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「お金を稼ぐということ」

見て頂きありがとうございます。

かなりゆっくりのペースでの投稿になると思います。

よろしくお願いします。

生きとし生けるものは全て「マテリアル」と呼ばれ、その素材は人間社会の文明発達に多大な恩恵をもたらしてきた。遥か遠い昔、人類は生存戦略のため、人間社会全土を統治する王国を作った。

5024年、人類未踏の地ダークエリアには今もなお未知なるマテリアルが存在している。今日もまた、冒険者たちは素材と食料、そしてロマンと一獲千金を求めて出発していく。


人間社会の8割を統治し、全ての文明が集まる王国「ディッセンディア王国」。

その日、10人の冒険者たちが出発の日を迎えていた。冒険者たちの親族たちは皆、期待を寄せた笑顔を浮かべている。

「頑張れよ!」

「しっかり稼げよ!」

「必ず帰って来いよ!」

温かい声援の中には、明らかに親族ではないスーツの人もいる。冒険者、あるいはチームに企業スポンサーが付くのは何も珍しくはない。冒険者を支援すれば株は上がるし、持ち帰った素材は優先的に流してもらえる。冒険者だって、スポンサーから装備を提供してもらえるから冒険が楽になる。

「じゃみんな!行ってきまーーす!!」

10人の男女は希望に満ちた笑顔で大きく手を振り、凛々しく出発していく。

門前大広場。冒険者たちの出発の地を遠く眺める少年たちがいた。大広場を見渡せる土手、芝生の広がる大きな樹の下。少年たちはスマホ片手に、気だるそうだった。

「冒険とかダセえよな。何が面白いんだよ。ケガして帰ってくるだけだろ」

「ケガならまだ良いけど、最悪死ぬんだよな。この前ネットニュースに、有名な冒険者が死んだって流れてた」

「見た見た。何でそうまでして行くんだろうな。バカなんじゃないか?」

通りすがりにそんな少年たちの話を聞いていた男、ジョンは2人の隣に立ち、スマホを覗く。

「小僧ども。何読んでんだ?面白いのか?」

「何だよ。誰おっさん」

「面白いのか?」

「あぁ」

「何のマンガだ?」

「・・・転生で無双のやつ。簡単ですぐ読めて、話も短いし、冒険なんかバカするより安全で面白い」

少年の胸ぐらを掴むジョン。

「そんなインスタントラーメンみてえな物語で満足してんじゃねえよバカ野郎!」

そう吐き捨ててジョンは少年のスマホを足元に投げ捨ててみせる。

「何すんだよ、別にいいだろ」

「もう行こうぜ」

門前大広場を上がった一般道路。その歩道からも、出発していく冒険者たちを眺めている男がいた。賑やかさからは関係ない所で、自転車に跨ったままわざわざ停まっている男に、騎士の制服を着た男が親しげに歩み寄る。

「タケミチ、久し振りだな」

「あぁ」

無愛想に返事をするタケミチ。

「デリバリーやってんの?冒険はもうしないのか?」

「便利屋だから、依頼があれば行く」

「へーお前らしいな。冒険の護衛でもやればそれなりに稼げるか。そういえば、あのチームのリーダー、転生したんだって。新しい人生を始めるんだな」

「転生?ああ、バカの発想だな。あんなもんは自殺と変わらない」

騎士の男は嘲笑を含んだ微笑みを浮かべるが、タケミチはそもそもそんな表情を見てもない。

「ブレないなぁ。転生だってある意味生存戦略だと思うけど。それにそろそろ”進軍”が近いからな、冒険者も、転生者も増える」


それから3日後。10人の冒険者チーム「飛翔隊」は帰って来た。再び親戚や街の人達が集まって出迎えていて、彼らは5メートルのドラゴンの亡骸を持ち帰った。企業の人達がドラゴンを見回し、査定していく。10人はみんなボロボロだったが、とても満足げだった。



第1話「お金を稼ぐということ」



とある河川敷のすぐ手前。裕福とは言えない人達が住むような、古いアパートが立ち並ぶエリア。夕方に青年が1人、帰宅した。

「おかえり」

リビングに居た車椅子の母が笑顔で出迎える。

「ただいま。お金置いとくよ」

ニュークスは寝室に向かう。報酬で貰った硬貨をベッドテーブルの引き出しにしまう為に。

「兄ちゃん帰ってきた。おかえり〜」

「おかえり」

子供部屋から駆け寄ってきたのは8歳の双子の弟と妹。2人を見ればニュークスはポケットからお菓子を出す。

「ただいま。お土産持ってきたぞ」

「わーい」

それからニュークスは小さな小銭袋を持ち、隣の家のドアをノックする。出てきたのは母の兄で、つまりニュークスのおじさん。

「ごめん、今日の報酬、そんなに多くなかった」

「だったらお前達だけで使えばいい」

「そういう訳にはいかないよ。いつも世話になってるんだから。次はちゃんと報酬の多い仕事を選ぶから」

「冒険は?お前のチーム活躍してるんだろ?」

「実はさ、チーム、抜けたんだ」

「何で。いじめか?」

「全然そういうんじゃないけど。でも冒険は続ける。1人でも冒険は出来るし」

「1人でか?それはダメだ。何かあったらどうすんだ。ちゃんと仲間を見つけなさい」

「あぁ。・・・分かったよ」

夕食の時間、料理を作りながらニュークスは以前に入っていたチームのリーダーとの会話を思い出していた。一度や二度じゃない。日常的な会話。そのどれもが、何か合わなかった。でもやっぱり、おじさんの言うことは正しい。心配してくれているのだって分かる。

「母さん、俺、また冒険出るよ」

すると母さんは優しく背中に手を当ててくれた。

「頑張って。みんなで待ってるから」

翌日、ニュークスは”コミュニティカフェ”にやって来た。デパート、家電量販店、大手衣料品ブランド店、賑やかな街にある、何の変哲もないチェーン店のカフェ、スターマインドコーヒー。通称スタマ。でもその店の壁には、コミュニティカフェ指定店舗の張り紙がある。

適当にコーヒーを頼んで席に着く。キョロキョロするニュークス。同じように客同士、この人はどうかなという探り合いの眼差しが飛び交う。お互いが遠くから見定め合う、少し息の詰まる雰囲気。ニュークスは目線を落とした。テーブルにあるのは、紙ナプキンと小さな広告立て。――君の冒険はここから始まっている。

「なぁお前、もしかしてストームズか?結成1か月でハーミット遺跡に行って生還したっていう」

話しかけてきたのは立ち飲みテーブルから来た男だった。

「いや、もう抜けたんだ」

「そうなのか。何で」

「リーダーと折り合いがつかなくて」

「まぁよくあることだ。でもここに来たってことは、誘っていいんだよな?」


その街の門前大広場の先は大平原が広がっていて、新米冒険者は必ずそこで力試しをする。始まりの平原とも呼ばれる。そこに、知らないおじさんにキレられた少年たちは居た。1人は剣を持ち、1人はライフル銃を持つ。

「剣ってこんなに軽いんだ」

「案外簡単そうじゃん」

まるでおもちゃでも扱うように1人は剣を振り、1人はかっこ良くライフルを構えて、照準を覗く。ふと剣の少年は、別の冒険者の帰還を眺めた。その3人は大きな熊の亡骸を台車に乗せて運んでいた。生き物の死んだ顔は初めてだった。寒気がした。

「やっぱりやめようかな。気持ち悪いし、ケガしてんじゃん」

「腑抜けたこと言ってんじゃねえぞ!話に乗ったのはお前たちの意思だ。投げ出すな」

ジョンのあまりの剣幕に、少年は力無く笑ってごまかす。

「じょ、冗談だって」

「人生は冒険だ。ありきたりなものを見て笑ってるやつに、人生の面白さは分からない」

「本当に、金くれるんだよな?」

「もちろん。死んでなきゃな?」

少年たちをバカにするようにジョンは笑う。


チーム名は「パンツァード」。ニュークスを誘ったテンザーのチーム。始まりの平原で、テンザー含めた5人はニュークスと顔合わせをした。パンツァードの面々は期待を寄せた表情をしていて、ニュークスにはそれが少し照れ臭かった。

「ようこそパンツァードへ。オレらのスタンスは”楽しむ”だ」

そう言うとテンザーは白いミリタリージャケットの胸ポケットの1つから迷彩柄の小さなケースを取り出した。何もない平原に向かって、イヤホンケースみたいなもののフタを開ける。パアッと光の塊が解き放たれて、光の中からディープグリーンのオフロードSUV車が出現した。

「かっこいいだろ。ネオジープ。センターハンドルの前3人で、後ろも3人、オレらの愛車なんだ。もちろんキャンプ用品も充実してる。それで編成を紹介すると、前衛3人で、後方が2人」

手の平から小さな光をちらつかせ、武器を出す。テンザーが出したのは剣と円い盾で、他のメンバーは槍と大斧とライフルと魔法の杖。

「大丈夫なのか?そんな装備で」

ニュークスが目を向けたのはテンザーの剣。その剣の鞘に刻まれた数字。

「ダメなのか?」

それからニュークスは魔法使いの女性、セオラのペンダントに目を向けた。そのペンダントトップに刻まれた文字。

「目標のディアウスドラゴンはレベル5認定のマテリアルだ。あんたの剣、ラベルが4じゃん。それに魔法使いのランクもD、ギリギリか、たぶんアウトだ」

「だからこうして助っ人呼んだんだ。自分たちより強い相手と戦うのが冒険の醍醐味だろ」

「死んだら元も子もない」

楽観的に自己紹介していたテンザーは白けたように笑みを収める。その険悪の火種は他のメンバーにも伝染していく。

「そういうお前はどうなんだ。服だってただのプロクロだろ?武器見せてみろよ」

手の平から小さな光をちらつかせ、武器を出す。そしてニュークスは少しだけ鞘から剣を抜いて見せた。武器を見せ合う。こういう光景は”挨拶”だ。ニュークスの剣の鞘に刻まれたラベルは”U”。

「お前それ!ユニークウエポンじゃねえか!」

「運が良かっただけだ。仲間も居たし」

「どんなマテリアルだ」

「恐らくオークディアブロの近種だと思う」

「オークディアブロって?」

セオラが尋ねる。

「レベル6認定のマテリアルだ。まさかハーミット遺跡の時にか?」

「帰り道でたまたま」

険悪になりかけた雰囲気は嘘のように消し飛んだ。むしろテンザーは1等賞のくじでも当てたように笑い出す。

「さすが期待の新生ストームズだな。これはもう勝ったな」

バタンと閉められたドア。そしてシートベルト。そうしてニュークスは、車で冒険に出発したのだった。


見晴らしの良い大平原から林に入ったジョン一行。先導役のジョンの子分、レビーはすっと手を挙げた。いち早く岩陰に隠れるジョン達。でも少年たちは背中を押されて突き飛ばされた。武器を構える少年たち。小型の恐竜のようなマテリアルは頭を少し下げ、ゆっくりと近づいてきた。

「どうしよ。やっぱり来るんじゃなかった」

剣を持つ手は震えていた。足もすくんで動けない。きっと噛み付かれたら簡単に死んでしまう。それを見兼ねたライフルの少年は、緊張しながらもライフルを構えた。

「ふう、いける」

銃声が響いた。パタンと倒れるマテリアル。緊張の糸なんか解けない。でも次第に少年たちの表情から笑みが零れた。拍子抜けするくらい簡単だった。そう少年が死んだマテリアルに近づいたその時、同じマテリアルが4体走ってきた。

「マジか、最初から群れだった!?」

「ハメられた!」

再び響く銃声。でも気が動転していて狙いなんか定まっておらず、ライフルの少年は尻餅をつく。動けなくなった少年たちにマテリアルが一斉に襲い掛かる。

「うわあああ!」

ただ恐怖で目を瞑っていた少年たちは恐る恐る目を開ける。目の前にはジョンの子分達がいて、容易くマテリアルたちを仕留めていた。

焚き火で肉を焼く。それは冒険の基本で、お楽しみの時間。仕留めたマテリアルの肉にかぶりつく少年たち。

「うめえええ!」

「何だこれ!スーパーの肉と全然違う」

「とにかく肉と素材は金になる。スマホの中に面白いもんなんかねえんだよ」

冒険の面白さを少しだけ分かった気がした。そう少年たちは頷き合う。この知らないおじさんが、冒険をバカにしたことにキレた理由が分かった気がした。少し反省した。名言かどうかは分からないけど、何となくおじさんがかっこよく見えた。ジョンの子分達が片付けをする中、ジョンは寝っ転がってスマホを見ていた。片付けを人任せにする悪さもかっこいい。少年たちはジョンに少しだけ尊敬の眼差しを向けていた。

「こいつバカだな、面白え」

その言葉を聞くまでは。


湿地、荒野を抜け、夜には作戦会議もした。ようやく辿り着いた広大な渓谷。それぞれの武器を出し、臨戦態勢。川のせせらぎがよく聞こえるほどの緊張感。他のマテリアルの気配がないのは、きっともう縄張りに入っているからだろう。静寂と緊張は期待でもあった。上流に向かって歩いて1時間、ニュークス達は足を止めた。巨大なドラゴンの背中が見えた。翼を広げれば20メートルはあるだろう、紺碧の鱗を纏った美しいドラゴン。そして、食事中だった。こちらの存在に気が付いて振り向いた矢先、その大きな口からは炎が溢れ出した。警戒を越えた殺意だった。

「ディアウスドラゴンの熱線は速くて細くて真っ直ぐだ。避けるのは難しくない」

それは車の中でのニュークスの言葉。

真っ直ぐ一直線に伸びた熱線。それは木を簡単に炭にして、岩をも溶かす。でも作戦は立てた。散開して、翻弄する。先頭はニュークスで、テンザーたちが後に続いていく。それもジグザグに飛び跳ねながら。ディアウスドラゴンは口に炎を溜めているが、明らかに迷っていた。詰め寄っていくニュークス達。しかし直後、ディアウスドラゴンは翼をはためかせて突風を引き起こした。

「くっ・・・」

人間が立てなくなるくらいの突風。それでテンザー達は動きを止めてしまう。吐き出された熱線。狙われたのは、槍のハクダンだった。

「軌道を逸らせるくらいだったら、あんたの防壁魔法でも使えるんじゃないかな」

昨夜のキャンプ。それは夕食を食べながらのニュークスの言葉。

セオラは杖に意識を込めた。防壁魔法は万能の壁。ただ強度はその人の魔力による。ハクダンの目の前に光の壁が出現して、熱線を受け流した。1秒も持たない防壁だった。けど軌道は逸れ、その間にハクダンは逃げられた。ディアウスドラゴンは魔力を感じたセオラに目を付けた。でもすでにニュークスが1人、懐に飛び込んでいた。真下の死角から剣を突き上げる。しかしディアウスドラゴンは体を逸らし、しかも裏拳でニュークスを高く打ち上げた。吐き出された熱線。

「防壁が間に合わない!」

セオラの意識より早く、熱線はニュークスを真っ直ぐ呑み込んだ。一瞬で岩をも溶かすなら、人間もそうだ。そこにもうニュークスの姿は無い。テンザー達を見下すディアウスドラゴン。その口にはまだ炎が残っていて、直後に熱線は火炎放射となった。

「広範囲熱線だと!?これじゃ避けられない!」

まるでミサイルの爆撃にでも遭ったように吹き飛んでいくテンザー達。

「どんな奴でも、攻撃する瞬間は視野が狭いし、死角が広い。そういう時がチャンスなんだ」

夕食を囲みながら、ニュークスはそうも言っていた。

残り火の火炎放射だったからか、広範囲のお陰で威力が散漫になったからか、セオラの防壁で何とか助かった。

「囮になる!あとは何とかしろ!」

テンザーは全力で叫んだ。走り出したテンザーをディアウスドラゴンは真っ直ぐ見下す。吐き出された熱線。テンザーは横に飛んでかわす。ライフルのドルガンによる射撃。銃弾は首筋に刺さり、ディアウスドラゴンは仰け反った。隙が生まれた。かに見えた。懐に飛び込もうとしたテンザーに、ディアウスドラゴンは素早くパンチを叩き込む。盾でガードしたものの反動は強く、テンザーは転がった。口に溜め込まれた炎。死の予感。その瞬間、空から落ちてきたニュークスがディアウスドラゴンの脳天に剣を突き刺した。

即死したディアウスドラゴンがドカンと倒れた。お互いにボロボロ。でも頭の上のニュークスと、倒れているテンザーは、微笑み合った。

読んで頂きありがとうございます。

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