雨降る夜
あれは、雨降る夜のこと。
傘を忘れた俺はシャッターの閉まり切った古びた店の前で雨宿りをしていた。
寒さと時間を感じないために、シャツの胸ポケットから100円のライターとキャメルの残り少ないタバコを取り出した。
タバコに火を付け、一度口に煙を含み、ため息を吐くようにタバコを吹かす。
雨のせいで地面に叩き付けられた夜桜を見てからまたタバコを口へと運ぶ。
タバコの煙を一気に吸い、一度口の中で遊ばせた後、大きく息を吸い込み煙を肺へと運ぶ。
そうして、今日上司に怒られたこと、仕事で失敗したこと...思い出したくない記憶を煙に乗せて大きなため息を吐く。
それを幾度か繰り返して、タバコを持つ指に暖かさを感じ始めた頃、タバコの火を雨で濡れた地面で消し、その場に捨てる。
すると...
「あ、お兄さん、いけないんだ~"ポイ捨て"したら~。」
今までタバコに酔っていたせいか、隣に人がいることに気付かなかった。
「それは大人げないと思うなぁ。」
そう言って、高圧的に攻めよられる。
ポケットに忍ばせていた携帯灰皿に何も言わず捨てなおす。
「なんだ、携帯灰皿持ってるんじゃん」
何か、いたたまれない気分になり、そのままその場を離れようとする。
「お兄さん、どこ行くの?見えてるよね?外は"雨"だよ。」
ポイ捨てを指摘してきた奴に止められてしまった。
「僕も傘を忘れちゃってさ、少しお話していこうよ。」
...どうせ、家に帰ってもすぐに寝て仕事の時間を待つだけ、いつ上がるかわからない雨を待つことにした。
「ところで、お兄さんは仕事帰り?何のお仕事しているの?」
仕事はただの会社員、資料作って上司の接待したあげくに上司に怒られるのが仕事、なにもいいことは無い。
「へーお兄さん"も"大変なんだね。」
声を聞く限り相手は子供だ、背丈も中学生から高校生といったところか。
顔...は夜のせいで見えない、男か女かもわかりにくい。
更にはフードを被って全身黒ずくめ、いかにも怪しい雰囲気だ。
「どうしたの?そんなにじろじろ見て。僕の事がそんなに気になる?」
そりゃ、気になる、中高生の子供が全身黒ずくめで雨の日にお出掛け?時間ももう22時を過ぎている。
誰がどう見ても怪しい。
「まぁ、そうだよね、怪しいよね。」
少しの沈黙が続いた。五分ぐらいだろうか?怪しい子供が口を開いた。
「そうだなぁ、顔を見たらわかるかな?」
そう言うとフードを脱ぎ顔を見せた。
その"少女"は顔面傷だらけで右目には眼帯を巻いていた。
「覚えてる?お兄さん、僕の事を。覚えていてくれなきゃやだな...。」
覚えて...?いや、なぜこんなに惨い顔をしているのに"少女"だと解った??知っている..."俺”は知っているのか??
頭が痛い、何か自分じゃないものが流れ込んでくるようだ、何が何だか...。
「どう?思い出せそう?」
何か空気が変わった気がした、雨音がどんどん遠くなって行き、少女の言葉が色濃く、脳裏に焼き付くようにハッキリと聞こえた。
「殺人犯。」
その言葉を聞いてさらに頭痛が増大していく。痛い、今にも"自分"が消えてしまいそうだ。
「僕はずっっっと、探してたんだ。"お前"を。
"あの日"から五年間探し続けてやっっと、見つけた。
見つけたときは嬉しかったよ?でも、どうやってお前に近づこうかってすごく考えたよ、"記憶"も無くしてのうのうと生きているんだからね、凄く"殺したくなった"よ。」
『あの日』?『殺したくなった』って...、訳が分からない。
「まだ、わからないみたいだね、教えてあげるよ。」
何故か、本能的に聞きたくなかった、聞いてしまったら"俺"が居なくなってしまう気がして...。
「お前は殺したんだ、僕のお母さんもお父さんも、おじいちゃんもおばあちゃんも!!みんな、みんな殺していった!!理由もなく!!その手で!!」
やめろ...。
「でも、お前は僕を殺さなかった、面白半分で、半殺しにして火を放った!!救急隊を自分で呼んで!!お陰様で僕は助かったさ!!こんな醜い姿でね!!」
やめろ...
"俺"じゃなくなる...
「でも、感謝もしてるんだよ、お前が僕を殺さなかったお陰で復讐する機会が与えられたんだから!!」
ダメだ...やめろ...
「殺してやる、殺してやる、殺してやる...。このナイフとライターで同じような目に合わせてやる。」
やめ...
「しねえええええええええええ」
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冷たい。寒い。
落ちているタバコの箱とライターを拾い上げタバコに火を付ける。
一度口に煙を含み、ため息を吐くようにタバコを吹かす。
雨のせいで地面に叩き付けられ、血に濡れた桜を見てからまたタバコを口へと運ぶ。
タバコの煙を一気に吸い、一度口の中で遊ばせた後、大きく息を吸い込み煙を肺へと運ぶ。
そうして...。
少女が冷たくなっていくのを感じながら、思い出したくない記憶を煙に乗せて大きなため息を吐く。
それを幾度か繰り返して、タバコを持つ指に暖かさを感じ始めた頃、タバコの火を雨で濡れた地面で消し、その場で捨てた...
それは、雨が降る夜のこと。
どうも、魔物。です。
暇...というか何もやる気が起きなかったので箸休め?に超絶短編小説を書きました。
この小説に深い意味はありませんが、一応、いつもの如く一人一人のストーリーは考えてから書いてはいます。
まぁ、細かい説明をせずに書いているので、逆に考察がしやすいのではないでしょうか?シランケド
是非この二人に何があったのか、この事件は最後どうなったのか、そういったところを考察して好きに幅を広げていってもらえると嬉しいですね。
一応答えはありますが、皆さんそれぞれの答えを探してみてください。
それでは、また何処かでお会いいたしましょう。




