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転生ですか?…すみません ウチそういうの結構です   作者: ODN(オーディン)
第二章

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55/56.「嫉妬の焔」

「…「かえる」力ですか?」

「ええ、貴方が「風」との対話を望むのなら…その選択肢もあるわ。勿論、確証はないけれど意思を交わせれば一先ず相手の狙いは分かる。天の母様に属するものの意見を聞くだけでも私たちの旅の指標が見えてくるかもしれないから…」

だから良い機会だ、と言い聞かせるように私はウロコに選択肢を示した。

「火」からアキを生み出し、自らを地の母様のスペルマに変貌させたウロコの「かえる力」。

しかし、いずれも偶発的に発現したものでウロコの意思で力を行使した経験は未だないという。

「分かりました。少しでも可能性があるのなら…私、やってみます」

「ええ、私も可能な限り手伝うわ」

ウロコも自信がない様子だったが意を決して立ち上がると、アキを交えて作戦を立て始めた。

天地のマナを燃やすという「火」の性質を利用した炎の囲い。

「風」の動向はウロコの魔力感知で捉え、随時アキへ指示。私に与えられたのはウロコとアキの補助だけだった。

「大丈夫?この作戦だとアキちゃんの負担が大きそうだけれど…」

「いえ、これは私たちの試練(、、)ですから。それにアキならできますよ。ね?」

「うん!がんばるぅ!」

「…そう。じゃあ頑張りなさい♪」

笑みを浮かべながらも期待で膨らんだ胸が少しだけ(しぼ)む。「もっと頼られたい」というのが本音だけれど「試練」という言葉に水を差すわけにもいかない。…あるいは彼女なりに私を配慮した采配だったのか。まだ数日の付き合いだけれど()ほど彼女の心を溶かせてはいないらしい。

「それで…最後にアダルティーさんが私を投げ飛ばしてください」

麦わら帽子の騎士にむくれていると突拍子もない注文をされて思わず笑ってしまう。

きっと彼女なりに私と向き合おうとしてくれている。緊張が抜けていないのは私がエルフだからか。それとも彼女の中で私に気を遣わせる引っ掛かりがあるのかもしれない。もしかしたら私の歩み寄りが足りなかったのだろうか。ひとまず、この件が片付いたら仲を深める努力をしてみよう。

「わかったわ。何かあったら私を頼りなさい」

…そもそも「気遣う」ということに誤解がある。優しいウロコは私を旅に付き合わせていると考えているが、私は私の目的のために彼女たちと旅をしているだけ。永遠とも呼べるエルフの生涯に楽しみの喜色を与えてくれるものが、飢えぬ好奇心を満たしてくれるものが彼女たちであり、私の好奇心によって付き合わされているのは彼女たちに他ならない。

 だから、私は謝らなければならない。私は「火」に人の器を与えた「かえる力」を見たいがために彼女にその選択をさせた。それが最も温和な解決法だったのも事実だが、私には…それが天啓(、、)にも思われたのだ。


「いってらっしゃい、ウロコ—――それと、ごめんなさいね(、、、、、、、)


 目にマナを込めて投げ飛ばしたウロコの動向を窺う。深呼吸に交じって僅かに(あお)を——「風」を吸い込んでいるようにも見えたが思考が追いつくよりも先にウロコの多量のマナが「風」の大部分を覆いつくしていた。

「これ、」

不思議と天の母が「風」を生んだ情景が浮かび上がる。私が生まれていない頃の話だというのに見た事もない光景が浮かぶのは血に刻まれた(ママ)の記憶か。もしくはこの(、、)衝撃によって呼び覚まされたものなのか。

「これは。」

紅、赤、橙、茶、黄色、緑、翠、蒼、紺、紫、黒、白‥‥様々な色が入り混じりながらも混沌とならず調和したマナ。決まった色に収まらず変化し、彩りを止めない輝き。まさしく「色」と表する他ないワカツキウロコの「かえる力」に私の目は釘付けになった。

「これは…奇跡(、、)だわ」

「色」が「風」を覆いつくすと実体を持たなかった蒼のマナが実体を伴って顕現。肉体の形成に際して「色」は薄れ、「無色」のマナとなって蒼のマナを覆う。初めてアキを視たときと同じ形——「風」という事象を保持したまま、器のみが人へと作り替わった。


「しょうがない人ですね…アナタは」

ふわり柔らかな白髪は雲を、白群色に煌めく長髪は晴れた青空を想起させる。

天の母より放たれた吐息。世界を流れる風の一端を担う「風」の化身は優しく微笑むと気を失ったウロコを宙で抱きしめていた。

何かを確かめるようにウロコを抱きしめる彼女が私には泣いているようにも見えた。

「その子…返してもらえないかしら」

宙に浮かぶ淑女に尋ねるとウロコに(うず)めていた顔を上げて彼女は大地を見下ろす。空の済んだ青を(すく)った蒼の瞳。その視線が合うと同時に私は直感に従ってアキの下へと駆け出した。

「地の母様!力を貸して!」

身体機能の全力行使に身体強化の魔術を上乗せ‥‥それでも寸前の所でアキを抱きかかえて退避すると後方の大地が二つに割けた。

「なぜソレを助けるのですか。エルフの子よ」

「こっちが聞きたいわよ!」

アキへの殺意を剥き出しにした攻撃。アキの魔術を介さぬ火球と同じく自らのマナだけで抽出された風の刃。…アキの火球を見ていなければ反応できない速度だった。

「それは母に仇なすもの。いずれ世界を燃やし尽くす災厄となりえるもの。それが分からないほど幼くはないでしょう」

「そうね。でも、怖そうだからって即座に切り捨てるほど老いてもいないわ」

「まさか…私と—―――」「へくち!」

途端に会話が途切れると「風」は抱えていたウロコに視線を落とす。それから思案するように私を見下ろすと「風」はマナで編んだ白い衣服をその身に纏った。…既に知識として持ち合わせていたのか、それとも今の一目(、、)だけで構造を把握したのか…。

「エルフの子。私と戦うつもりですか」「ええ」

天の吐息——「風」とエルフが争うなど歴史上においても初めてのことだ。

天の母は許してくれるだろうか。私ではなく要因となった彼女たちを…。

「約束は守るものよ、先輩」

()へと手を伸ばす。

魔術戦になったとしてもジリ貧になるだけ。「火」のアキは天地のマナを燃やして活動するが「風」は天のマナだけで事足りる。だから、あの「風」が肉体に慣れるより早く片をつけなくては…。


「だめええええええええええ!!!」

不意に脇に抱えていたアキがバタバタと暴れ出して地面の雪だまりに倒れこむ。そして、すぐさま起き上がって顔に付いた雪を身体を振るって払うと火の少女は私の足にしがみついた。

「シレン、だから!アダるんは たたかっちゃダメ!」

「アキちゃん…これはもうそういう話じゃあ————きゃあ!」

こちらの事情など知る由もなく風の弾幕が飛んでくる。直撃は免れたが辺り一面に雪煙が立ち込め、僅かにアキを見失ってしまう。

「地の母様!」

魔力感知でアキを捉えると共に身体強化と土魔術の防壁を並列行使。感知した方向へ飛び出して雪煙を突き抜けると「風」の方向に火球を放つアキの姿があった。

「あったれー!」火球の通過と僅差で発現する土の防壁は風の刃によって両断・粉砕。間一髪のところでアキを救い出せたが、こちらが明らかに追い詰められていた。

「アキちゃん!今の視えてたの?」「ちょっかん!」

再び風の弾幕が降り注ぎ、縦横無尽に雪原を駆けまわる。このまま逃げに徹すれば…とも考えたが時間の経過と共に彼女の狙いが正確性を帯び始めていた。

「困ったわね…」もはや彼女らの願いを叶えることはできない。決断すべき時だと悟り、機を探っていると不意に風の弾幕が止んだ。

「なにが…」

見上げると「風」がウロコに何か囁いているのが見えた。否、口の動きから察するに何かを吹き込んでいるような…。

「ず・る・い!」

同じく「風」を見上げていたアキが叫ぶと脇に熱を感じ、思わずアキを手放してしまう。

「アキちゃん…?」

状況が飲み込めない中、魔力感知で「風」を視ると「風」の口からウロコにマナが送られていた。マナ不足に陥るウロコを案じたためか…その表情は慈しみを感じさせるものだった。

「ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!」

「風」の行動がアキの琴線に触れたのか。憤慨したアキは少女から乙女の姿へと変わっていた。普段抑制していたマナを解放したアキの本来の姿。体内のマナによって姿を変えるとウロコは話していたが、この段階でもマナ総量はかなりのものだ。私ほどではないにしても鍛錬を積んでいないエルフと同程度。もし彼女が天地のマナをものにできたとして、さらに膨大なマナを保持できるとしたら…それは確かに脅威と呼べるのかもしれない。

「—――ちのかみさま!マーちゃんをたすけて!」

…などと呆けている間に乙女アキは火の魔術によって足先から炎を噴出する。膨大な熱量に近辺の雪原は蒸発し、さらには巨大な焼き印を残して炎の乙女は天へと飛翔した。

「くるか」アキの接近に僅かに怯みながらも「風」はアキの接近に合わせて天へと手を伸ばす。


「—――母よ。私の生誕を祝ってくださいますか?」


ウロコへのマナ供給で疲弊したためか「風」は天の魔術を行使する。

天の息吹が為す天の大神のマナを用いた魔術。さらに場所は上空。魔術の発現に要した時間はアキとの接触に十分な余裕を与えるものだった。

「母よ…」

(まわ)り、廻りて、全てを飲み込み破滅させる()れは竜巻の塊。うねり広がり大地に傷跡を刻む大竜巻を圧縮したもの。あんなものが大地に当たれば後方のネルバ大森林にまで甚大な被害が出る。

「母よ。感謝します。」

接近するアキにしっかりと狙いを付けて「風」は魔術を解き放つ。

捻じり巻く風流。巻き込むもの全てを掻き乱す暴風。あの風魔術の規模からしてアキの直撃は避けられない。アキに対抗手段があったとしても無事では済まないだろう。

「地の母—――」「…させませんよ」

アキの下へと向かうべく魔術を行使しようとすると突然地面から足が離れ、空中で一回転…体の自由が全く効かなくなってしまう。

「これ…ウロコの…」

ベルマーとの師弟対決で見たウロコの浮遊魔術。本来は空を翔る魔術を相手に使用することで対象の動きを奪う魔術。不可視の風魔術は魔力感知による事前の察知が必須だというのにアキに注意が向いた隙を見事に突かれた…。

「アキちゃん‥‥!」

乱回転する視界で天を翔るアキの無事を祈ることしかできず唇を嚙み締めながら「風」と「火」の衝突を私は目にした。


「消えなさい!忌むべき炎!」 「マーちゃんを!かえせ!」


・・本来であれば山一つを巻き込む大竜巻の塊。

それに立ち向かう炎の乙女は嫉妬の感情を拳に込めて烈火の(ほむら)を燃やしに燃やす。

上空へと翔る炎の軌跡は橙の火の粉を残して塵へと消える。

地に辿り着くことなく(つい)える赤の残影を悔恨に打ち震えるエルフは黙して見つめることしかできなかった。

「うわあああああああああああああああああ!!!」

母への初めての『ふぅ~』を奪った相手。初めて抱いた激情のまま炎の乙女は拳を燃やす。

天の大神のマナを無駄なく魔術へと還元した「風」の魔術と乙女の焔では差は歴然。

純粋な(、、、)マナのぶつけ合いであれば「風」の方に軍配が上がる。

「吸われている…?」

地に愛されし少女は火魔術を唱えると身に余る(マナ)を与えられ、その度に暴発を繰り返した。

暴発の要因は過度に与えられる地の大神のマナに体内の天の大神のマナが吸われるため。魔術の鍛練によって制御可能となったものの火魔術を行使する度に過剰な(、、、)マナが与えられることに変わりはない。

「うぬぬぬぬぬぬぬぬ…」

暴発を克服した「火」の化身は火魔術を唱える度に地の大神のマナが身体に蓄積される。

「火」は天地のマナを燃やすもの。蓄積された地のマナと純粋な(、、、)天のマナがあれば炎は幾度でも燃え続ける。


「いっけええええええええええええええええ!!!」


全霊を込めた燃焼。両者の()り合いは超爆発を以て終結する。

燃え尽きた乙女は幼女へと変わり、捕縛から逃れたエルフが落ちゆく幼女を介抱する最中、「風」に抱かれた母は(ようや)く目を醒ましたのであった。


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