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僕の恋の病

作者: 鶴城

「付き合って下さい」

何の捻りもなく何度も聞いた。もう聞き飽きた言葉だ。

漫画やアニメにはよくあるシチュエーションの校舎裏。

そこでボク翔は喋った事もない同学年の少女に告白をされている。少女は返事待ちの様子。

さてとどうしたものか、告白の返事はもう既に決まっている。だけど学校中に噂になるのはもうごめんだ。

ボクは悩みに悩んだ。と、いっても実際はそんな時間は経ってない。体感だけでいえば数時間くらいの気疲れさ。

怠さがある。実際に一時間以上無言でいれば、諦めてくれるだろう。そうだったら一番楽だ。

だけど現実はそんなに甘くないのだ。多分時間は……良くて数十分くらい。まぁ本当は経った数分なのだろう。

と、考えていた時見知らぬ少女はしびれを切らしたのか。ボクに返事の催促をしてきた。

はぁー、一々言わずとも察して欲しいものだ。このまま答えずに後々にしつこく迫られても困る。

だからボクは目の前にいる自分より背丈の低い少女に言う。

「君……誰? ろくに喋った事ない子と付き合いたくないからじゃあね」

目の前の少女はボクの言葉を聞いた途端。分かりやすく表情が変わった。さっきまで希望に溢れた表情。だとすると、今は残酷な一言を言われて絶望している所だろう。

だんだんと表情が暗くなり俯き、ヒクヒクとすすり音が聞こえ、次の瞬間。少女にしゃがみ顔を手で隠す。

その間もすすり声は聞こえる。そして彼女から滴れたであろう水滴が地面にポタポタと落ちる。

どうやら少女は泣いているみたいだ。優しくて絵に描いたような王子様――ならば慰めるだろう。

だがお生憎(あいにく)ボクはイケメンでも王子ですらない。ただの恋というものを知らない人間だ。

少女に背を向け歩き出す。背後から嗚咽交じりの声が響く。

さてこの少女について他の生徒に言うべきか? いやボクにデメリットの方が多い。構図的にボクが少女を虐めたように捉えられる可能性が高い。何時何時(いつなんどき)

だとすればボクのする事は決まっている。いつも通りに何事もなかったように帰る。

その前に鞄を取りにいかないとな、急に呼び出されてそのままだった。実にくだらない事の為。すっかり忘れていた。

二年A組の看板が視界に入りクラスに入ろうとした時。鼻歌交じりの歌声が聞こえる。普通、放課後だからクラスには誰もいないし、来る奴もいないだろう。

ボクを除いてだ。

クラスの中に入ると一人の少女と目が合う。直後、歌は止み――その代わりに笑みを浮かべてきた。

その笑顔にボクは視線を逸らす事はできなかった。まるでその笑顔に吸い込まれるようにずっと見ていた。

すると目の前の少女の顔が紅潮している。咄嗟的に視線を逸らす。体が反射的に動いた。

今までこんな事が起きた事がなかった………… 

          ◇

今ボクはモヤモヤとしている。こんな感情は人生で初めての事。どうしてこんな感情を持ち始めたのか、そのきっかけは理解している。

あの出来事の時に出会った少女の笑顔を見てから、ボクの感情はぐちゃぐちゃだ。

何時何時(いつなんどき)もあの少女の笑顔が忘れられない。後々から知った事だが、あの少女はクラスで孤立している姫。孤立姫。その噂はボクの耳に届いていた。

孤立姫……色々と噂が流れている。一番多いのは男たらしって話しだ。

実際は違うのかもしれない。だけどボクには一切関係のない事。でも孤立姫の噂を聞くと、胸がキュッと締め付けられる感覚に陥る。

あぁくそ! わからない、わからない。こんな感情生まれて初めてだ。

この感情を理解する為には孤立姫と関わるのが、手っ取り早いだろう。

だとしても下手に関わると、ボク以前に孤立姫にもっと危害が喰らう。

ボクも孤立姫と同じでいい評判はない。まぁボクの場合は自業自得といえるかもしれない。

自分で言うのはあれだけどボクはモテる方である。

高校に入って一週間すれば同学年、先輩達に告白される日々が続いた。その告白に最初は戸惑いしかなかった。だけど三日と続いた時、ボクはめんどくさくなった。

何故かっていうとボクは恋を知らない。誰かにときめく事もない。

まずそもそも他人に興味がないのかもしれない。

別にボク自身はそれでもいいと思っている。人生に支障をきたすとは思わない。

だけど今、ボクは人生に支障をきたすくらいの意味不明の感情に戸惑っている。

こんな事を考えてばっかりでは進まない。ボクは深呼吸をして孤立姫に話しかけた。

孤立姫は戸惑っていたが案外喋ってくれた。クラスで話していた為。ザワザワとクラスがうるさくなった。

孤立姫の腕を掴み、クラスから出る。腕を掴んだ時腑抜けた声が聞こえた。

一切聞き逃す事はなかった。屋上に行ける階段で雑談を交わす。ボクと孤立姫――紗良は案外にも気が合った。

紗良と話している時は人生の中で、一番心地がよく楽しかったかもしれない。

その日を境にボクたちは喋るようになった。色々と紗良の事を知る事ができた。

紗良は噂通りの人間ではないそれがボクの見解。

紗良といると心が救われるような感覚になる。

そんな幸せな時間にも終わりが現れた。

それは些細な事だった。一人のクラスメートが紗良に因縁を付けた事が始まり。紗良は孤立姫、人望も信頼もない。

その中でボクだけが異論を唱えるが話しを聞いて貰えない。

紗良の家族も紗良は悪いと唱えている。今紗良の味方はボクしかいない。

ある時、クラスに行った時いつもいる紗良がいなかった。

直後、ボクの背中に悪寒が走り嫌な事が過ぎる。

気付いた時には無我夢中で走っていた。なんでこんな時に嫌な事を過ぎるんだ!? 頼む間に合ってくれ!

はぁはぁと息切れをする。息を整えるだけで精一杯だ。

そしてボクの嫌な予感は当たっていた。だけどまだ未遂に終わっていた。

「紗良……お前がしようとしている事は分かっている」

「その言い草的に止めに来たとかそういう系? 翔くんごめんね、私はもう止まる事はできない」

そうだろうな、紗良の心はボクが想定しているより傷付き、人生を投げ出したくなっている。

普通の人間ならば止めるだろう。

だけどそれは彼女の為になるのか? ボクは彼女の味方ではある。だけど留めるほどの力も関係性でもない。

じゃあこのまま彼女をみ殺すのか? いやそれも違う。ボクがする事はもう決まっている。

「ボクも紗良と一緒に行く。一人は辛いし寂しいよ」

紗良はボクの言葉に苦笑し、目尻には一滴の涙を流していた。相当辛かったんだろう。他の人が泣く所なんていくらでも見てきた。

でも紗良が泣いていると心が苦しい。だからボクは紗良の隣に立つ。屋上の柵を越え、下をみると人がたくさんおり、何かを言っている。

このままらっかすれば一瞬は痛いかもしれない。だけど楽にはなれる。

紗良はボクの手を繋いで言ってくる。

「いいの? 恋人でもない私と一緒で?」

「恋人か……ボクには紗良が居ればいい」

恋人なんて欲しいとは思わない。でも紗良の隣には居たいし立ちたい。あーそうか。これがこの感情が……

「もし生まれ変わっても翔くんと一緒にいたいな」

「だったらその時は恋人になってくれ。結婚して幸せする」

「うんそうして。でも私はこの人生もまぁまぁ幸せだったよ」

次の瞬間背後の扉が勢いよく開けられる。教師たちが来た。それと同時にボクたちは一歩前に出て落ちる。

ボクが不思議で仕方なかった。そしてボクたちを繋ぎ止めた感情であり病気。

まさか最後の瞬間に理解するとは思わなかった。

これが恋。そしてボクの初めての恋の病。



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