンペがあるんです。何とか誰にも知られずに、研究したくて。もちろん弊社の専属チームにも頼めないんです」

「そうか。何が欲しい」

「リストです。絶対に情報は漏らさないで下さい」

「あぁ」

リストに書かれているのは、レベル4から6までのマテリアルの名前だった。

「随分とコストをかけるんだな」

「はい。確かに、今は戦えない人でも採取出来るような素材で、いかにコストダウンするかが主流です。しかしそれではいつかは限界が来る。自分は一足先に他社やライバルを出し抜きたいんです。危険なマテリアルの素材を使うのは、弊社でもあまり推奨されてないので。こういう形でしか頼めなくて」

「分かった。依頼を受ける」

「ありがとうございます。自分が欲しい部位以外はすべて報酬にして構いません。それで、もう1つお願いが」

「え?」

「その、長期契約になると思うんです。開発した防具のテスターもやってほしくて」

「あんた、まさか独立を考えてんのか?」

「あっ・・・ははは・・・その、もしこれで上手くいかなければ、どうせクビですから。それでも自分は、とにかく人の助けになりたいんです」

「・・・そうか、フッ」

「え?」

「いや、とても立派だと思う」

「早ければ、来年ですから」

「え?」

「進軍です。兆候が出るのが」

「あぁ、そうだな」

「とにかく、一刻も早く、良い防具を作りたいんです」

1日で終わるような依頼ではないのは稀だ。それでもタケミチにとっては脅威ではないマテリアルなので、問題はなかった。そしてその日の内に狩ってきたドルテグアンの素材を渡そうと、タケミチは指定された場所へ。そこはレンタルルーム。

「今日はドルテグアンだ」

「おー、ありがとうございます」

他の依頼もこなしながらとなると、久し振りになかなか忙しさを感じていた。でもタケミチは充実していた。とにかく人を助けたい。そんな言葉を人から聞くのは初めてだったから。

翌日。今日の獲物はレベル5相当マテリアルの、ハインシーにしようと思ってたタケミチ。ハインシーは甲殻類で、海辺に生息する。外殻はとにかく固く、防具の素材の候補にはぴったり。しかしそこで問題が発生した。今の時期、ハインシーは繁殖期で、群れで活動している。そして群れには、必ずその天敵が狙うものだ。タケミチは少し考えた。ハインシーの天敵はレベル8相当マテリアル、その名はオイルイア。全長が10メートルの大型魚類。さすがに1人では危険。

「タケミチ!!」

街の路地で、バカでかい声で突然に叫ばれた。思わずビクッとする。でも振り返らずとも誰かは分かった。振り返ると、やはりエクレアだった。元同僚の女性騎士。

「やっと捕まえた」

「今、忙しい」

「ううん。人生で1番大事な話」

タケミチは呆れて失笑する。騎士時代、数少ない友達だった。だから仕方なくカフェへ。席について早々、エクレアは真剣な眼差しを見せた。

「騎士に戻ってほしい」

「え・・・いや、悪い、もう戻らない」

「実は、アサイ副団長、戦死したんだ」

「え・・・」

「今なら戻れる。もうタケミチを目の敵にする人はいない」

「でも・・・」

「進軍も近いし、騎士団も団員が増えたよ。それでもタケミチみたいな強い人には、やっぱり居て欲しいから」

「・・・俺、今に満足してる。子供の頃は騎士が夢だった。でも今は、これが理想だ。俺のやり方で人の助けになれてる。だから、悪い」

エクレアはアイスハニーカフェラテをがぶ飲みした。Lサイズを飲み干すんじゃないかという勢いで、一気に半分も飲んだ。

「そ。分かった。じゃああたしも騎士辞める」

「はあ?」

「あたしも手伝う。だから付き合って」

「・・・つき、え?」

「ずっと好きだった。でも副団長は団内恋愛禁止だっていうし。でもタケミチが騎士に戻らないなら。あたしがタケミチのところに行く。それで付き合う」

「・・・ちょっと待て」

「言ったでしょ。人生で1番大事な話だって。言っとくけど、あたし結婚前提じゃなきゃ付き合わないから」

「ちょっと待てって」

「・・・本当はね、みんな、副団長が嫌いだったんだよ。タケミチにだけ当たるし、連帯責任なんて全然苦じゃなかった。だって騎士として当然のことをしたんだから。そもそも団長が認めてるんだからタケミチは悪くない。あたしにとって、タケミチは・・・タケミチが理想の騎士だった。でも根本的に実力が違い過ぎて全然追いつけなくて。あたし、いやあたしだけじゃない、エイジもロンもみんなタケミチが目標だった」

「そんな話、聞いたことない」

「うん、まぁみんな不器用だからね。ちょっと嫉妬というか?でも内心、すごいって思ってる。ていうか、便利屋、1人なんでしょ?チーム作ろうよ。ついでに恋人として、じゃなかった、恋人になって、ついでにチーム作ろ」

「なんでだよ」

「今の時代、チームだよ?本当に1人でやっていけると思ってるの?」

そう言われると、タケミチは返す言葉が無かったので、とりあえずアイスミルクティーを一口。

「・・・チームか」

「実はさ、あたしもう辞表出してるの」

「ほんといつも強引だよな」

「タケミチが騎士に戻るっていうならあたしの辞表は消えるけど、もうそれはないからね。あたし、見捨てられると困るの」

大きく溜息をついたものの、1人では厳しい依頼を抱えてるのは事実。ふと別れ際のエマの言葉を思い出した。諦めずに理想を追いかけていれば、必ず上手くいくようになる。

「・・・分かった」

「ほんと?やった」

にんまりと笑顔を見せたエクレア。タケミチは少しだけ、進軍に負けたような気分になった。

「あれよ?副団長は本当に戦死だからね?クーデターじゃないから、ほんとに」

「分かったって」

とりあえず今抱えている依頼を教えた。そして今日はハインシーにしようと思ってると告げると、エクレアは難色を示した。

「繫殖期だから確かに獲り放題か。でもリスクが大きい」

「俺だけならな。でもお前にハインシーを任せれば、オイルイアに集中出来る」

「1人で、レベル8?大丈夫?」

「ある程度の生態なら分かってる。1対1で戦えるなら全然いける」

「すご・・・分かった。でもね、実はもう1つ話があるんだ、ちょっと待ってね~」

ニヤニヤしながらスマホで何かをし始めたエクレア。

「すぐ来るから」

「誰が?」

「お楽しみ」

少しだけ不安になりながらも大人しく待っていると、それから2人がやって来た。タケミチはまさかといったように驚きを隠せなかった。エイジとロナウザー。そうしてここに、同期の騎士であり、タケミチの気の置けない者達が揃ったのだった。

「2人も騎士辞めるって」

「はあ?」

「騎士は嫌いじゃないけどな、結局、目標が居なくなって、士気が下がったのは事実なんだ」

「それにさ、団長だって言ってたぜ?お前は仲間思いだから、きっと寂しがってるって」

「別に、寂しがっては」

「ともあれだ。エクレアが戻ってこないなら、オレらもって、そういう手筈だったって訳」

「団長が、良いって?」

「新人も増えたしさ、こっちは気にすんなって」

「そうか」

口では言わないが、とても心強い。知らない奴と手を組むより100倍マシ。そうタケミチはアイスミルクティーを一口。エクレアが依頼内容を教えると、2人は感心する。

「お前、良い案件持ってんじゃん。正直、猫探しでもやってんのかと思ってたけど、これならはぐれ騎士団も安泰だな」

「はぐれ騎士団?」

「チーム名だろ」

「だっさ。何それ、あたし反対」

「えー」

「てかアカウント見たけど、あれでいいのか?」

「え?」

「元騎士くらい書いといたらもっと依頼来るだろ」

「・・・なんか、過去の栄光に縋ってるようで」

「マーケティング戦略も大事だろ。書けるもんは書いた方がいい」

「じゃあ、それはロンがやってくれ。俺、そういうの苦手だ」

「だろうな。しょうがない、チームのブランディングとマーケティングはオレがやるか」

「でも、あんまり目立ちたくない。この依頼だって、有名な所には頼めないっていうので来たんだ。俺は、そういう人達の力になりたい」

「お・・・おう。なんだよ、意外と考えてんじゃん」

4人が揃えば、とにかくお喋りが止まらない。同僚であり、友達だから。タケミチは久し振りに自分が笑ったことに気が付いた。何となく、止まっていた歯車が動き出した気分だった。

そうして、元騎士で結成されたチーム「便利屋」はとある海岸にやって来た。

「おー、いるねえ」

高さ150センチの大型のカニ、ハインシー。その殻は生半可な剣では太刀打ち出来ない。冒険者にとって、1匹だけなら危険ではないが群れとなれば格段に危険度が増す。加えて、この時期、ハインシーを捕食しようと様々なマテリアルがやって来る。そんな乱戦の中に突っ込むのは、アホか強者のどちらか。

ハインシーを狙うマテリアルたちの中で、最も危険なのがオイルイア。サメとワニの特徴を持ち、中型の漁船が最高速度で突撃してくるように襲い掛かってくる。

もうすでにエクレアは1番大きいサイズのハインシーを5匹捕獲していた。依頼では個体数の指定はない。普通ならとっとと帰るべき。でも男3人はずっと待っていた。波が来るのを。

「お?あれか?」

不自然な大波。つまり海中に何かいる。それがどんどん近付いてくる。期待が高まってくる。ふとエクレアは森の方に振り返る。重たい足音。

「来たぞ!」

ザーーッと逃げ出すハインシーたち。バシャアッと水面が突き上がり、この海岸の王者が勢いよく飛び出した。その瞬間に、ハインシーを1匹くわえながら。船が座礁してきたみたいに陸に上がりながら、バリバリと殻ごと捕食するその姿は圧巻でもある。

「みんな!あっち!」

エクレアの声に男達が振り向く。森からやって来たのは、海洋マテリアルを主食とするドラゴン。バウザーだった。

「うおっ」

陸上と海中を広く活動する、レベル7相当のバウザーもまた、ハインシーを手で鷲掴みして、豪快に殻ごと噛み砕いていく。走り出したエイジ。

「オレ、バウザーやるわ」

エイジが走りながら、小さな光から出したのはサーフボード。でも最新式の軽量型エンジンとブースターが内蔵してある。つまり空飛ぶボード。動力は本人からの魔法。ビューンと滑空していくエイジ。そして次に小さな光から出したのは、細く美しい1本の刀。刀を水平に構えて猛スピードで突撃していくのがエイジのスタイル。

「タケミチ、止める」

「あぁ」

ロナウザーは腕利きのスナイパー。麻酔弾、神経毒弾、そういったもので相手の動きを止めるスタイル。バシュッと銃弾が刺されば、もうオイルイアは普段の3割も力が出せない。あとはタケミチが素早く近付き、電気魔法で感電死させるだけ。男達は戦いたかっただけだった。でもそれでお金が稼げるんだからと笑っていた。そんなアホな男達を、エクレアは満足げに眺めていた。

読んで頂きありがとうございました。

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