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転生ですか?…すみません ウチそういうの結構です   作者: ODN(オーディン)
第一章

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17.「おしえてベルマー先生!」

「マナってなんですか?」

マナカナ。メラネシア。スピリチュアル…初めて「マナ」という単語を聞いたのは世界史の授業であったか。

宗教関連における人智を超越した力。パワー、フォースとも訳される摩訶不思議な力の総称。

そんな大そうなものを自分が扱っているとは、とても想像できなかった。

「え、」虚を突かれたようなベルマーの反応があり、それから少し考えるような素振りを見せると彼は「俺個人の考えなんだけど…」と前振りを置いてから少し恥ずかしげに「(あい)、かな」と答えた。

「それって、誰のですか?」

「もちろん。天と地の大神だよ」

「天と、地の、大神」

…たしか「大神」といえば、あの地龍が焔を放つ直前に駆けつけた彼がそのような言葉を含んだ呪文を唱えてはいなかったか。

「すみません、ベルマーさん。」

理解しようにも鱗側に情報が全くないため話が先に進まない。だから、ほんの少しだけ鱗は自身の事を打ち明けることにした。

(わたし)。その、幼い頃から両親がいなくて‥‥誰もいないトコロで、孤独に生きてきました。だから、この世界の常識というものを何も知らなくて、」

言葉を重ねる毎に視線が落ちていく。「いつか彼に全てを語れる日は来るのか」と、そんな疑問が頭に浮かぶ。


『 神様は全て見ているぞ、ということだ。 』

全てを見透かしたような柘榴(ざくろ)の瞳を持つ真実の神は【若槻鱗】の人生を見て、知っていた。

だからこそ、その人生をあのように言い表せたのだろう。

『生前の如く〝他に歌舞(かぶ)け〟とまではいわん。』

歌舞伎。歌い、踊り、のめり込む。代を重ねた舞踊は、いずれ過去(かこ)を未来へと引き連れていく。

【若槻鱗】の人生とは、消えゆく過去を死ぬまで連れた傾いたもの。

〝独りにならず、一人でいる〟という矛盾を抱えたままに果てた…いわゆる破天荒なもの。

そんな人生の中で自身のことを誰かに打ち明けようとは、一度たりとも思わなかった。

出会いに恵まれなかったわけでもない。強がりでもない。単に打ち明ける必要を感じなかったからで…。


「——ごめん。嫌なことを…いや、困らせてしまったね」

肩に置かれた手から言葉が伝わり、気づくと心配そうに鱗の顔を覗き込むアキの顔があった。

「マ~ちゃん。みどりのみ、たべる?」

「…うんうん、もう大丈夫だから」「そっか」

母の元気がない。だから「みどりのみ」を食べてもらう。

純粋で幼稚なアキの想いを察して鱗は自然と笑みをこぼす。

「ワカツキは、君のマ~ちゃんは強い人だよ」

ややしょげ気味のアキの頭に手を置いてベルマーは優しく語り掛けると「ベルちゃんもね!」と頭に置かれた手を両手で抑え込んでアキは小さく揺れる。

「強い人、か」

あの焔から鱗達を守ってくれた彼にそう言って貰えたのが嬉しくて、鱗は隠れてほくそ笑む。


生まれ変わっても記憶は残っている。【若槻鱗】は今も尚、自分の中で生きている。

それを強く実感すると同時に真実の神の言葉が脳裏によぎる。

『【全ての(ことわり)を白日に(とも)し真実を明らかにする】…これが私の力だ』

他に歌舞いた人生の【若槻鱗】を()がし、本来の若槻鱗を明かした。

‥転生前後の落ち着かない言葉遣いに、最初にベルマーを「あんちゃん」と呼んだこと。

あれらは真実を明かされたことによる副作用か何かだったのだろうか…。


          ・


地龍の影響で辺り一帯の水が使えなくなったことから、鱗たちは新たな拠点を求めて小川の上流へと向かっていた。

「——先生、それは?」「‥これはパルファス草の種だよ」

「——お、これはダンゴロ芋だね」「ゴロゴロ?」

その道中で見つけた植物について軽く教わりながら歩いているうちに開けた場所を見つけ、そこを新たな拠点に。

近辺で薪や枝などを集めているうちに、いつしか陽は豆粒ほどの大きさになっていた。


「それじゃあ、まずはこの世界の成り立ちについて話していこうか。」

「よろしくお願いします」「~します!」

腰を据えたところでベルマーはそれらしく咳払い。鱗が姿勢を正すとアキもそれを真似て胸を張る。


「かつて、この世界は(ひと)つだった。まだ大地も空もなく二つの神だけが存在する園——「神の寝床」と呼ばれる場があるだけで、そこにいたのが後に天の大神と地の大神と呼ばれる二つの神々だ。神々は人間でいう夫婦に近いもので永劫とも呼べる時を神の寝床で過ごし(あい)を育んでいた。

けれど夫婦である以上、すれ違いや(いさか)いは起きる。

実際は衝突があるからこそ夫婦は互いの尖りを削り合って円満を築くもの…らしいけれど。神々はそうはいかなかった。

ある時を境に二つの神々は仲違いをし、天の大神は地の大神の元を去ろうとする。

その別れ際、天の大神を…おかした地の大神は「はじまりの子」を生んだ。これがエルフ族の始祖にして二つの神々から生まれた御子。そして、人族の母の誕生となる。」


そこで一度話を区切ると、ベルマーは慣れた手つきで小枝を組み立てて手をかざす。

「あたしがやる!」

そこでアキが自ら名乗り出るとベルマーの組んだ小枝に両手をかざして「むんっ」と一声。

発火した手から小さな火の玉を小枝に落とすと、「えっへっへ~」と満足げに笑みを浮かべた。

「・・・ありがとう。アキちゃん」目を大きく見開きながらベルマーはアキと焚き火を交互に見つめ、それから我に返って急いで火に薪をくべると話を続けた。


「 一方、途方もない距離を離れて、離れて…そうして再び天の大神が神の寝床を見下ろせば、そこには大地が広がっていた。

自らの子を育てる胎盤となるために地の大神は大地という形に変化した。

そこで天の大神も自身の姿を変化させることにした。自らの子のために大地を覆い尽くし、円環を築き、空が生まれた。

そして我が子のために、天は吐息と陽と雫を、地は彩りと恵みと温もりを以て世界を(マナ)で満たした。

これこそが世界の成り立ち。二つの大神の別れ際に生まれた「始まりの子」が両大神の心を射止め、世界を誕生させた物語である。———以上、エルフ族より人族に伝わった「世界歴伝」より抜粋〝世界創生〟なれば。ご清聴ありがとうございました」


いつの間にか手にしていた麦わら帽を胸に当てて語り部は幕を閉じる。

パチパチと鱗が思わず手を叩くとアキも慣れない手つきで拍手を送った。


「一つ言い忘れていたけれど、あくまでこれは俺が知っている世界の歴史。本当に世界の全てを知りたいのならばエルフ族を尋ねるのが一番だろうね」

「あの~、話を止めたくなかったので今聞くんですけど「エルフ」って何ですか?」

「難しい質問だね。うーん。そもそも「エルフ」という名称は二つの大神を繋いだという逸話から人族が〝繋ぐ者〟という意味を込めて呼び始めたのが源流なんだ。あとは好奇心旺盛で叡智(えいち)に優れていることから〝未知の旅人〟なんて呼ばれたりもしている。〈未知を求めるならばエルフに尋ねよ〉って言葉もあるくらいなんだ。」

「繋ぐ者。未知の旅人‥‥どんな方達なんでしょうね」

「緑系の目に弓張の耳、銀糸の髪を束ねる大神の御子…なのだけど、実は俺も()ったことはないんだ。俺の親父は会ったことがあるらしいけれど「会わない方が身のためだ」って言っていたよ」

「もしかして怖い方たちなんですか?」

「いや。そうじゃないけれど親父曰く「ヘキガマガル」って、言葉の意味はよく分からないけどね。」

「・・・癖が、曲がる」

気づかぬ振りを装って手に取った薪を炎にくべる。「ああ、なんて綺麗な火なのだろう」と現実逃避気味に炎の揺らめきを見つめていると隣に座っていたアキが肩にもたれ掛かってくる。

「▲※~ふなふにゃ」

垂れるヨダレ。漏れる寝言。睡魔に抗おうと身体を揺らすアキの姿に妙な悪戯心が芽生えた鱗は(よだれ)を拭うついでに軽くアキの頬をつつく。すると「マ~にゃん…にゃん」と猫みたいな声を上げるものだから鱗も、それを見ていたベルマーも互いに顔を見合わせてクスクスと笑い声をあげた。


「ところで、身体はもう大丈夫かい。ワカツキ」

「は、はい。おかげさまで何とか」

寝かしつけたアキを気遣って囁くように尋ねるベルマーの声に鱗の鼓動が高鳴る。

気づけば夜もかなり更け込んでおり、闇夜の静寂が彼の声を一層引き立たせているようにも聞こえた。

「アキちゃんの手前で言えなかったけれど君がアキちゃんにやっていたマナの供給は下手をすると君の命にもかかわる行為なんだ」

「‥なんとなく、そんな気はしていました」

自分の身体の事だから分かっている、などと無責任なことは言えなかった。

「体の中のマナが尽きれば命も尽きる。それだけは心に刻んでおいて」

「分かりました。先生」

目力の籠った瞳でグッと鱗を見つめるベルマー。負けじと鱗もベルマーの瞳を見つめ続けると沈黙に耐えかねたように焚き木がパキンと大きな音を立てた。

「でも、解決策がないわけじゃない。俺も初めての経験だから絶対とは言えないけれど、とにかく一緒に頑張っていこう」

「はいっ。よろしくお願いします」

互いに握手を、と二人が立ち上がったところで「○※□~しま~す」と後方からアキの声が飛んでくる。

思わず二人してアキの方を見るが、やはり彼女は夢の中。寝息を立てて夢の世界へと帰っていった。

「そういえば、君に渡すものがあったんだ」

アキの様子が可笑しくて二人してクスクスと笑い合っていると、不意に何かを思い出したように自分のリュックを漁り始める。


「はい、これ。渡すのが遅れたけど君のリュックだよ」

そう言って鱗に手渡しながら「中には薬花とハーブの小瓶がそれぞれ入っているから」と色々説明してくれるが鱗の耳には何も入ってはこない。

「これ…私のために?」

渡されたのは皮製の茶色いリュックであった。ベルマーの物より容量は小さく、必要最低限のものだけが入るような箱型のリュック。造形は背嚢(はいのう)に近く、性能のみを追求した何の変哲もない皮のリュックだ。

「女の子に送るような物じゃないかもしれないけれど…」

「いえ、嬉しいです。本当に。一生(いっしょう)、大事にします!」

感謝のあまり思わず大声を上げてしまい、急いでアキの方を振り返ると「‥いっしょう‥いっしょ~」と再び寝言を漏らしていた。

「ありがとう。ワカツキ」

ホッと息をつく鱗にベルマーは礼を述べると、そそくさと焚き火の向こう側へと戻ってしまう。

「えっと、おやすみなさい。ベルマーさん」

何か不味いことでも言ったかと心配になって声をかけると青年は僅かに振り返って一言。

「明日は文字の勉強からやっていこう。時間があれば剣術と魔術も進めていくから…そのつもりで。おやすみっ」

…炎の明かりのせいなのか彼の顔が一瞬赤く見えたのは、きっと気のせいなのだろう。

「よろしくお願いします。先生」

聞き流されても良いぐらいの声量で伝えた後、貰ったリュックを大事に抱きしめる。

カラカラと中で硬いものが擦れあう。中身が気になってリュックを開けようとも考えたが明日の楽しみに取っておくことにした。

炎に太めの薪をくべてから横たわるアキの隣に寝そべって、若槻鱗は両目(・・)を閉じる……


「やすみぃ~‥‥う、マ~ちゃん…」

「うん。おやすみ」


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